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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第一章 梅雨

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10/41

1-9

 それからあまねとの「コラボ」が始まった。DMで直陽がいくつか写真を撮って送る。それにあまねが印象をブレストする。その中から物語の核やとっかかりになりそうなものを探していく。

 校舎内のポスターと階段、誰もいない教室、A校舎の吹き抜け、駐車場の車、地下鉄の駅名を示すプレート⋯などなど。どれも趣はあるが、決定打に欠ける気もした。その中から数枚あまねに送ってみる。それに対して、あまねからもすぐに感想やイメージが送られてくる。基本的に大学内か、自宅周辺の写真であるため、突然あまねも知っている情景が多い。返ってくるイメージも特段変わったものもない。

 やはり、人物か。

 たとえ同性であっても、直陽は気乗りがしなかった。直陽にとって写真とは自分との対話であり、自分との意思のない被写体とで完結するものであったからだ。

「どしたん?直陽、浮かない顔して。話聞こかー?」

「やめろ、気持ち悪い」

 部室にいた部員と軽口を叩く。目の前にいるのは中川靖太郎なかがわせいたろう。絵に描いたようなオタクだ。

「実は⋯⋯」

「うんうん」

「⋯⋯なんか、セイタってうらやましいよな」

「なに急に突然?褒めても何も出ないなりよ!」

「⋯まだ褒めてないんだが」

「たしかにー!うらやましいって言った後皮肉言うぱてぃーんなりか?」

「人物を撮ろうと思って」

 靖太郎のふざけた雰囲気が一瞬遠のき、真顔になる。だが、すぐに戻ってくる。

「確かに直陽は人物を避けてきたきらいがあるなり」

「セイタは普段から人物写真挙げてるよな」

「そだね。レイヤーさんたちばかりだけど。あ、うらやましいってそゆこと?一緒に行くなりか?」

「あ、いや!そういうことじゃなくて」直陽は慌てて取り繕う。「どういう気持ちで人物撮ってるのかなって」

「どんな、って。2.5次元の美を切り取るだけなりよ」

「具体的には?」

「原作のあのシーンだあ!とか、これは何話の何分のところのまんまだ!とか」

「お前に聞いたのが間違いだったよ⋯」

「ほんとに直陽、どしたん?」

 そこで部室の扉が開き、もう一人部員が入ってきた。チャラい風貌をした相馬涼介そうまりょうすけ。同じ二年生だ。

「なんか、珍しいね。直陽の話?」

「直陽が人物写真に挑戦するって言ってるなりよ」

「あ、もしかして、この前食堂で一緒に食事してた子が関係してる?」

 やはり見られていたのか。直陽は心の中で頭を抱える。

「ええ、どんな子?どんな子?」靖太郎が興味を持つ。

「なんか、結構かわいい子だったよ?へえ、直陽が珍しいなって思って声掛けようとしたら一緒に自撮りしたりして、ちょっと邪魔しちゃいけないかなって思って観察してた」

「観察するなよ。声掛けてくれて全然良かったのに」

「でも気付いたら急いで二人でどっか行っちゃったじゃん」

「そうなの?そうなの?直陽?」靖太郎は興味津々だ。

「もういいから、全部話しちゃいなよ!」涼介が駄目押しをする。

「その子――朝霧あまねっていうんだけど――文芸部で、小説を書きたいんだって。それで――」

「直陽が主人公なりか?」

「違うよ、話を聞けって」

「シュン⋯」

「小説の核となる着想を得るために、写真を見せてくれって」

 そこまでの話を聞いて、涼介は

「へえ、面白そうなことしてるね」

 と合いの手を入れる。

 涼介は基本的にチャラい。興味は、この創作活動に対してのものなのか、それともあまねに対してのものなのかは分からない。

「初めての共同作業?裏山鹿うらやましか!からの猪鹿蝶いのしかちょう!」

 靖太郎が調子に乗って茶化す。

「二人とも冷やかさないでくれ。本当に困ってるんだ。いや、活動自体は興味深いなと思ってる。ただ――」

「そのためには、苦手を克服して人物写真に踏み込まないといけない、と」

 涼介が先読みして言い当てる。

「なるほどね⋯直陽も悩んでるんでるなりね⋯」

 なんで靖太郎までシュンとしてるんだ。共感性が高くていい奴だなとは思う。

「⋯じゃあ、まず俺でも撮ってみる?」

 涼介のチャラさがこういうときは頼もしい。

「いいのか?」

「別に俺は構わないよ。あまねちゃんに知ってもらえるチャンスかも知れないし」

 本当にチャラい言葉がポンポン出る奴だ。

「下心までは俺はどうこう言わないが、とにかくありがたい」

「あらら、下心って言っちゃってるじゃーん!」

 涼介はそれを含めて楽しんでる様子だ。

 こういうやり取りが居心地よくて、俺はいつもこの二人と一緒にいるのかもしれないな、なんて直陽は思った。



 一年生の新歓時期、いくつかのサークルが必死で勧誘してきた。方々からチラシをもらい、声を掛けられた。この大学ではいくつものサークルがあり、軽いノリの運動系は特に人気がある。いかにも大学生という感じで、そこに流れる新入生も多い。だが直陽はそういうキラキラした世界は当然というべきか苦手で、ほとんど近付かなかった。

 新歓時期というのはキャンパス内の広場などは人でごった返すが、部室棟内は――特に文化部は――その分誰もいない。

 写真部は特に目立った勧誘はしていなかった。しかし、校舎のところどころに貼られた大きなポスターが皆の目を引いた。部員が撮った写真が大きくカラー印刷され、「写真部 部員求む」とだけ書されていた。だが、写真部に入ろうとする者を勧誘するにはそれで十分だった。あとはいかに人を惹きつける写真が撮れるかだった。

 写真部は決して人気のサークルではないが、常に数人の部員はいた。少数精鋭とでもいうべきか。細々ながら、しっかりとその伝統を引き継いできた。ヲタク系、ポップ系、芸術系。そして、それぞれの系統の部員が必ず入ってくるという感じだった。今の二年生でいえば、それぞれ、靖太郎、涼介、直陽といった具合か。雰囲気の違う三人だが、写真という根っこの部分は同じで、だからこそ馬が合うのかもしれない


**次回予告(1-10)**


写真を撮り合う男子部員三人。そこで直陽の意外な才能が開花する。

勢いづいた直陽は、女子部員にも話しかけてみるが⋯。

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