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魔工戦記 パルシー

僕はパルシー・グラスフルート。冒険者として職業は魔工師(まこうし)です。 魔術と工学を組み合わせた技を得意としています。レベルは一応30だけど、僕はこれくらいが打ち止めですね。


「パルシー君、はい。あ~ん、してゲコ」


「あ~ん」


僕はこの間、経営を引き継いだムルッペコーポレーション本社のドーム型の社内庭園のベンチで彼女のマブカさんとお昼のお弁当を食べています。

マブカさんが作った卵焼きを箸で食べさせてもらっているのです。

甘い卵焼きでした。


「美味しいでしょうか?」


「とても美味しいです。マブカさんに食べさせてもらったのでより美味しかったです」


「ゲコぉ~っ」


照れてしまうマブカさん。可愛い人ですね。あ、可愛い神ですか。


「・・明日から大変なので今日はゆっくりしましょう」


「ずっとこいしてたいです」


「本当に」


「ゲコ・・」


肩に頭を預けてきた(僕より結構背が高いのでしっかり支える必要があります!)マブカさん髪を少し撫で、僕達は安らかな時間を名残惜しみました。



・・魔工パイロットスーツを着た僕はサブコクピットの中で念入りに入念に内部端末等でチェックや修正を行っていました。

隣の席でやはり魔工パイロットスーツを着たマブカさんは目を閉じて静かに集中しています。と、


「パルシー! マブカ神様っ。準備はいいかいっ?! 俺の魂は燃え上がってるぜっ?!」


メインコクピットからこの機体の本来のパイロットにして、兵具の神々の祝福を受けたナナレム国のレベル43(高い)の職業人形使い、ナガイが暑苦しい感じで映像通信を繋いできました。


「ナガイ、声が大きいです。今、最終調整しているので」


「ゲコ」


「うおおおーーーっ、最終調整っっ!! ついに俺の『魔工機神(きしん)ロッカクオウ・改弐・(きょく)』が出撃するんだなっ! 燃えてきたぁっ!! うおおっ! うおおおっ!! うおおおおーっ!!!」


「うるさいゲコっ」


ロッカクオウは有人型巨大ゴーレムで、空中戦に対応しています。

魔工の技を用いた物ではありますが、神々の祝福を受けたナガイにしか扱えない代物です。

技術的には未完成機で制御サポート役にこの機体に熟知した最低でもレベル30台の魔工師の同乗と、防御面にも不安があるので水の神力を使うマブカさんの同乗も必須でした。

兵器として汎用性は非常に低いと言っていいでしょう。

開発に関して他の軍需メーカーから不満もありましたが、戦後のことを考えると再現性に大いに難のある兵器にするのが適切と判断し、適当な屁理屈を並べてこのような機体に組み上げました。

でなければわざわざ仲間達から離れて僕が会社に残った意味が無いですからね。

取り敢えず暑苦しいので通信は切りました。


「ナガイはああいう感じだから、僕達は落ち着いてやろう」


「まったくですねっ、まったくですね! ゲコっ!」


魔王軍艦隊の侵攻が想定より早くて色々急拵えにはなりましたが、やるだけやりますよ。自分と彼女が機体に乗り込むハメになるとは思ってませんでしたけどね!



それから約30分後。警報が鳴り響く反魔王軍連盟艦隊の飛行母艦ドッグの中で、ロッカクオウは出撃の時を迎えていました。


「ナガイさん、パルシー君、マブカ神様! 準備はいいですか?」


僕達の機体のオペレーターはル・ケブ州軍から合流していた狐型獣人族(ワーフォックス)のネネフルさんでした。


「俺はいつでも燃えてるぜっ!」


「私は燃えてないですが、問題は無いゲコ」


「いつでもやれます」


「では、前後ハッチ解放どうぞ」


ドッグハッチがまず後方ハッチが解放され、ドッグ内に激しい気流が起こり、続けて前方ハッチが解放され、爆風の中、畳まれていたカタパルトが展開されました。

人型巨大有人ゴーレム、ロッカクオウ・改弐・極は身を屈め、フットレストの重心を調整します。


「・・ロッカクオウ、どうぞっ!!」


「ナガイ・スターマインっ! 出るぜぇーーっっっ!!!」


フットレスト自体がカタパルト上を中途まで滑走し、火花を散らしてロックを解除しながらロッカクオウはバーニアを噴かし母艦から出撃しました。


「ぐっ」


それなりにGは掛かる。マブカさんとナガイは涼しい顔です。スーツは改良したんですけどね!

遥か前方に見えたゴマを散らしたような魔王軍艦隊の東方勢力があっという間に近付いてきます。

射程圏内に入りますっ!


「マブカさん!」


泡沫(ほうまつ)よっ!」


近い位置にある物は機体を追従する形で、大量の守りの泡を発生させるマブカさん! 魔王軍艦隊から放たれた無数の魔力熱弾の内、直撃コースの砲撃を次々と反らし打ち消し、また泡自体がデコイとして機能して撹乱しますっ。

視認性の悪化を補って余りある強力な支援効果でした。


「やるなっ! マブカ神様っ!!」


「ゲコっ、当然ですよ? 当然ですよ?!」


そのまま艦隊の一斉掃射を切り抜けると、掃射の陰に隠れて迫ってきていた魔王軍の合成飛行体(ごうせいひこうたい)群とも交戦距離に近付きますっ。

合成飛行体は下級魔族数体をベースに飛行特性のモンスターを合体させた高機動の魔獣です。

知能は低下し寿命も短いようですが、母艦や上位魔族からの指令や事前の条件付けは絶対で、高火力っ。最大加速では音速を超えてくるのでもはや生身での撃破は困難っ!

他にターゲットがなければ優先して殲滅したいところですが・・


「ナガイ。ターゲットを間違えないで下さい。ロッカクオウは無限には起動できませんよ?」


「任せろっ、俺だっ! 来ぉーいっ!!」


聞いてるんですかね? この人は本当にっ。

合成飛行体は僕達のターゲットではありませんっ。しかしこれも切り抜けなくては!


「マブカさん! 炸裂泡沫(さくれつほうまつ)っ!」


「了解ですっ!」


マブカさんは守り泡の代わりに発光する泡。機体の上下左右に置き捨てるように放出しましたっ。


「うっらぁーーーっ!!!」


機体正面の敵群はナガイがロッカクオウの両手に持つ火器、両肩の速射砲、を乱射して一掃し、カウンターの遠距離攻撃はナガイと機体の反応を僕が補完する形で全て回避!

交錯した合成飛行体達はある程度誘導できる炸裂泡沫に激突し、誘爆する泡沫に巻き込まれて撃墜されてゆきましたっ。よし!


「囲まれる前に下を抜けましょう! マブカさんっ、守りを!」


「ゲコっ」


再び、今度へ機体の上部に集約させて守りよ泡をマブカさんに展開してもらいました。

艦隊に距離が近くなったので下を取ると射線を通し難くなるのと、泡を上部だけに集めた方がガード効果もデコイ効果も高まり、視認性も向上します!

後方から僕達の反魔王軍連盟艦隊と遅れて出撃した戦闘飛行艇(せんとうひこうてい)の各部隊も続いています。

僕達の突出は陽動としても有効なのです!


「・・っ! 捉えましたよっ、ターゲットです!!」


散々撃ち込まれながら進み続けると、前衛の艦隊の後ろに控えたかなり有機的な外観の大型飛行艦。『変形戦艦巨兵へんけいせんかんきょへい』です。

これの撃沈が僕達に与えられたミッションです。

変形戦艦巨兵は火力だけなら公爵級悪魔に匹敵し、単機で中規模国の首都を殲滅可能な戦力です!

魔王軍の東方艦隊は世界最大の鉱油生産地帯を狙っているので、ここで仕止めないわけにはゆきませんっ!


「叩き甲斐がありそうだぜっ」


ちょうど僕達の艦隊と魔王軍の東方艦隊が直接砲火を交え始め、それを掻い潜って切り込んでくる僕達の戦闘飛行艇部隊に敵の合成飛行体達が対応せざるを得なくなってきて、多少は自由が利くようになってきました。

時間調節は必要無さそうですねっ。


「変形する前にバリアくらいは引っ剥がしてしまいましょう!」


「いいですねっ、いいですね!」


「おっしゃーっ!!」


突入コースは多重に取れています。操縦補助の負担が減った僕は、近付かれ過ぎて苦し紛れに機銃や低精度の誘導弾を撃ってくる前衛の艦隊や、闇雲に突進してくる合成飛行体の対処に意識のリソースを割きます。

具体的には人間で言ったら仙骨の辺りと、腰裏の辺りに設置して自在駆動式の超高圧ネイルガンによるマニュアル迎撃です。

神々の祝福を受けたミスリル鋼の針弾(しんだん)は魔族に効果抜群! 誘導弾も落とせます。

操作難度も整備難度も高いので協力している他の軍需メーカーから『設計思想に増長がある』とかなんとか絡まれましたけど、使うの僕なんでっ!

ガンガン迎撃してやりましたっ。


「っ!!」


 変形戦艦巨兵に距離が詰まる! 今頃戦艦形態から飛行巨人形態に変形を始めていますっ。巨人形態では航行速度もエネルギー効率も著しく悪化するからでしょうが指揮官の判断の遅さが際立ちますね。

典型的な『下級神達の加護を受けた程度の人間達等は相手にならないはず』という侮りが見えます! 命取りですよっ?


「ゲコーっ! 神力(しんりき)、『解呪(かいじゅ)金雲(きんうん)』!!」


マブカさんは飛行する変形戦艦巨兵の前方に金色の雲を発生させました!

強力なバリアに覆われていた変形戦艦巨兵は金の雲にバリアを中和されてゆきますっ。


「よっしゃーっ!!! スキル、『ブレイブファイア』ぁあっ!!!!」


ナガイの魂の高まりがロッカクオウの出力を高めてゆきます! 僕は凡ミスで艦隊や合成飛行体の差し込みに引っ掛からないように注意しますっ。


「らぁーーーっっ!!!!」


両手両肩のみならず、前方に撃てる全ての火器で何倍にも増大させた砲撃を乱射するナガイっ!

変形戦艦巨兵の左腕を破壊っ。右脚を破壊っ。左半面を破壊っ! 各間接、体表にも大きく損傷を与えました!!

が、相手の変形も済みましたっ!


「マブカさん!」


「ゲコーっ!」


守り泡を最大展開っ! 戦艦巨兵は身体各所に仕込まれた有機的な火砲から無数の偏向熱線を放ってきます!!

泡で防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防ぐっっ!!!

防いでいる間にナガイに第2撃への力の溜めが済みました。


「燃えろぉーーーっっっっ!!!!」


右腕を破壊っ、左脚を破壊っ、頭部全体を破壊っ!! 全身の体表にも致命的なダメージを与えましたっ。

ロッカクオウの第2射が尽きるとカウンターの掃射を撃ってきましたが、さっきとは比べ物になりませんっ。


「手薄な後衛艦が立て直してきましたっ。詰まれる前に仕止めましょうっ!」


「しゃあっ!!」


「神力、『大甘露龍王(だいかんろりゅうおう)』っ!!!」


マブカさんはロッカクオウを中心に聖水で構成された水の巨龍を創りだしました。

機体は龍の渦に乗って更なる高度へと打ち上がりますっ。


「ナガイっ!」


「やるぞっ! やるぞっ!! やるぞぉーーーーっっっっ!!!!」


「早くやれゲコっ!」


「ナガイってばっ!!」


「スキル、『ゴッドスラッシャーアーツ』っっっっっ!!!!!!」


ナガイはロッカクオウの左足を基点に水の龍の渦を集約させ、戦艦巨兵へ向けて機体を急降下させ始めました!


「ううううっっっ」


僕だけかな?! Gが半端ないっ。

近付くと後衛艦や捨て身の合成飛行体や戦艦巨兵の迎撃を受けましたが、全て水の龍王で打ち払いますっ!

さらに近付くと戦艦巨兵の全火砲を集約させた熱線を撃たれましたが、これは水の龍で相殺しますっ。水蒸気爆発くらいじゃロッカクオウは止まりませんっ!!

ロッカクオウの蹴りが戦艦巨兵に命中しましたっ!!!

左脚に集中させた魔力は神殺しの槍と化して機械と魔物達の集合体である戦艦巨兵を貫いてゆきますっ!!!!


「うぉおおおーーーーっっっっ!!!!」


「ゲコぉおおーーーーっっっっ!!!!」


「わぁーーーっっっ!!!」


雰囲気で僕も叫んでしまいました。

ともかく、ロッカクオウは戦艦巨兵を貫きました。

頭上で爆散する戦艦巨兵っ!


「ロッカクオウっ! 完・勝っ!!!」


「やりましたよっ! やりましたよぉっ!!」


「・・エネルギーが残り25パーセントしかないのでとっとと母艦に戻りましょう」


僕だけ乗れそうで乗り切れないので謎の敗北感があります。

僕達は左脚を消失させ、ボロボロになったロッカクオウで地上近くまで深く高度を落として戦闘を回避して母艦へと帰投してゆきました・・。



魔王軍艦隊の東方勢力は撃退できました。反魔王軍連盟艦隊の人的損耗は幸い最小限でしたが、兵器と資金の消耗は激しいですね。

僕が、艦の食堂で電算機型小型ゴーレムを端末展開してデータとにらめっこしていると、マブカさんが飲み物を側のテーブルに置いてくれました。

シャワーを浴びたばかりの着崩した連盟の制服姿がセクシーだと思いましたが、余計なことを言うと挙動不審になってしまうので黙っておきます。


「ありがとう」


「ロッカクオウ?」


「はい。わりと辺境に派遣された戦艦巨兵であの戦力だったので、改良しないと」


「汎用量産機・・いや、汎用姉妹機くらいは何機が造ってみてはどうでしょう? 我々の艦隊だけでも、ナガイ1人に頼るというのは」


マブカさんは食堂で『回復させる』として「うおおおーーーっ」とか言いながら爆食しているナガイをチラリと見ました。


「戦後が心配なのです」


「ゲコ」


マブカ神は僕の髪を慈しむように少し撫でました。


「パルシー君。君は学級委員のように考えているけれど、人は野放図なところがあります。あまり、人間同士の文明の采配の矢面に、君には立ってほしくはないのです。ないのですよ?」


「・・やはり、軍需では新興のムルッペコーポレーションが出しゃばり過ぎと思われているのでしょうか?」


「ゲコ・・」


僕は作業の手を止め、飲み物を飲みました。随分ジンジャーの利いたジンジャーエールでした。

こっちの仕事にはミカゲ達を呼び込まなくてよかった。改めてそう思いました。

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