7-4
B校舎の外のスロープ。
あまねと直陽は少し離れて、向かい合わせに立っていた。
「ごめん、取り乱した」
あまねは一通り泣いた後、我に返った。そして、
「そういえば、直陽くんは、どう?」
と言って、直陽の目を覗き込んだ。
直陽もあまねの目を覗き込む。
「うん、俺も、何も見えない。ずっと目を覗き込んでるわけじゃないけど、最近は見えてなかったかも」
「じゃあ、二人とももう普通なんだね」
「そうなるね」
あまねはそっと直陽の右手を摑み、
「中、入ろうか」
と促した。
直陽は思う。二人手を繋いで歩く。もう自然なことのようになっている。でもいつも繋いでいるわけでもない。結局俺たちはどういう関係なのだろう。
校舎に入ったところにあるベンチに座った。手はまだ繋いでいる。
「私は」あまねが話し出す。「人の気持ちが分かるようになりたいと願い、雨の日の能力を得て、直陽くんに出会い、その気持ちを自分で知ろうと思うようになった」
「俺は」直陽が応える。「自分の気持ちを知ってもらいたいと願い、あまねさんに出会って、人の心が見えるようになり、自信を持って自分の気持ちを伝えることができるようになった」
二人は顔を見合わせた。お互い、ふふっと笑う。
あまねが話し出す。
「でも今は結局、二人とも『普通の人』に戻ったんだね。何の能力も持ってない」
「そう。なのに、最初の願いは、二人とも叶っている」
その時、窓の方を見たあまねが「あ」と言った。「あれ」
そう言って指差した先に綺麗な虹がかかっていた。
「もうすぐ、雨は止みそうだね」
直陽が言うと、あまねは、
「うん、雨が止むことが、こんなに嬉しいことだなんて、知らなかった」
と言った。
あまねは繋いだ手をちらっと見た。
「この雨があがったら、私、恋がしたい」
「誰と?」
「私の目を見れば、見えてくるかも」
あまねは少しイジワルそうに笑う。
「じゃあ、俺も、雨が止んだら、恋をする」
「誰と?」
「耳をすませば心の声が聞こえるかも」
直陽はそう言うと、じっとあまねを見つめた。
あまねも直陽を見つめ返す。
「あまねさんは、俺の気持ち、もう知ってるよね」
「うん。直陽くんも、私の気持ち、知ってるはず」
改めて直陽はあまねを見据えた。
「でもだからこそ、言葉にして伝えたい」
「私も」
一瞬の沈黙の後、ハッと気付いたあまねが慌てて口を開く。
「待って!」
驚いて直陽が「どうしたの?」と訊き返す。
「どっちかが先に言ってしまったら、この物語は完成しない」
「あまねさんらしいや」
「だからね、私からのお願い、というか提案」そう言って直陽を見つめる。「一緒に言おう」
直陽は微笑み返し、「うん、そうしよう」と言った。
「私は直陽くんのことが――」
「俺はあまねさんのことが――」
この一瞬に、直陽は、指揮者のいない音楽のようだと思った。心は読めないのに、互いに目を見るだけで、「その時」が分かるのだ。
目と目を合わせ、二人は同時に今まで積み上げてきた思いを言葉にした。
「「――大好き」」
**次回予告(8-1)**
あまねと直陽は二人で映画を見に行くことに。その入口であまねは「あれはどういう意味だった?」と訊く。




