第八話
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夜、十九時五十分。秋葉原の路地にある“隠れ家”――フェアリーズ・ホームは、本日休業のプレートがかかっているものの、シャッターだけは開けてあった。
もちろん、他の客はいない。サラリーマンも気の弱そうなガキも、ケンゴも、シュウヘイも。
いるのは、俺を除いて、オーナーと、妖精たちだけである。
安奈の手引きで、裏口から店内へ入ると、ユナがU字カウンターに、リリがテーブル席に座っていて、そしてオーナーの初村が苦々しい表情でユナの後ろあたりに立っていた。
店内は明かりが消されていて、ロウソクがいたるところに置かれている。紅葉の舞台措置はやりすぎだ。
俺が頼んだのは、今日一日、この店を閉めて人間を集めてくれ、そう言っただけだったのだが、あの魔女のサービスといったところだろうか。
けれどそんな薄暗い光源の中でもロウソクの光で、周囲は見えた。ロウソクの数は二、三本ではないのだ。テーブルというテーブルに置かれている。ただ、それでも白熱灯の明かりほどではないけれど。
初村は相変わらず小柄でスーツに身を包んでおり、ユナはツインテールではなく、黒髪を下ろしていてワイシャツに黒と白のギンガムチェック柄のネクタイ、黒の五分丈ハーフパンツにハイカットスニーカー。
リリはゆるくウェーブした茶髪に、大きな襟付きの白いブラウスにパステルピンクのフィッシュテール・スカート。腰あたるにワンポイントの大きなリボン。靴はナチュラル・ホワイトのパンプスと、今までの制服とは違って、彼女たちの私服はまた新鮮だった。
安奈はパステルパープルの大きな襟やレースのついたワンピースに白タイツ、ナチュラル・ホワイトのリボン付きパンプス。ゆるくウェーブさせたライトブラウンの髪をサイドポニーで結って、ちょうど初めて怪談屋を訪れたときと同じ格好をしている。
「久乃木さん、ちょっと、困るんですけど」
オーナーの初村が俺の顔を見るなりそう言った。俺はいつも通り、半袖のプリントTに黒スキニー。ティンバーにストーン・アイランド。そのひさしの奥からやつを睨みつけて、
「必要なことだからな」
紅葉のようにできたかは分からないが、そのひと言で初村の小柄な身体はさらに小さくなったような気がした。
「ねえ、ルリさん、なにがあったんですか」
客ではなくなった俺に、リリが訊いてくる。俺がここで答えるわけにはいかない。
「もう少しでわかる」
十九時、五十七分。
もう誰も口を開く者はいなかった。安奈はテーブル席に座り、俺は裏口付近のカウンター席に背を預けて腕を組む。
ストーン・アイランドを目深にかぶったままだ。ネックレスはつけてある。なら、あと三分。ここから逃げ出すやつがいればそれを止めるだけが、もう俺にできる唯一の仕事と呼べるものだった。
まあ、このひりついた空気の中で逃げ出せるもんなら、だけどな。
◇◆
二十時ぴったりに――白いワンピースに朱色のロングカーディガンを羽織り、白いパンプスを履いた女は、裏口から入ってきた。
気配もなく、いつの間にかそこにいたように、自然に、そのあまりにも美麗で整った顔立ちの女がいることに、俺以外の全員が息をのむのが分かった。
――咎ざらしの朱猫。
「名探偵、一同集めて、さてといい――って感じだな」
鈴鹿が店の中心に向かう。その通り過ぎさまに俺が覚えたての文言を横目でそう言うと、彼女は笑うこともなく――。
「私は探偵ではありませんよ。ただ――この場で咎をさらすだけです。破滅か、破綻か、破壊か。私にできるのは、咎をさらし、その結末を見届けることだけです。それを救いと見るか否か――それを決めるのは私ではありません」
そう言って、一同に向けて拝むように両手を合わせる。七夕事件では気付かなかったが、この位置からではその合わせた両手に妙なくせがあることに気付いた。
神社仏閣で拝むように合わせた両手――その親指がクロスさせるように、バツの字を描くように組まれていた。なにか意味があるのだろうか。
「それではこれより、咎を――さらします」
怪談屋、いや――咎ざらしの朱猫はそう言うと、一同を見回した。彼女のやわらかく、それでいて否応なく反発を許さない空気に当てられたのか、その場の全員、たゆたうロウソクの明かりの中、妖艶な美女から視線が外せなくなっている。
「――あの、咎ってなんですか」
ユナがその中で、重苦しい空気を打ち破った。鈴鹿は口角を上げて、
「悪いこと――広域的な、きわめて広義な意味ではありますが、そう考えていただければ」
「悪いこと?」
「そうです。今回の案件、安奈さん、いいえ、ここではあえてアイさんと呼びましょうか。彼女に対するストーキング行為をしたこと。そしてその咎をさらすには、外せない役者さんがいらっしゃいます。先月、刺殺され亡くなった佐久間 桐生さまです」
その言葉に、誰もが押し黙った。リリは張り詰めた空気の中、瞳を伏せ、少し眉間にしわを寄せている。
ユナはこの空気の中で不思議そうに首をかしげている。
初村は苦々しい顔で異常なほど汗をかいては、しきりにハンカチでひたいを拭いている。安奈は緊張した面持ちで目を閉じ、唇をキュッと結んでいた。
「さて今回の案件、私の不徳の致すところでありますが、よもや後手に回っているとは思いませんでした。無意識とは不思議なものです。私が今回動いたとき――」
――ひとつの事件が終わり、三つの事件が始まっていたのですから。
鈴鹿はそう言うと店内を見回す。誰ひとり、口を開く者はいない。ひとつの事件が終わり――三つの事件が始まっていた。それは――
「どういう意味だ」
「まず、佐久間さまが刺殺され、亡くなりました。それがひとつの事件の終わりであり、第一の事件の始まりを意味しています」
鈴鹿は続ける。
「しかし、佐久間さまは亡くなってからというもの、アイさんの部屋――ベランダに出るようになりました。それが、第二の事件の始まりです」
俺の問いに、滔々と語りロウソクを眺める。火の光は彼女を一層美しく見せる。妖しく光る、咎ざらしは話を区切り、
「このお店の装飾は紅葉ですね」
そう言ってちらりと俺を見る。小さくうなづく。
「彼女なりに気を遣ってくださったようですね。これで彼は――出てくることが許されます」
「で――出てくる、って」
反応したのはリリだった。声も手も、震えている。
「そのままの意味です。彼はこのお店で出入り禁止を告げられています。けれど、今ここにはその結界が薄れている。これなら――彼も出てきやすいことでしょう」
「つっても、電気消してロウソク立てただけだろ。こんなもんでその結界とやらは破られてんのか」
俺はカウンターに腰をつけたまま言う。
「言ったでしょう。薄まっていると。だから呼び込みます。彼はもう、このお店の前にいますよ。あとはこの薄まった結界を壊して、彼がここに来ればいいだけです」
「あの、どうやってするんですか?」
出入り口からすぐ――カウンター席の真ん中に座るユナが、恐る恐るといった感じで手を挙げて当然の疑問を呈する。
「簡単ですよ。このお店は、メイドカフェであり、彼はこのお店に通っていました。つまり、出入り禁止を解けば、問題ありません。それにはアイさん――やはりあなたが、一番でしょう。やり方は、いつも通りに」
安奈は緊張気味にテーブル席から立ち上がる。震えているのが分かる。カウンターの中にいた初村は「おい」といったが、俺が睨んで黙らせる。
出入り口から遠いテーブル席のリリは青ざめさせている。U字カウンターに座るユナは事態を理解しているのかよく分からない。
「おかえりなさいませ――佐久間ご主人さま」
両手を腰あたりに揃え、安奈はお辞儀をした。いつも通り、仕事でする仕草をそのまま――。
「きゃああああああああッ!」
その瞬間、ろうそくの炎がたちどころに盛って、太ったTシャツの男が出入り口付近に現れ――店内に大きな悲鳴が響いた。
リリは立ち上がり、ユナは目を見開き、初村はガタガタと転びそうになりながらカウンターにしがみついている。
佐久間 桐生は腹から腰元にかけて赤く染まったシャツに、垂れた血の散ったストーレートデニム。
目は怒りを滾らせ、口からは泡を出している。ぶつぶつと、なにかを訴えるような言葉を口の中でつぶやいているが、聞き取れない。
「紅葉の仕掛けは、佐久間様のためだけではない。あなた方に見えるようにするためでもあります」
鈴鹿はうろたえることなく、静かに告げる。
やつはなにかをつぶやいているかと思えば――突如として女に向かって襲いかかった。割り込み、俺はやつの前に立ちふさがる。
その瞬間、俺の胸元がバチリと爆ぜて佐久間ははじかれたように後ろへと派手に転んだ。俺も反動で後ろにはじかれたが、そこに座るユナや初村に当たらないように後ろ手でカウンターの端をつかんだ。
「やっと会えたな、佐久間くん」
俺は精一杯、笑みを浮かべて声を絞り出す。
『僕のアイちゃんを――横取りするな』
やつはなんとか立ち上がろうとして――しかしそれも上手く行かないようだ――しゃがれた声でそう言った。
このネックレスが一体どんな効果を持っているのか、俺は実際目にしても分からない。けれど、そんなことは、あとまわしだ。
「佐久間さま。あなたの咎をさらします――」
涼やかな声が聞こえた。その場違いな美しさ――ろうそくの明かりも伴って、異界に紛れ込んだ錯覚を起こす。そう、ここはもう現世ではない。
幽世にもっとも近い――異界なのかもしれない。
『アイちゃんは、僕のものだ』
「あなたは、ストーキング行為を行いましたね。毎日、毎日、恋文を出したはずです」
『だから、なんだ。僕の愛を伝える。当然のことだ』
「ええ。たいへん恐縮ながら、拝読させていただきました。けれど仲睦まじい内容とは言い難いものです。中には彼女に対し、女性性を侮辱する内容までありましたね。それに監禁を匂わせる文言も。一文を抜き取らせていただけるなら、“やらせてくれないなら、自宅に閉じ込める、どれだけ金をつぎ込んだと思っているんだ”――とても愛のある言葉ではありません」
俺はカッときた。彼女になにを言わせるんだ。睨みつけるが、佐久間は無表情に鈴鹿を見ている。当たり前のことを言っただけ――そんな感情が透けて見えるようだ。
「他にも、つけまわしましたね。そしてゴミの日にアイさんの出したものを持ち帰っている。空になったシャンプーや――その、経血のついた――」
「鈴鹿」
俺は聞いていられなくなった。その美貌で、そんなことを語らないでくれ。切にそう思った。
現代の三大美女にランクインして、その美を独占するような女の口から――眉間にしわが寄るほどの男の欲望を口にされるのは。
別に鈴鹿に限った話じゃないけれど。惚れた人間からこぼれる、そういう言葉を聞きたくないのは、きっと俺だけじゃないはずだ。
しかし鈴鹿は俺を無視して続けた。
「経血のついたナプキンや、飲みかけのペットボトル。そういったもの収集して、あなたは自らの欲望を満たしていた。そしてこの店を訪れ、彼女と話をする。帰り際にあとをつけ、明かりが消えるまで、あなたは監視していた」
『見守ることの、なにが悪い』
佐久間の影はうすく、しかしそれでも語調は強い。この世のものではない――けれど、いつか鈴鹿がいっていたように、やつも死してなお矜持、いいや――エゴを持ち合わせている。
「あなたは一度でも、彼女に想いを伝えましたか」
『何度でも、伝えたさ』
「安奈さんに直接、ですか」
『あれは人間の仮の姿だ。僕はアイちゃんが好きなんだ。でも、この店は俺とアイちゃんの間を引き裂いた。あの女もだ』
「ならばなぜ、安奈さんの使ったものを集めていたのでしょう」
『僕が持って帰ったのはアイちゃんのものだけだ。アイちゃんが人に見られたくないだろうものを、僕がちゃんと持ち帰って管理しているだけなんだ』
無駄だ、俺はそう思った。ストーカーに正論は通じない。やつらは俺たちとは、一般人とは――また違う世界を見ているのだから。
自分の作り上げたアイという理想の人物を。妖精の、世界を。そこに普通ならば矛盾を覚える。ストーカー本人以外は。
いつか鈴鹿が言っていた“自我の世界”――やつらはそこにいる。そこで、生きているのだ。
「ならば、ここにアイさんがいます。今度は邪魔をするものはいません。まして、邪魔をさせたりもしません。今夜だけですよ。こんな機会があるのは」
そう言って鈴鹿は、安奈を横目で見た。安奈は、すう、と息を飲み込んでから声色を変える。
「――あのあの、佐久間ご主人さま。大事なお話があるって聞いたのですが……お話を、その、聞かせてくれませんか」
安奈は――アイへ、妖精へと変わる。それも瞬間的に。これがプロ意識なのか。俺は幽霊相手にでも、ひるむこともなく、いつも通りの接客態度をとれるだろうか。
いいや、出来ないと、本能で分かっている。
『アイちゃん――僕は』
佐久間が立ち上がり、一歩、踏み出す。
「ルリ」
ささやくように、鈴鹿が俺に目配せをする。分かっているさ。この場面を、邪魔するやつは俺が止める。
だから、俺は安奈の斜め後ろに立つ。動かれれば、面倒なことになる。これ以上、複雑に絡み合うのはごめんだ。
『僕は――』
歪んだ愛情。隘路に紛れ込んだ感情は出口さえ見当たらない。
それはやがて憎しみに変わる。愛憎が混ざり合い、渦巻き、隘路に満ちて、その果てには――なにが見えるのだろうか。
『僕は――』
「やめろ」
声がした。俺は足に力を入れて、両手を伸ばす。まずいな。この場面で――
『僕はアイちゃんのことが』
ストーカーは変態的な行動をとる。その心理は俺にはとうてい理解が及ばない。
さらに言えば、その愛情表現も、俺には分からない。正論も通らない。違う世界ばかりを見ている。矛盾さえ超越した隘路の中で。
だが今、この場で鈴鹿は“安奈”ではなく“アイ”と呼び、安奈は“アイ”とし佐久間に接することで――その言葉で――佐久間の理想とするものと同じ世界を構築したのだ。
それも、俺たちにも見えるように。その世界に入り込むことが出来るように、鈴鹿は作り出したのだ。佐久間の、自我の世界を。
だから、佐久間はようやく、自分の思う世界で、素直になろうとしている。
変態性を脱ぎ捨て、仮面は剥がされ、言葉足らずな小心者が勇気を出して、まさに文字通り一世一代の告白をしようとしているのだ。
その世界に入り込んだ俺たちには、そういう風に見える。
だからこそ――今はそれをぶち壊されるわけにはいかない。
『僕は、アイちゃんのことが好きなんだ――だから』
「やめろおおおおおおおッ!」
「ルリッ!」
鈴鹿が声を上げる。俺の後ろから手が伸びてくる。その手に握られているのは果物ナイフだ。
二の腕を切りつけられ、鋭い痛みが走るが、俺は左手でその手首を掴んで右ひじを腹に叩き込む。「うぐッ」という声が漏れる。加減したとは言え、自分のモットーに反することはしたくないものだ。
「大人しくしてろ。次はあんたの番だ」
『アイちゃん、好きだ。付き合ってください――』
「やめろ! その魔王の言葉に耳を貸してはいけません姫! 魔の者の言葉には呪力があるんですッ」
喚きたてるそいつに向き直って、胸ぐらを掴み、カウンターに押し付けて睨みつける。それでも――やつは喉が裂けんばかりに怒鳴り続けた。
「魔の者との契約なんて、転生前の悲劇を忘れたのですか!」
「黙りなさい」
鈴鹿が静かに一喝する。けれど、暴れて俺の横腹に膝が入る。殴るわけにはいかない。制止するのが精いっぱいだった。狂ったように、こいつもまた、隘路に入り込んでいる。安奈の蜜に、アテられて。
「配下まで寄越しやがって! 汚い手を使いやがって!」
「――静かにしろッ」
あまりに暴れるものだから、俺は思わず態勢を崩し、そいつを床に投げ出す形で転んでしまった。
そいつは――狭い店内で果物ナイフを握り締め、低い体勢で走り出そうとする。俺は踏み込んだ一歩に足を差し込んで転倒させると、腕を背中にまわし、いつか不良刑事に習った方法で床に押し付ける。
「離せ! 貴様も手先か! ここは悪魔の巣窟だ! 姫――逃げてください!」
「鈴鹿ッ」
俺は手に負えないことを自覚して情けないことに鈴鹿を見た。鈴鹿は、ふ、と笑みを浮かべるとこちらにやってくると、押さえているやつの耳元に、
「――騎士道をお忘れですか。姫君の御前ですよ」
そうつぶやいた。途端に暴れるのをやめて呆けたような表情になる。
鈴鹿は言葉だけでこの狭い店の中に、ふたつの世界を構築した。佐久間の世界と、こいつの世界を。俺は瞠目して、鈴鹿を見る。
「しばらくお待ちなさい。じきに謁見し、言葉を交わす時間がやってきます」
そう言って佐久間たちに向き直った。
『アイちゃん、僕と、付き合ってください』
しばらくの間。静寂が降りてきて、安奈――アイは、深々と頭を下げた。
「――申し訳ありません、佐久間ご主人さま。あなたとお付き合いさせていただくことはできません。私は妖精。誰かと契りを結ぶことは、出来ないのです。ご主人さまからのありがたいお言葉を賜っておきながら、この無礼なメイドをお許しください」
そう言った。佐久間は暴れるかもしれない――俺は押さえつけながら、緊迫するこの場面でどう動くかを、悪い頭をフル回転させている。いつだって、俺の頭のキャパは狭い。まるでこの隘路のように。
だが――
『そう、か。残念、だ。本当に』
佐久間は悲しそうな表情をしていた。
俺はやつの本当の顔を知らない。エゴイズムな愛情に憑りつかれ、ストーキング行為をおこなった変態であると、そういう認識しかしなかった。けれど、やつが見ている世界、つまり自我の世界では、佐久間はそういうやつなのだ。
「申し訳ございません」
『悲しいな。でも、君を愛している。それを伝えられて、良かった』
佐久間は、そう言うとうっすらと消えていく。笑顔――だったように思う。涙が頬を伝っているようだったが、その口角は、優しく上がっていた。そんな風に見えた。
「――どうなったんだ」
見えなくなってから、俺が訊くと、
「幽世へ逝きました。本来であれば、ここまで複雑化する問題ではなかったのです。彼は一般常識という中にあって偏執的かつ歪曲した愛情ではありました。しかし彼自身の構築した“自我の世界”ではそれが平常だったのです」
安奈は目に涙を浮かべていた。カウンターから出てきたオーナーに支えられて、テーブル席に座る。
「アイさんも、ご苦労様でした。少し、気をお安めください。さて――ここからが第三の事件となります」
鈴鹿は安奈に労いの言葉を告げてから、俺たちに向き直った。その目は、その口はもう笑ってはいない。まるで彫刻のように冷たい美しさをもって、俺が押さえている彼女を見ていた。
そしてやはり親指をクロスさせるようにして、拝むように両手を合わせてから――
「次はあなたの咎をさらします――」
「――いいですね、ユナさん」




