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第14話化け物の生まれた日(幕間)

 どうして皆は私を聖女や神童と呼ぶのだろうか?

 

 幼き日のフィロソフィアは常にその事を考えては鬱屈とした日々を過ごしていた。

 

 五歳の頃だった。親に連れられて素養測定の為に魔術協会本部へと足を運んだその日、フィロソフィアの人生に大きな影響を与えた。

 

 素養測定とは魔法に対しての適正と、現在の魔力量を測定するものである。

 

 魔法の適正を測るとは言うものの、魔力さえあれば全ての属性を使う事は一応可能である。

 

 しかし得意不得意があるので、それを分かりやすく見る事を出来るのが素養測定である。

 

 また、魔力量も現時点の物なので、一つの目安でしかない。

 

 魔力を持たない者もそこそこ多く、多少は血縁に左右される。

 その為に貴族は魔力量が多いもの同士の結婚を推奨しているのだが、フィロソフィアの親は二人とも魔力を持っていなかった。

 

 だからどうしたとなるのだが、世間的に貴族は魔力を持ち、魔法を使う事が当たり前と認識されている。


 そのせいかフィロソフィアは苛めに遇っていた。


 大人達はフィロソフィアに魔力がある事が分かっているのだが、所詮は子供だ。


 フィロソフィアの親に魔力が無いのだから、フィロソフィアも無いのだろうとその事で苛めていた。

 

 魔術協会本部にはフィロソフィアの他に貴族の子供が八人ほど来ており、時間になり次第、順番に測定を始める。

 

 一人、また一人と測定をしていき、一喜一憂する子供達。

 

 火の魔法を頑張るんだと親に報告する子も居れば、魔力が少なくて泣きそうになっている子も居る。

 

 遂にフィロソフィアの番になり。フィロソフィアは恐る恐る測定機に触るが、測定器は全ての色が異常な程光輝き、魔力を表す数値は振り切れてしまった。

 

 フィロソフィアはあまりの眩しさに直ぐに手を放してしまう。

 

 見ていた周りの大人達はフィロソフィアの測定結果に固まってしまうが、直ぐに「神童だ!」や「聖女の再来だ!」等とフィロソフィアを囃し立て、フィロソフィアが何か言うよりも早く、外堀が埋まっていった。


 それからのフィロソフィアの生活は一変し、腫物を扱う様に接しられるようになっていく。

 

 高名な魔術師や、勇者と呼ばれる剣士等に教わり。フィロソフィアは有り余る魔力と魔法の才能を開花っせていった。

 

 強くなるに連れて、元々少なかった友達は誰も居なくなり、大人達に振り回される日々が三年続いた。

 

 気弱だったフィロソフィアは大人達の言葉に逆らう事が出来ず、徐々に言い表すことの出来ない感情が溜まっていった。


 そして、フィロソフィアに二度目の転機が訪れた……。


 その日は偶々訪れていた地方都市の山で、凶悪な魔物が出たと言う知らせを受けたのが事の始まりだった。

 

 フィロソフィアはまた魔物を殺されなければいけなのかと、嫌悪感を抱きながら、複数の付き人と共に山に向かった。

 

 その山では竜種と呼ばれる魔物が暴れており、フィロソフィアは悪戦苦闘の末、討伐する事が出来た。

 

 何時もなら周りに気を使って戦うフィロソフィアなのだが、その時は周りに気を使っている暇も無く。


 竜種を討伐できた事で、気が緩んでしまった。


 山の麓に置いてきた付き人の元に戻ろうとした時、茂みの方から草木の擦れる音が聞こえ。

 

 フィロソフィアは気になってそちらの方に近づいて行った。

 

 近づいて行くと、啜り泣く様な声が聞こえ。フィロソフィアはまさかと言う思いを抱きながら茂みをかき分けた。

 

 そこには兄妹と思われる子供がおり、妹の方は大きな木に押しつぶされて死んでいたのだ。

 

 兄と思われる子供は、フィロソフィアが草木をかき分けた時の音で気が付き。フィロソフィアを涙を流しながら睨んだ。

 

 だが、子供はフィロソフィアを責め立てる事はしなかった。


 子供も凶悪な魔物がこの山に生息しているのを知っており、山に行っては行けないときつく言われていた。

 

 しかし、大丈夫だろうと安易に考え、妹と山で遊んでいたのだ。

 

 その結果フィロソフィアと竜種の戦いに巻き込まれ、逃げてる最中に倒れてきた木に、妹が押しつぶされてしまったのだ。


 残された兄は自分が悪いと分かっているから、フィロソフィアを睨むばかりで口を開こうとしなかった。

 

 だが、それがいけなかったのか、はたまたタイミングがいけなかったのか……。


 フィロソフィアの心に亀裂が入る。

 

 人の為になるのならばと、自分を押し殺して生きてきたが、その結果がこれか……。

 

 何が聖女。何が神童だ。私は頑張っていたのに。私は皆の為に頑張っていたのに!

 

 フィロソフィアの感情はぐちゃぐちゃに混ぜた絵の具の様に淀んだ色となり、それと共にフィロソフィアの魔力は膨れ上がっていく。


 普通に遊んで、普通に笑って、普通に家族と暮したかった。ただそれだけだったのに……。


 「もう、疲れましたわ」

 

 膨れ上がった魔力は徐々に力場となって場を支配していき、フィロソフィアの一言によって大爆発を起こした。

 

 辺り一帯は吹き飛び、兄妹は勿論、麓に居るはずの付き人すら巻き込んだ。

 

 その爆風は地方都市の方まで届き、外門を吹き飛ばす程だった。


 山だったものは更地となり、周りには見渡すばかりの平野が広がるばかりだった。

 

「ああ、全て思い出しましたわ」

 

 フィロソフィア……フィロソフィアだったものは呟いた。

 

「ふふふ。とても、とても愉快ですわ」

 

 八歳の子供とは思えないような笑い声を上げながら、フィロソフィアはその場で天を見上げる。

 

 その頬は紅潮し、先程までと打って変わって満面の笑みであった。

 

「ありがとう私。さようなら私と言った所ですわね」

 

 フィロソフィアは周りを見回し、全てが消し飛んだのを再確認する。


「私が転生出来るだなんて、本当に私は神だったのかもしれないわね……今のは無しにしましょう」

 

 先程までフィロソフィアだったものは溜め込んでいたストレスと感情の爆発により自らの殻に閉じ籠り、その代わりにリオによって殺された神を名乗る者の意識が浮上したのであった。

 

 だが、あくまでも元はフィロソフィアであり、その思想や思考等は影響を受けてしまっている。

 

 なので神を名乗る者の頃に比べるとポンコツ気味になってしまっているのだ。

 

「さて、流石にこれでは兄妹も付き人達も塵となってしまいましたが……魔力の暴走と言う事にしておきましょう」

 

 フィロソフィアは頷き、山だった平野を背にして地方都市に戻って行った。その背は気弱な少女の物ではなく、少女の皮を被った化け物のだった。

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