第一話
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ここ近年で大きく環境が変わりつつあるのは、なにもオリンピック開催や新元号、消費税引き上げや、どこぞの大国同士の貿易摩擦だけじゃない。
いつだってマクロ視点で俺たちは世の中を、世界を見るけれど、結局はどっかで諦めている。いや、慣らされていく。
だから俺には反対も賛成もない。言えるだけの知識も教養もないのだ。
ルサンチマンにすらなれない俺からすれば、ミクロの世界で好き勝手に生きてそれなりに悩んだり、それなりに楽しんだりしながら生きられれば良い。
そうして最期には、それなりに満足じゃ、なんて笑って死ねたらそれでいい。右も左も分からないクソガキ、それが俺だ。
そもそも人間というのは赤ちゃんだろうが、百歳だろうが、胸にそれぞれ若葉マークをつけて歩いている。
残念ながら今回で人生五回目です、なんていう“人間のプロフェッショナル”に出会ったことがない。誰だってこの小さな島国の中で迷子なのだ。
ただ乳児と百歳児の違いは知識と経験の差だろう。誰かが言っていた気がする。常識とは十八歳までにつけた装飾品だと。
いわばこの世界を、国を動かしているのはそういった飾り物だったりするわけだが、そいつにどれだけの価値があるかは、俺には理解が及ばない。
発展途上で中途半端な人生初心者の十九歳児は右も左も、ましてや飾り物の価値さえ分かりはしないのだから。
そんなろくでなしでも、時代に慣らされていくのか、それとも当たり前のものとして享受するのかは分からない。
だが、近代のテクノロジーには目を瞠るものがある。それくらいは、分かるのだ。
そうして俺もまた、これから先、そんな近未来的な時代に呑まれて生きていくのだろう。
そしてここ近年で大きく環境が変わってきたのは国や街や人間だけではなく、医療もそうだ。文明の進化と医療の進歩というのは綿密につながっていたりするらしい。
米に文字をかけるほどの精密な機器で4Kモニターを使って手術する時代を、あの漫画の神様は予想していたのだろうか。
◇◆
久乃木 瑠璃。十九歳。男。東京都豊島区、池袋のへいわ通り在住。職場は新宿の怪談屋。その調査員という肩書きと、歴史ある陰陽師の血脈、その式神というありがたい役職をいただいたのは八月の上旬。
金髪を短く刈って、左の下唇の端にはシルバーのラブレットスタッド・ピアス、分かりやすく言えば玉状のピアスがひとつ刺さっていて、1.6ミリほど。右耳には三連のリングピアス。
胸元には神文字の刻まれた薄く細い長方形のペンダントトップがついたネックレス。
あとは最近、伸びてきて鬱陶しくなったのでヘアサロンで両サイドを短く刈り、また金に染めた髪にストーン・アイランドの黒いキャップを被っている。
セレクトショップのセール品の英字のプリントTを着て、黒のスキニーにティンバーのブーツ。相変わらずで申し訳ない限りだけれど、あんまりファッションに興味がないんだ。
他には手の甲にドクロに蛇が絡みついてその胴体をドクロが噛みついているワンポイント・タトゥー。俺を表すにはその程度である。
そして八月の酷暑の中、怪談屋に持ち込まれてきたものは、おおよそ信じ難いものだった。今までのものとは明らかに毛色の違うそれに、俺は驚いた。
医療という、科学の最先端を行く場所で起こる、オカルティズムな事件。あの美の権化のような怪談屋は、この二律背反の咎を、どうさらすのだろうか。
そう――今回は医療従事者の人体発火事件の話である。
死して曰く――物語だ。




