高難度個体を討伐せよっ!!
5月下旬、長期離脱者や活動辞退者が増えてきちゃったけど(今、参戦してるの160人くらい)、平均レベル20に達した私達スプリングウッド支部の冒険者達は、保留になっていたグリムツリー残留物の内『高難度』にカテゴリーされていた個体の討伐に乗り出した。
私のミカゲ隊とディンタン隊が担当したのは『黒樫』と呼ばれる大木の精霊『トレント』が寄生された個体。
灯台のような巨体で、モンスター化した眷属の木の下位精霊『エント・凶』の大群なんかを従えていてかなり厄介っ!
仮に封印されていたスプリングウッド市とカシナート市の中間辺りのモンスターだらけになった森に私達の他の5隊と突入するっ。
決定力の高い私達と、複数の隊の魔法使いタイプ選抜の合同隊と回復術選抜の合同隊は控えに回り、残り3隊が先行して露払いを引き受けてもらった。
盾や武器が砕けるくらい露払い組に奮戦してもらい、森の深部(黒樫を中心に1つの林の木が全てモンスター!!)を見下ろせる高台までたどり着くと露払い組とは交代。後方で回復隊にフォローしてもらった。
防毒呼吸補助マスクをした私達2隊が前衛で様子を伺う中、魔法使い選抜の5人はフルパワーで連結して大きな魔方陣を組み、強力な攻撃魔法を発動した!!
「コメット・ストライクっ!!!!!」
遥か上空に円状の転移門が出現し、そこから星の世界から招かれた小隕石群が降り注ぎ始めたっ!!
轟音と激しい震動と共に超高速の燃える星々に撃たれ、激突の爆発に巻き込まれてゆく黒樫とエント・凶達っ!!
「YOっ!! 魔法隊はヤベェからとっとと下がれ! こっから雑魚は無視だっ、黒樫を狙うぜっ?!」
「了解っ!!」
「マティちゃんは今回、黒樫に張り付いてからのガードに専念してね!」
「ケムんっ、守りの刻っ!」
比較的動きの少ない射撃タイプのゼンの頭に乗っているマティ3世。
「じゃあ、最初は僕の仕事ですねっ。コールっ!『デク6号・フルアーマー』っ!!」
パルシーは地面に大きな魔方陣を展開して魔工飛行挺を換装したペリカン型のマシンゴーレムを召喚した!! 私達もすぐに乗り込んで、シートベルトを締めるっ。
「浮力! ステルス結界展開っ!!」
機体は迷彩のバリアに守られながら浮き上がった。
「突貫しますっ!」
デク6号は急加速して高台を飛び出し、炎上しまくりの生き残りのエント・凶達のただ中に飛び込んでゆく!!
迷彩でも近付けは反応されるし、単純に障害物としても邪魔!
パルシーはデク6号を操って呻きながら炎上し、時に枝の腕で殴り付けてくるエントを避けながら(ちょいちょい結界に掠ってるよっ)中心のやはり燃える黒樫に迫るっ!! というか黒樫に激突しそうっ?!
「パルシーっ?!!」
「わかってますっ!!」
結界を全面に集約しながら機底を前方に向けて、機底のバーニアを吹かして無理矢理減速するパルシー!
「嘘ぉーっ?!」
「YOーっ?」
「ケムぅっ??」
結界を激しく黒樫の『幹』に激突させ、周囲の炎を吹き飛ばしてどうにか停止できたけど、もう飛行挺部位はボロボロだった。
「放棄します。皆は落下しないように!」
「了解っ!」
パルシーに促されて降りて、私は空中移動できる『花道』のスキルを発動し、他のパルシー以外の皆は足に魔力を集めて、黒樫が「オオオッッ!!!」と呻きながら炎と身体の損傷に苦しみ揺れの激しい幹に張り付かせてどうにか姿勢をキープした。
背に乗るデク6号から飛行挺部位を切り離して落下させるパルシー。
「マティ! お願いっ」
「ケムんっ、『マナ・スケイル』っ!!」
鱗状の魔力の障壁で私達を守り始めるマティ3世っ。
「ミカゲ! コアの位置はわかるよな? ルート取り頼んだYOっ」
「やってみる!」
私はハイエーテル5本を対価に、左腕の青い腕時計を構えた。
「オールファウンテンシールド! スキル、『オロチ咬み』っ!!」
龍の形の水の激しい流れを作り出し、直感したコアの位置に通じる損傷部位へ向けて放った!
水の龍は途中の炎やまだ生きてる黒樫に巣くうモンスター達を吹き飛ばしながらコアに向けて突進して、コアの結界と相殺して消えた!!
「ルート取れたよっ?!」
「よっしゃっ! 俺の分身を盾にしてくっ。セイホーっ『ブリンク・俺・兵』っ!!」
ハイエーテル3本を対価に仮面のブリンク兵を数十体作って私達を囲むディンタン! 私達はルートを取った先の損傷部位を目指し、あちこち燃えて揺れまくる黒樫の幹を駆け上がり始めた!!
最初は快調だったけど、すぐに大半は炎上、損傷したまま向かってくる無数の子牛くらいの大きさの甲虫型モンスター『鋼蟲・凶』に囲まれだしたっ。
ブリンク兵達がなんとか応戦して退ける!
「うげぇっ、ゾワゾワする!」
ドン引くマリマリー。
「多過ぎる。足止め役に2班必要になるな」
いつも冷静なゼン。
「見えたYOっ!」
私達はブリンク兵を全部失いながら、大穴が空いてる水浸しになった黒樫の損傷部位まで来た!
「ライトボールっ!」
取り敢えず4つ光の球を作って中を照らす。
「弾幕が利く、俺とパルシーで足止めをする。マティは連れてけっ」
損傷部位に入ると、ゼンはマティをマリマリーに投げ渡し、パルシーと鋼蟲・凶の大群の侵入に備えだした。
「わかったっ、任せるYOっ!」
「気を付けてねっ」
私達はゼンとパルシーに後ろは任せ、水浸しの損傷部位の奥へと走っていった。
生き残りや別の場所から涌いてきた植物や虫、下級魔族タイプのモンスターを退け、私達は『黒樫のコア』まで突破した!
「・・・ホノカ神ごときがル・ケブ州を守護するとは・・我の方がより古く! より賢明で! より堅牢な! 植物の司(司る者)っ!! 正しき信仰に人どもを導くっ!!」
一見すると黒い歪な大木と一体化した木の精霊『ドリアード』の老いた男性体に見える黒樫コアは喚いて魔力を高めだした!
「小さいこと言ってんねっ!」
「相手は本体と繋がって再生力強いタイプだ! 時給戦じゃ勝てねぇYOっ?!」
「ドーンとっ! 行けってこだよねっ?」
「ケムんっ」
私達は速攻を掛けようとしたけど、
「・・暗き森『春』は雷荒び」
黒樫コアが唱えると辺り一面に猛烈な電撃が迸り始めたっ!
「いーっ?!」
「『チェンジ・サンダー・スケイル』っ!」
マティちゃんが慌てて結界の属性を雷に変えて電撃を相殺してくれたけど、長くは持たないっ!
「俺が行くYOっ! スキル・『マッハダッキング』っ!!」
低姿勢の加速技とマティちゃんの結界で凌ぎながら黒樫コアに接近するディンタン!
「スキル、『ブリンク巨人・俺拳』っ!!」
打撃護拳『フルゴング・改弐』を装備した左右の拳だけを巨大化するディンタン!
「YOっ!!」
そのまま巨人の拳でラッシュを放って黒樫コアの全身にヒビを入れて雷を解除させたっ。
「ゴボボッ?? ・・『秋』は嵐に平ら」
殴られながら黒樫コアが唱えると周囲に竜巻が7本も発生して、ディンタンは壁まで吹っ飛ばされた!
「YOっ?!」
「ディンタンっ!」
「『チェンジ・ウィンド・スケイル』っ!!」
マティちゃんは今度は結界を風に変えて竜巻の影響をある程度相殺してくれたっ。
「あたし好みだねっ!」
不敵に笑って薙刀『野分け薙ぎ』を構え、周囲の風を集め始めるマリマリー!
「・・・スキル、『麒麟鳴き』」
マリマリーは神速で野分け薙ぎを振り下ろして、音速の風の刃を放ち、黒樫コアを真っ二つにした。
「ボボボッッ???」
竜巻の発生は止まったけど、
「・・『冬』は凍て沁みて」
両断されても黒樫コアがしつこく唱えると、周囲極低温になった黒樫コアを中心に霜柱が猛烈に広がりだした!
「なんでもありじゃんっ?!」
「『チェンジ・ヒート・スケイル』っ!!」
高熱の結界に切り替えて凍気から私達を守ってくれるマティちゃんっ。
「てっ、相性いいの持ってるの私かっ! 茄子ボムぅっ!!」
霜柱を砕きながら両断されたまま蠢く黒樫コアまで茄子ボムで爆撃するっ! さらにっ、
「抜刀っ!」
『ナマクラ・薄紅』を解放して光の花吹雪を纏い、
「スキル『オロチ会』っ!」
ハイエーテル1本を対価にオールファウンテンシールドから強い霊水の渦を発生させて刀身に纏った。
「援護するYOっ!」
「あたしだって!」
ボロボロでも復帰したディンタンとマリマリーが陽動と牽制に回ってくれた。
「ボ・・『夏』の日照りの険しさよ」
黒樫コアは凍気を解除して全方位焼く、灼熱の球をいくつも作り始めた! ヤバっ。
「『チェンジ・コールド・スケイル』っ!」
即座に凍気の結界で守ってくれるマティちゃんっ。偉いっ!
「スキル、『桜辻・刹那』っ!」
私はオロチ会をキープしたまま、加速重視のジグザグ加速中空移動技を発動して一気に間合いを詰めた。
「もういっちょっ、茄子ボムっ!!」
ダメ押しの茄子ボムで隙を作り、ディンタンとマティちゃんを背中に張り付かせているマリマリーが飛び退いたのを確認しながら、私は黒樫コアの両断された巨体の頭上に加速して駆け上がった!
「スキル、『オロチ櫻・螺旋・根打ち』っっ!!!!」
私は光の花弁を蹴って、発光しながら刀から拡大する水の刃を横回転しながら振り切り急降下し、黒樫コアの木の巨体をズタズタに引き裂いて破壊した。
灼熱の球も全て掻き消えた。
「ボボボボボッッッ??!!!!!」
砕かれ、光の花弁に変換されてゆく黒樫コア。
「・・我は神、我こそは・・神足る・・」
小さく、まだ呻いている。私は哀しくなった。
「黒樫。貴方は神になったら、何を見守るつもりなの?」
問い掛けてみた。
「?! 見守る?? 我は、・・森の、生命の、営みを、・・穏やかに??? ああ、我は・・・」
黒樫コアは光の中に消えていった。
帰りは私達が残留物コア対策を引き受けてくれている間に、混乱に乗じて勢力を拡大しつつあったマフィア対策が一段落着いてきた、警察の魔工特殊機動課の中型飛行艦に皆ピックアップしてもらえた。
申し訳程度にビニールシートだけ敷かれた大部屋で毛布一枚渡されていて、私とディンタン以外は泥のように眠っていた。
「聖印が活性化して寝付けないんだろ? 俺もだ」
「うん」
私達は苦笑した。
「あんまいいの無かったけど、艦に瓶飲料の自販機が確かあった。奢ってやんよ」
「ありがと。珍しく優しいね」
疲れ過ぎて『YO』とか忘れてるし、
「ラッパーの70パーセントは『優しさ』でできてんだ・・YOっ!」
あ、思い出した。
「ふふっ、おバカ」
ディンタンは笑って大部屋を出ていった。
疲れた時に優しくされたからか、胸の鼓動が少し気になった。
意外なくらい幼い顔で寝ているマリマリーの顔も見てみる。これはこれでドキっ、とした。
「うわ~・・・なんか、贅沢」
もっと小さい時に、親にケーキ屋さんに連れて行ってもらった時の気分に似てる。
・・でも、このケーキ。たぶん苦しい味なんだろな。
疲れ過ぎてるせいか、私はそんな、浮わついたことばかりボヤボヤと考えて、毛布にくるまっていた。