爆裂っ! テンジクカ神様っ!!
5月、約3分の2の残留物コア個体が撃破され、平均レベルが16に達した私達スプリングウッド支部の冒険者達は、保留になっていた『中難度個体』に挑むフェーズに移っていた。
私のミカゲ隊とディンタン隊は、死霊に寄生して住み処に『迷宮化』の魔術を掛けた厄介な相手を討伐する為、その『古城』に突入して苦労して攻略してたんだけど・・
「ナスゥーーーっっ!!!!」
奇声と共にデフォルメ&擬人化された『丸茄子型』の追尾浮遊爆弾が私達を襲っていた。
連鎖大爆発っ!!!
「嘘ぉーっ?!」
「YOーっ?!」
巻き込まれた古城の迷宮のアンデッドモンスター達とセットで軽くブッ飛ばされつつ、私達は慌てて物陰隠れるっ。全員煤だらけでパンチパーマみたいにされてるよ!
「ナスススっ!! 育つまで待ってやったのにその程度かっ?! ホノカ神の下僕達よっ。この5位の神格っ、『茄子という茄子の神』っ!『テンジクカ神』はっ!! タデモリ神やマブカ神とは一味違うなりぃーーーっ!!!」
痩せっぽちで長身、なんか茄子っぽいドレス? を着て茄子っぽい杖を持っているテンジクカ神は、豪語しつつ丸茄子爆弾を虚空から発生させて周囲を手当たり次第爆撃しだした。
「くっそ~っ。アイツら、大体初見だと同じようなこと言うよな?」
「単純ケム」
物陰でボソボソ毒を吐くマリマリーとマティ3世っ。わかる!
「残る255発っ! 我の『茄子ボム』を受け切ってみよっ!!」
茄子ボムって言うんだ、アレ・・
「普通にバトってくる神様は初ですよね」
「むしろ、タデモリ神とマブカ神が変わっていた気もするな」
わかる!!
「どうするYO? ミカゲ。終わりのある攻撃のようだし、いい感じに古城のモンスターもブッ飛ばしてくれてる。いっそ、鼠みたいに逃げ回っちまうか?」
私はちょっと考えて・・
「いやっ、挑もうよ! タデモリ神もマブカ神もなんだかんだで私達が食らい付いてったから認めてくれたとこあったと思うし、どーん! とやっちゃおう!!」
ディンタンはニッと笑った。
「いいんじゃね? じゃ、皆! 行くぜっ、セイホーっ!!」
私達は目配せし合い、一気に物陰から飛び出した!
「スキル、『ブリンク、俺っ! 兵』っ!!」
ディンタンは仮面を着けた簡単な身体の構造の人形の分身、『ブリンク兵』を多数作り出して先陣を切った! 自分を100パーセント、コピーするより負担が軽いみたい。
「YOっ!!!」
茄子ボムで次々ブリンク兵を撃破されてもお構い無しに突進するディンタン。
「大雑把なヤツなり! ナスゥっ!!」
残りブリンク兵が3人になって接近したけど、後続の私達が配置に着いたことを確認すると、ブリンク兵を囮にディンタンは素早く飛び退いていった。意外とクレバー。
「逃がさんナスっ!!」
テンジクカ神は大量の茄子ボムをディンタンに放ったけど、既にマリマリーが薙刀『野分け薙ぎ』で風を練って溜めていた!
「スキル・『鼬格子・獅子鷲狩り』っ!!」
巨大な風の刃の格子を放って追撃の茄子ボムを全て撃墜するマリマリー!!
「ナスぅ?!」
「・・スキル、フレアバレット」
ゼンが『ドライブガン・BIS』で炎の炸裂弾を連射した! 即応して茄子型の大盾3枚を出して防ぐテンジクカ神っ。1枚砕けたけど、
「焼き茄子とは屈辱なりっ!!」
テンジクカ神が茄子ボムで反撃しだしたので、ゼンは通常弾の連射に切り替えて後退しながら茄子ボム撃墜に専念した。
「次は僕っ! デク3号・改弐『開封後の返品は対応しかねます、パンチ』っ!!」
背に乗っている飛行できるゴリラ型のマシンゴーレムに両腕ロケットパンチを撃たせるパルシー!
ロケットパンチは茄子型大盾に命中すると爆発したっ。さらに1枚砕いた!!
「玩具には負けぬでナスっ!!」
多数の茄子ボムで囲おうとするテンジクカ神! パルシーはマシンゴーレムの両足を機関銃に変形させて乱射して茄子ボムを撃墜して後退した。
「ケムんっ、『マナ・メガ・レイ』っ!!」
マティ3世は宙に発生させた魔方陣から極太の熱線を放って最後の茄子型大盾を砕いた。
「虫ーっ!!」
怒ったテンジクカ神は小さなマティ3世にも茄子ボムを連発したけど、マティちゃんは回転体当たり技『スピンアタック』を利かせて、器用に避け続けて後退した。
で、最後は私だっ!
「スキル、『花道』っ!!」
私は納刀状態の『ナマクラ・薄紅』を起点に光の花弁で道を作って宙を駆けテンジクカ神に迫った!
「工夫無し、笑止ナスっ!!」
テンジクカ神は嗤って茄子ボムを投げ付けてきたけど、こっからだよっ。
「スキル・『桜辻』っ!」
私は光の花弁を踏んで、緩急を付けたジクザク加速で茄子ボムを側面からナマクラ・薄紅で撃ち据えて誘爆しながら宙を駆け抜けて行った!!
「ナスぅーっ??」
「ライトボールっ!」
2つしか使えない私の魔法の1つ照明魔法で光の玉を持続時間ゼロ、光量最大で至近距離で発生させた!!
「眩しナスーっ!!!」
言いながらの円状に茄子ボムを周囲にバラ撒くテンジクカ神! でも私は既に真上にいた。光の花弁を蹴って急降下するっ!
「スキル、『華車・烈』っ!!」
私は納刀状態のナマクラ・薄紅で回転斬りをテンジクカ神の頭に放ち交錯し、何度か光の花弁を踏んで勢いを殺して着地した。
「とっとと、・・やり過ぎちゃったかな?!」
宙をよく確認すると、ポフンっ!! 煙と共にテンジクカ神の姿は茄子ボムに変わってその場で爆発した!
「えっ?」
驚いていると、突然足元から植物の蔓が噴出して私は絡め取られてしまった!
「わうっ???」
「ミカゲっ?!」
ディンタン達がこちらに急行しようとしたけど、宙から突然出現した茄子ボムに阻まれてしまう!
さらに私の足元近くからニョキっとテンジクカ神が生えてきたっ。
「ナスススッ! 我に『変わり身・茄子ボム』の神力まで使わせるとは・・・見事なりっ!!」
蔓が消えて私は解放され、周囲の茄子ボムも消えた。
「残り39発あったが、サービスとしてくれよう! さらに褒美ナスっ!!」
テンジクカ神はうっすら輝く野菜の茄子を出現させて操り、私の手元に送った。
「茄子?」
「いかにもっ! それは向こう50年は食べても食べても減らぬ『無限茄子』なりっ! 心して食すがよいっ!! それから我はホノカ神を許したワケではないっ! その点ははっきりくっきりさせておくナスっ!! さらばなりっ! ナスススッ!!!」
テンジクカ神は高笑いをして無数の茄子を逆巻かせて消えていった。
「ミカゲっ、大丈夫か?!」
「茄子もらったのかYOっ!」
皆が駆け付けてくれた。
「なんか減らないみたいだけど・・」
試しに無限茄子を噛ってみた。
「どうケム?」
「・・・生の茄子、だね」
「でしょうね」
「俺は茄子アレルギーだから、パスだ」
ゼン、茄子アレルギーなんだ。と思いつつ、テンジクカ神が暴れたおかげで古城内がスッキリして迷宮もへったくれもなくなり、アンデッドモンスター達もほとんど片付いてしまったから、私達はここからはすんなりコア個体の元まで直行できた。
・・そこは神像が破壊された城内聖堂だったけど、貴婦人見えるその死霊は必死に胸元に寄生した霊体化した植物の球根ような物の力を抑え付けていた。
「どういうことだYO?」
「テンジクカ神の茄子ボムは神聖属性だったので、古城自体に浄めの効果があって、その結果・・ということかもしれませんね」
私達が困惑していると、
「私を滅ぼしに来たのですね。皆さんが、魔と対抗する者だとするならばコレを・・」
貴婦人は小さな琥珀の球のような者を発生させてこちらに浮かせて寄せてきた。当然、皆、身構える。
「マティちゃん! 鑑定っ」
「ケムんっ、『インテリジェンス・ルーペ』っ!」
マティ3世は魔力の輪を作って、琥珀の球を潜らせて内容を調べた。
「・・これは記憶の塊ケム。そのコア個体に寄生された者の恋人ケム。呪いの付与は無いケム!」
「恋人?」
「・・私はかつて、病に倒れた愛する人を救う為、城の者達の命を悪魔に捧げました。しかし完治したあの人は絶望して自決してしまい。私もその後を追い・・」
「えー・・」
「マジかYO・・」
バッドエンド過ぎるよっ。
「私達は2人で地獄で罰を受けていたのですが、魔の主が私達の苦しみを面白がって、また地上に・・あの人は、正気を奪われ、魔の主の元へ向かってしまいました。どうか、あの人に安らかな眠りを!」
私達は顔を見合せた。これまで神様対策以外はただ討伐ばかりしていたけど、中難度個体になってくると、相手に『知性』や『心』が伴ってきてしまう。
私は、琥珀の球を手に取った。
「ミカゲ」
「大丈夫」
いつものようにマリマリーが心配してくれたけど、この巡り合わせはたぶん『フェアリーコイン』の幸運の巡り合わせだ。なんとなく、わかる。
「貴女、わかりました。私達がやるだけやってみる」
「ありがとう、あとは・・私がこの魔物を抑えている内に、私を・・」
「ミカゲ、倒すだけなら俺が」
ディンタンがYO付けるの忘れて言ってくれたけど、
「コアは植物特性だし、私の方が適任だよ?」
私は笑ってナマクラ・薄紅を構えた。
「抜刀」
刀の封を解き、光の花吹雪を纏った。
「オールファウンテンシールド! 力を貸して!!」
青い腕時計を輝かせ、浄めの水を発生させて解放した刀に付与した。
私が歩み寄りだすと、マティ3世が心配して私の頭の上に乗ってくれた。
「ケムんっ」
死霊の貴婦人の目の前に来た。生前はきっと、綺麗な人。生真面目そうな感じ? 思い詰めちゃったんだろうね。
私は解放された刀を構えた。
「ありがとう」
貴婦人は涙を溢した。嫌だなぁ。ポップコーン食べながら映画を鑑賞するような立場でずっといたかったなぁ。でもっ!
「・・スキル、『甘露突き・改・涅槃櫻』」
痛みを感じさせない水の祝福の突きでコア個体ごと死霊の貴婦人の胸を貫き、光の櫻の若木に変換して、粉々に散らせた。
コア個体の消滅と共に、古城は鳴動し始める!!
「ミカゲっ! 崩れるYOっ、脱出だ!!」
「うんっ!」
私は少し温かい、琥珀の球を手に取って一度確認して、皆の元に走った。