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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第八章(終章) 小説
103/104

8-1

 それからほどなくして、日が差してきた。スロープを降り、キャンパス内の小道を歩く。

 あまねは突然思い立ったように、少し小走りで日の中に入っていった。両手を広げてくるくる回りながら、日の光をいっぱいに浴びた。

 振り返って、少し離れたところにいる直陽に向かって、

「ねえ、直陽くん!」

 と叫んだ。

 直陽は思う。あー、あまねさんだと。俺が初めて、雨のバスの中で話した、あのあまねさん。

「どうしたのー?」直陽も叫ぶ。

「私ね!――」

 一拍置いて、また叫ぶ。

「――今、恋してるよ!太陽の下で!」

 ゆっくり歩きながら、直陽はあまねに近付いた。近付くにつれ、あまねが満面の笑みを浮かべていたことに気付く。

「俺も、恋してる」

 ふふふと笑ってあまねはまた直陽と手を繋いだ。

「デートしよっか!」

 あまねはニヤニヤしながら言った。

「あまねさん、調子が戻ってきたね。初めて出会った時――バスの中でのことだけど――あの時の印象と全く同じだ」

「天真爛漫?」

「そうそう」

 あまねはその時のことを思い出しながら、あっち!とばかりに駅の方を指差して、「さ、行こう!」と直陽を促した。



「映画館?」

「うん。なんか恋人っぽいでしょ?」

 直陽は繋いでいる手に意識を向ける。これが恋人なんだなと実感する。

「確かにね。――何か見たいものがあるの?」

「じゃあ、あれ!」

 と言って、あまねは流行りの恋愛映画を指差した。

「今ね、本当に小説が書けそうなの。ただ、あともう一押しのアイデアが欲しくて。付き合ってもらっていい?」

「うん、もちろん」

 券売機でチケットを発行し、決済する。

 入場まで時間があったので、近くのベンチに座った。

 直陽が訊く。

「小説書きってその後どう?合宿でも結構苦しんでたけど」

「実はね、児玉台にいた時、私誰にも相談できなくて、日記や小説を書いていたの。その時の出来事とか、気持ちとか。とにかく書いてた。緋坂台に来てからも少しだけ書いてたんだけどすぐに止まってしまった。ちょうど雨の能力を手にしたあたりかな、何故だが書けなくなってしまって」

「もしかして」

「うん、雨の日の能力が、私の心に作用して書けなくなっていたのかも。でもだから今書けそうなの」

 話しているうちに開場の時間になった。

 入口で学生証の提示をして中に入る。

「あ、そういえば」と言ってあまねが思い出したように話し始める。「『天真爛漫』のことなんだけど、名前と合ってるって言ってたよね。あれはどういう意味だった?」

「だって名前は『あまね』でしょ。だから、天真爛漫の天⋯」

「やっぱり。それは勘違いだよ」と言って、さっき提示した学生証を見せた。

「私は梅雨時つゆどきの生まれなの。だから、朝霧雨音あさぎりあまね。雨の音って書いて、あまねなの」

 直陽は立ち止まり、衝撃から身動きが取れなくなった。

「そういうことだったのか!だからあの時不思議そうな顔をしてたんだ」

「そう。心の声も聞こえたけど、音だけじゃわけが分からなくて」

「あまねさんに出会ってから一番の衝撃かもしれない」

「そんな、大げさな」と言ってあまねは笑った。「卒業アルバム見せた時、見えてたと思ってた。直陽くん以外のみんなは気付いてたかも」 

「全く見てなかった。――ま、でも俺にとってはどっちもありかな。元気なあまねさんと、しっとりと思慮深いあまねさん」

「雨が降ってた方が元気な方だったんだけどね。混乱するね」

「確かに」

 そんな話をして、二人で笑った。

 しかし次の瞬間、あまねは少し真面目な顔になって、直陽に訊いた。

「元気な私と、思慮深い私、本当の私はどっちなんだろう、と思うことがある」

 直陽はそれを聞いてはっきりと答える。

「それはもちろん、どっちも本当のあまねさんだよ。そしてどっちのあまねさんも、俺は大好きだ」

 あまねは一気に上気し、直陽の手を摑んで

「もう!直陽くん、初めの頃と変わり過ぎ!」

 と言って引っ張っていく。

 しかしぼそっと、「でも、どっちの直陽くんも、私も大好き⋯なんだけど」と呟く。

 あまねが恐る恐る振り向くと、直陽はニコッと笑い、

「気持ちを言葉にして伝えるって、本当に大切なことだよね。今それを実感してる」

と言うと、

「本当に」

とあまねも応えた。

**次回予告(8-2)**

カフェのオープンテラスで二人で写真を撮ることに。そこで直陽はあることに気付く。


『晴れた日には、恋をする』完結

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