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茄子と記憶と花弁と

5月中旬、スプリングウッド市旧市街の外れにあった廃遊園地をいつの間にか取得していたテンジクカ神がいつの間にか建造していた『茄子コロシアム』では、今日も『剣闘(けんとう)ナス』と人類の激しいバトルが繰り広げられていた。


「スキル、『茄子八相(なすはっそう)』っ!」


「スキル、『桜辻(さくらつじ)』っ!」


私と対峙する巨漢の茄子型兵『茄子マン・チャンプ』は高速で拳打、掌底、手刀、裏拳、腕刀(わんとう)(ラリアットとか)、肘打ち、体当たり、頭突きの猛烈なラッシュを仕掛けてきた!

納刀状態の『ナマクラ・薄紅(うすくれない)』を持つ私は宙を舞う光の花弁を踏んで低空を緩急を付けたジグザグ加速移動で翻弄して一気に間合いを詰めるっ。


「『ライトボール』っ!」


私は照明魔法で目潰しを狙ったけど、


「っ?!」


一瞬でサングラス掛けられた?!


「ナスんっ!!」


茄子マン・チャンプは両手を組んで闘技場の地面を割る勢いで振り下ろしてきた!


「嘘ぉっ?」


私は慌てて光の花弁を蹴って地に転がり、攻撃を避けた! 盛り上がる会場っ。客の半分は茄子マン達だけどねっ!

VIP席には主に市の要人や、暇な富裕層の観光客、ギルドマスターの細目のヒロシ、私の仲間達やその家族(私の家族も)が居て、最上段席にはタデモリ神、マブカ神、主催者のテンジクカ神が陣取り、最上段席の端にはマティ3世を膝に抱えたホノカ神様がいた。

皆応援してくれてる! 負けないっ。


「ナススッ、お前の小細工はテンジクカ神様から伺っている! 修行の末、体得したスキル、『神速グラサン掛け』を持ってすれば赤子の手をひねるような物よっ」


「・・それ、グラサンは最初から掛けときゃいいんじゃないの?」


「・・・」


茄子マン・チャンプはちょっと固まってから、


「・・敢えてだ! お前を試したのだっ!」


「わけわかんないしっ、まぁいいよ! 私、『もう1個』魔法使えるもんっ!」


小柄な私(153センチメートル!)は納刀ナマクラ・薄紅を大きく構えた。


「強大な者と戦う者は強大であれっ! だっ。ふぅーっっ」


呼吸を整える。


「まずは・・スキル、『桜辻・刹那(せつな)』っ!」


私は桜辻のジグザグの回数を減らすのと引き替えにさらに加速する移動技を発動し、茄子マン・チャンプの周囲に光の花弁を散らして駆け周り出した。


「さっきより速いが無駄ナス!『抜刀』も『オールファウンテンシールド』も使用禁止ルールではもうお前の底は見えたナスっ! ミカゲ・オータムゴールドぉっ!! スキル、『反動爆(はんどうばく)ナス正拳突き』っ!!」


茄子マン・チャンプは腰を落としてカウンターの構えを取った! 武術的にはセオリー通りの対応だねっ。でもねっ!


「私、武術家じゃないしっ・・『マナ』」


私は相手のカウンターの間合いを計りつつ、もう1つの魔法の発動に掛かった。間合いギリギリ、対処が遅れる構えた利き手の側の斜め前に加速で滑り込んで、雑誌とか見て研究した『一番可愛いポーズ』を決めるっ!!


「っ?!」


「『チャーム』ぅっ☆☆☆」


私は誘惑魔法の精神波をグラサン越しに至近距離でブチかましてやった!!


「ナスぅうう??? 可愛っ、カワワっ、ミカゲたむっ☆☆☆☆」


目がハートになっちゃう茄子マン・チャンプっ! チョロいっ!!


「落ちたぁああっ! スキル、『桜印(さくらじるし)鬼棍棒(おにこんぼう)』ぅっ!!!」


私は納刀ナマクラ・薄紅に魔力をフルで込め、大振りの一撃で茄子マン・チャンプを闘技場の壁までブッ飛ばしたっ!!


「ナスっ、ぶっふぁーーっっ??!!!」


壁にめり込んで昏倒する茄子マン・チャンプ!!


「勝者っ! 挑戦者ミカゲ・オータムゴールドぉおおーーーっ!!!!」


MC茄子マンが魔工マイクで吠えると、会場は茄子マン達の悲鳴と、他の観客の大歓声で埋め尽くされた。


「しゃあーーっ!! 勝ったぁ!!!『女子力』で勝ったった!!」


私はVIP席の仲間達や家族達にガッツポーズしてみせ、それからホノカ神とマティちゃんと三神(さんじん)、特に主催者のテンジクカ神にガッツポーズしてみせた。



興奮冷めやれぬ会場の中、私は仲間達と細目のヒロシと一緒に最上段席に来ていた。


「・・ふんっ! 致し方あるまいっ。ミカゲ・オータムゴールド! お前達の力を認め、以後邪魔立てはすまい!! ただしっ、ホノカ神は認めていないなり!! ナススっ!!!」


「ワシはもうこんなチビどうでもいいんじゃ。プーン!」


自分もそこそこチビなタデモリ神。まぁカレー屋忙しそうだしね。


「地上には『良き暇つぶし』がある。それで良しとしましょうゲコゲコ!」


もうホノカ神とか関係無く、知らん顔のパルシーにウィンクして見せるマブカ神。どうなの??

ここでマティ3世を頭に乗せたホノカ神が三神の前に進み出た。


「行き違いや齟齬もありましたが、これからは共にこのル・ケブ州を守護する天の神として、協力してゆきましょう」


「嫌なりっ! 急に慣れ慣れしいわっ、ナスぅっ!!」


「豆チビはビーンズカレーにしてやろうかのぅっ?! ププーンっ!」


「また天界の下駄箱の靴に『ガマの油』を仕込んであげましょうかねぇっ? ゲッコぉっ!!」


「もうっ! 全然、元通りじゃんっ!! わたしもほんとは貴女達嫌いだもんっ!!!」


「ナスぅっ?」


「プーンっ?」


「ゲコぉっ?」


一触即発っ?! 私達と細目のヒロシは間に入って宥めるのに四苦八苦するハメになったよ・・・



その日の夕方、私とマリマリーとマティ3世は私の実家の旅館『一角騾馬(いっかくらば)』の屋根の上にいた。マティ3世は屋根の端の方で丸まってそよ風に吹かれて気持ち良さそうに眠っている。

私は屋根に寝転がり、その隣でマリマリーは座っていた。私は片手に『茄子っぽい腕輪』を持っている。


「賞品に『茄子ボムの腕輪』もらっちゃったよ。1個出してみよ」


私は試しに右腕に嵌めてみて1個、茄子ボムを出してみようとしたら、いきなり13個も宙に出たっ!


「うおっ? いっぱい出たぁっ?! 危なっ、ちょっ?! 無し無しっ! 戻って戻って!」


私は慌てて吸い込むようにして茄子ボムを消したっ。


「焦ったぁっ、コレ、加減難しいよ? マリマリー!」


「ふふっ・・、変化、解いちゃうかな」


人獣変化(じんじゅうへんげ)の腕輪』の力を解除して、獣毛に覆われた本来の兎型獣人族(ワーラビット)の姿に戻るマリマリー。一回り大きく見える。着ている変化対応の装備も反応して、暑くないように動き易いように、少し露出が増える。


「何ヶ月ぶりかぐらいに見たよ。モフモフマリマリー」


「まぁね・・、ミカゲ。今、古城の時の『琥珀の球』持ってる?」


「え? しまってるよ?」


私は『ウワバミのバックル』から琥珀の球を取り出した。


「この件、中々進展しないよね? ギルドの調査部にも地上に出てきちゃってる魔族の幹部の調査お願いしてるけど、まだ『グリムツリー』の討伐が済んでないしなぁ」


「中の記憶、また確認してみない? 何かわかるかも?」


「・・? まぁ、いいけど」


私は何気なく琥珀の球を差し出すとマリマリーも琥珀の球に触れ、私達は魔力を少し込めて琥珀の球の記憶を読み込み出した・・



遥か昔、スプリングウッドがボックル族の小さな郷だった頃、まだ統一されていないル・ケブ州を回る旅芸人の一座の中にアディという盲目の少女がいた。

親が誰なのかは知らなかったが、歌い、楽器を奏でる以外に生きる術のなかったアディは厳しく鍛えられながら研鑽を重ね、15を過ぎる頃には諸国に名を知られる吟遊詩人になっていた。

ある時、アディは現在のカシナート市南部を魔剣の力で統治する一族の城に招かれた。

15歳の城主の娘の名はイエーラ。一族でもっとも強い魔力を持ち、子供の頃から厳しく鍛えられ、他の兄弟姉妹から恐れられ嫉妬されて育った少女だった。

2人は互いの生い立ちと力を得る痛みを感じ取り、恋に落ちた。

だがイエーラには別の魔力に長けた一族の者との婚姻が決まっており、城主に疎まれたアディは一族の刺客に『病の魔剣』で斬られ、傷と決して癒えない病を受け倒れてしまった。

絶望したイエーラは禁じられた魔剣に手を出し・・・

あとは古城で死霊が語った通りの結末だった。



「・・悲しい結末だよね」


記憶の読み込みから戻って、私は溜め息をついた。


「でも全て手に入っていた気がするね。全部」


「え~? マリマリーはロマンチストなとこあるよね」


「そうだよ」


そう言ってマリマリーはそっと私に身を屈めてきて、唇を重ねた。本来の姿だからちょっとモフってして、温かくて、少し日向ぼっこした動物の匂いもした。


「っ!」


私は凄い速さで屋根の上を転がって離れた!


「マリマリー?!」


「へへっ、役得役得。さとて」


マリマリーは人獣変化の腕輪を発動し直して耳と尻尾以外は人に近い姿に変化した。


「じゃ、帰るわ。またな、ミカゲ!」


マリマリーは一方的に言って笑って、ぴょんっ、と身軽に屋根から飛び降りて帰っていってしまった。


「ちょ?! もう~~っっ」


油断した! 頭になぜか、冒険者になる前は疎遠気味なくらいだったディンタンのヘタクソなラップと、マリマリーのモフモフしたキスが交互によぎって私は混乱した。


「ハッ?」


私は思い至って、屋根の端で眠ってるマティちゃんを振り返ったけど、マティちゃんは変わらず丸まって眠ってた。


「・・よしっ、取り敢えず、セーフっ?」


動揺が収まらない私は琥珀の球をウワバミのバックルにしまい、気持ちを落ち着けようとした。と、

風が一陣吹いて、ホノカ神殿奥の永遠に満開の御神木桜の花弁が踊るように私の周りを舞い、眠気を誘うような花の香りが私に伝わった。

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