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第18話王子様はアイドル

 蓮が一方的にボコボコにされてる頃、リオとルーシュは街にある、少し古惚けた屋敷に居た。

 

「ここは誰の屋敷なんだ?」

「名目上は廃墟。実際は僕の隠れ家として使っている場所だよ」

 

 屋敷の外見は古惚けているが、中は埃も無く、綺麗になっている。調度品の類も揃っており、外見とは全く違う。

 

「それで、用件は何だっけ?」

 

 ルーシュはソファに座りながらリオにそう聞く。

 

「少し大事になってしまった事を謝ります。私の用件は来月に控えている学園への入学の時に、あの2人と別にして頂きたいのです」

「なるほどね~。一応礼儀や言葉は弁えているみたいだし、考えてみても良いけど、間違いなく無理だろうね」


 ルーシュは一瞬悩む様な素振りをするが、屈託のない笑みでそう答える。

 

「僕に話を持って来たのは正解だろうけど、相手が悪いね。学園都市ではあまり身分による権力が関係ない分、実力がモノを言う。つまり、2人を怒らせるより、君1人を丸め込んだ方が良いと向こう側は決断するよ」

 

 ルーシュが言うように、王国の貴族達にとって二人は十二歳にして手を出してはいけない人物となっている。

 どちらも年齢からは想像できない力を持っており、フィロソフィアは殲滅力。キャロルは個の実力として名が知れている。

 そんな人物に逆らう気のある人間など王国の中には居ないのであった。


 余談ではあるが、個の実力としてキャロルは強いとされているが、結局の所はフィロソフィアの方が総じて実力は高い。キャロルが何故そう呼ばれているかは、騎士団全員を相手取ってボコボコにしたからである。

 例外としてアッシュとは引き分けとなっている。


「それに、君は書類上はアッシュの義息子だが、結局は孤児だ。誰も君の言う事なんて聞いてはくれない」

「そこをなんとかは……」

「あの2人に目を付けられたのが運の尽きさ。あっ、国外逃亡なら手を貸せるよ?」

「そこまでは大丈夫です。一応学園自体には興味がありますからね。ちょっと我慢すれば……」


 リオ沈痛な表情で、学園都市で起こるであろう問題や事件について思いを馳せた。

 

「まあ、多少の事ならどうにかしても良いけど、あの二人が関わる事は諦めた方が良いよ。僕は諦めたから」


 王子は可愛らしい笑顔を浮かべて軽快に笑う。

 リオは今更ながらこの人物が本当に王子なのかと疑問に思う。

 動きやすいドレスを見に纏い、手足はスラっとしているため、どこからどう見ても女性にしか見えない。

 ルーシュはリオの視線に気付き、口を開く。

 

「この格好が気になるのかい? ああ、その顔を見れば分かるよ。僕って昔から中性的でさ。色々あって学園都市とかでアイドル活動をしてるんだ」


 リオはアイドルと言われて首を傾げるが、直ぐに知識にその事が有ったので、「ああ」と言って頷いた。

 

「まあ、この話は君が向こうに行けば勝手に耳に入ってくると思うよ。結構有名だからね」

 

 ルーシュはソファーから立ち上がると、ふらっとよろめき、どこからか持ち出した剣でリオに斬り掛かった。リオは多少驚きながらも一歩下がって剣を躱す。

 

「やっぱり避けるか~。まあ、2人が気に掛ける位だから当たり前か」

「何のマネですか?」


 リオは本当にこの国の貴族は戦闘狂しかいないのかと内心愚痴る。だからと言って流石に一国の王子相手に何かを出来る程リオの肝は据わっていない。

 

「強いて言うなら蓮を倒した君の実力を見たかったからかな。結構本気で振ったのに掠りもしないなんてね」

 

 ルーシュは口を窄めていじけた様な顔をする。ルーシュとしては掠り位はするだろうと思って振ったが、結果は空振り。多少思う所はあるが、あの2人が認める何かがあるのだろうと考えた。

 だからと言って、見た目も魔力も貧弱な子供にあっさりと避けられるのは王子としての沽券に関わる。

 ならばと、ルーシュは剣をソファーの方に放り投げた後、スカートの下からナイフを2本取り出してリオに投げる。


 リオは投げられたナイフをブリッチして避けるが、ルーシュは避けられたのを確認すると、床の一部を足で押す。

 そうするとガコッっと音がすると共に床の一部がへこみ、リオが背を向けている床から木の杭が飛び出してくる。

 リオはブリッチしてる状態からバク転して木の杭を避け、更に着地点に空いた穴を空を蹴って避ける。


「この屋敷はびっくり箱か何かなんですか?」

「一応僕の別荘だからね。防犯は色々とあるんだ。それにしても、最後空中を蹴ってた気がするんだけど? 魔力も感じなかったしどうやったの?」

「黙秘しておきます」

 

 王子が言った通りに、単純に空を蹴って避けたのだが、空を蹴るなど普通は出来ない。普通は出来ないことやった結果、リオは足の痛みを堪えていた。

 

「釈然とはしないけど、全部避けるとは思わなかったよ。まあ、今回の事は僕の迷惑料と言う事にしていて。きっと蓮はボコボコだろうからね」

「・・・・・・彼については後で謝っておきます」

「うん、それじゃ僕はこれで失礼するとするよ。あっ、良かったらこれ上げるよ」

 

 ルーシュはそう言って胸元から一枚のサイン付きの写真を取り出し、それをリオに渡した。

 リオが写真? と疑問に思ってる間にルーシュは屋敷の外に向かって行ってしまった。

 

「まあ、分かっていた事ではあるけど、無理だったか」

 

 残されたリオは溜息と共にその言葉を吐き出した。そのを言葉を聞く者は……。

 

「何辛気臭い顔をしておるのだ」

「……なせ王女様が此処に?」

 

 何時の間にかキャロルが先程までルーシュが座っていたソファーに座っており、機嫌が悪そうな顔でリオを見ていた。

 

「城に居たら面白いものが見えたのでな。兄上の事だから此処に来るだろうと思って待伏せておいたのだ。さて、それにしては面白い話をしていたではないか」

 

 リオは「あっ」と声を出し、事態の深刻さを理解した。簡潔に言えばリオはキャロルとフィロソフィアろ一緒に学園に行きたくないと言ったようなモノだ。それを聞いていたキャロルがどう反応するかなど考えるまでも無い。


「まあ、たかが平民が恐れ多いのは分かる。だが、お前が心配するような事はそうそう起きないだろうから心配するな」

「それは何故ですか?」

「私もソフィアも権力としても個の力としても高いものを持っている。だが、持っているからこそ下手に顰蹙を買う様な事はしない・・・・・・まあ、ソフィアは知らんがな」

 

 あっけからんとキャロルは言い。ソファーから立ち上がるとルーシュと同じ様に外へと向かう。

 先程キャロルが言ったようにキャロルがしでかした不祥事は2回だけであり、基本的に自ら行動はしない様にしている。

 だがその結果として貴族とのパーティーや招待をすっぽかしたりしているので、その面では悪感情を持たれている。

 その自由な振る舞いに感銘を受けている一部の者も居るが、総じてキャロルの評価は良いとは言えない。


 対するフィロソフィアは基本的に引きこもっており、山を消し去ってからはアランの手によってパーティーや招待と言った物が来ないようにしている。

 リオの為に黒い扉を召喚したり、裏で色々とやってはいるものの、表舞台には全く顔を出していないので気味悪がられている。

 そう言った面をリオは知らず、単純に二人の身分から最悪のシナリオを想定した結果が、今回の行動につながったのだ。

 

 だからキャロルはリオに心配するなと言った……あくまでも自分の事はとはだが。

 キャロルとしては荒波立たない学園生活を望んでおり、そのスパイスとしてリオを使おうとしているに過ぎない。

 後は同じ王族として、良く分からない事をしている兄であるルーシュ絡みで、問題が起きればリオを盾にして乗り切ろうと考えている位だ。


「ではまた後で。それと、後々ソフィアが何か言ってくるだろうが頑張れよ」

 過ぎ去って行くキャロルの背中は年齢に見合わずとても大きく見えると、リオは思った。



 

1


 

 


「まあ、こんな所ですか」

 

フィロソフィアは己の手でボコボコにした蓮を前にしてそう呟いた。

 

「……やりすぎではありませんか?」

 

「見た目よりも怪我自体は酷くありませんわ。興も冷めましたし、帰りましょう」

 

 蓮に気を掛ける事も無く、フィロソフィアはトボトボと帰り始める。

 コローナはそれを見て先程まで笑いながら楽しんでた人が何を言うんだ、と言わんばかりに苦い顔をした。


「ああ、それと、来月以降の学園の事ですが、貴女には臨時講師として行って頂くことになりましたので、よろしくお願いしますわ」

「はい?」

 

 コローナはそんな事は初めて聞いたと言わんばかりに、気の抜けた声を出した。

 この話自体は既にアランに話はついているのだが、アランはコローナに話すのを忘れている。

 なので、コローナは今初めて臨時講師の話を聞いたことになる。

 

「あら? アラン団長から話はいってませんか? 既に一カ月位前の事になりますが」

「……後で聞いておきます」


「一応知らなそうなので教えますが、貴女が選ばれたのは私のせいではなく、アラン団長の推薦になります。理由は王女の護衛兼内情の調査だそうです」

 

 コローナは大きくため息をつき「あの団長」と愚痴を吐いた。

 

「それと、リオについて何か報告はあるかしら?」

 

 フィロソフィアは先程までの話を全て放り投げ、コローナに問いかける。

 

「これと言って新しい事は何も。 強いて言うならば彼から妙な気配を感じる事でしょう」

 

「ああ、それは気にしなくて大丈夫ですわ」

 

 コローナは先程と同じ様に気の抜ける様な返事をして、歩き去って行くフィロソフィアを見送った。

 その後コローナはボロボロの連を担いで騎士団の医務室へと運び、後には魔法で荒れ果てた庭と崩れた城壁だけが残った。


 この修理代金は色々と伝え忘れ、激怒したコローナに怒られたアッシュが負担した。


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