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悪魔ベスカー

転送門を離れてからはラファンの案内が手堅かったのと、私の『直感』が利くから砂漠地帯のモンスターとの交戦は無かったけど、とにかく・・暑い! 空気に水分が無い! 風の強い!

砂漠の環境に適応している砂狸種のラファンや、職業的に耐久性の高いロンロン、加護の強化後の私はまだ耐えられたけど、マリマリーはすぐにバテてしまった。

耳を保護する為の『ウサ耳型』のフードを被って可愛くなってるけど、顔色が悪い。


「オイ、ウサ耳。水を飲み過ぎるなよ? だが水分は適宜採れ」


「どっちだよっ」


「『キュアライト』掛ける?」


「ポーションもいっぱいあるよ?」


「・・大丈夫」


ゴマメ扱いにちょっとムキになっちゃったマリマリー。もうっ。

心配しつつ暫く、延々続く抜けるように青い空(上空にも水分が無い)の下の焼けたような砂地を歩き続けると、


「そろそろ素で避けながらだけじゃキツい距離だ。オータムゴールド。モンスターの気配はどうだ?」


「ミカゲでいいよ。・・うーん」


探知する。多い、なぁ。それに強い。魔族の気配も少なくない。


「思い切り迂回しないと厳しそう」


「じゃ、ここらだな。魔法はそう得意じゃねぇんだが・・『カメレオンヴェール』っ!」


ラファンはハイエーテル1本分を対価に全員に透明化魔法を掛けた。互いにはなんとなく見えるくらい。

気付けに自分のポーションを飲もうとしていたマリマリーは口にちょっと溢してしまってあたふたした。


「俺達同士はある程度同調させてるが、気配や匂い、体温なんかもわかり難くなってる。意志疎通がややこしいから音までは消してない、油断するなよ? 俺、1人なら『超隠れる』のスキルでもっと効率よく行けるんだがな」


「盗っ人として技量はあるんだね」


「なんだぁ?」


「透明になってまで揉めないでっ」


ロンロンとラファンが小競り合いを始めるを阻止したりしながら、私達は野生のモンスターや昼間の野にまで徘徊しだしてるらしい下位魔族達を避けてさらに進んでいった。



悪魔に支配されてる街近くで見掛けるようになった野生のモンスターは、サボテン人間型モンスターの『(はりつけ)ニードル』、大サソリ型モンスターの『シールドスコーピオン』、火の大とかげ『パイロリザード』、魔法を使う大蛇『マージパイソン・砂漠種』が多かった。

魔族は、使い魔『インプ』。小柄な太った悪魔『ファットグレムリン』。砂の身体の悪魔『ディザートデーモン』を見掛けた。

魔族は一応哨戒もしているんだろうけど、はっきり目的を持ってウロついてるというより支配された街を基点に『穢れた場所』が徐々に拡大してきている、っということなんだと思う。



とにかくそれらを避けて、悪魔に支配された街『ザミアド』を見下ろせる砂丘の上まで私達は来た。


「・・うわっ、よくこれで最近までバレなかったな」


マリマリーが呆れるのも無理ない。魔除けの石柱は全て壊されていたけど、城壁に覆われた土壁の砂漠の街は薄紫色の負のガスに覆われ、街全体が闇の魔術を掛けられていた。

奇妙なのは街のあちこちに『巨大なアロエの葉』みたいな物が飛び出していた。


「このザミアドの街は火神(かじん)系の宗教の中でも異端派が集まったとこで他の街と没交渉だったのさ」


「その異端の火神の加護は得られなかったの?」


ロンロンは半神化(はんじんか)はしてないけど、ホノカ神の聖印を持ってる上に聖職系の守護騎士。気になったみたい。


「教義解釈が特異で、火神からちょっと避けられてたっぽい」


「それは、また・・」


信仰しても避けられる、とかあるんだ!


「どんな教義だったの?」


「過激派だ。ただ熱心ではあったから、本格的に宗教兵士として決起して対抗してくる前に潰しに掛かったんじゃねぇかな?」


「うーん」


どーしよ? 街を救った後、上手く話せる自信無いよ・・


「後処理はトレマー州のギルドと警察の機動特殊課の連中がやっから気にすんな。それより」


ラファンはカメレオンヴェールの透明化を一部緩めて腕輪型の魔除けや耐性系のアクセサリーを多重ひ付けた左腕を見せた。


「お前らはやたら加護が強いみたいだが、中は悪魔ベスカーの呪いが結構キツい! 入ったら、あんま時間は掛けてらんねーぞ?」


「うん」


「タヌファンの仲間達がもうサポートに入ってくれてるんだよね?」


「ラファンだ。しつこい筋肉だなっ。まぁいい! サポートと言っても2隊しか入れられてねぇ。だが俺達が中に入って戦闘を始めたら雑魚の陽動とベスカーの隔離まではやってくれる」


「お前も戦うのかよ?」


「ウサ耳、レベル18でも侮んなよ? 近接乱戦での盗賊の厄介さ、教えてやんぜ?」


わざわざ顔の辺りの透明化を解除して、ラファンは不敵に笑ってみせた。



私達はカメレオンヴェールを維持したまま呪われた街、ザミアドの中に潜入した。


「っ!」


入ってみると、『人のような丸い岩』があちこちのゴロゴロ転がっていて、それが「うぅ~っ」とか「あぁ~っ」とか呻いてる!


「ザミアドの住人達だ。ベスカーの呪いにやられた。いくつかサンプルを取って調べてみたが、悪夢を見せられて徐々に命や苦しみを喰われてるようだ」


小声で話すラファン。


「解除はできないの?」


「外に持ち出せばできる。だが、住人は2千数百人はいる。現実的じゃねーな」


「・・急ごう、ラファン」


「はなっからそう言ってるだろ?」


石の玉に変えられた人々も多かったけど、使役されたモンスターや魔族も多い。街の近くを徘徊していたのと同じ構成で、より凶暴で力を増していた。

私達は遭遇しやすい街路に沿った移動はやめて、屋根伝いに移動をして、悪魔ベスカーが根城にしている火神の神殿の近くの建物屋根まで来た。

神殿はモンスターと魔族達に念入り護られてる。


「1度試しに透明化させてゴーレムを潜入させたことがあったが、ベスカー本体に探知されてすぐ始末された。内部で透明化は短時間でよっぽど力を込めないと効果ねーな」


「突入後は速攻しかないか・・中、距離あるな」


入手済みの内部マップを確認するマリマリー。


「ベスカー、っていう悪魔の能力はどんな感じなの? 石化が強いとはギルドで聞いたけど」


ロンロンは盾の照り返しを気にして角度調整していた。


「接触、視線、ガスの3種の『石化攻撃』をしてくる。特に接触の強制力が高いな。後は斬撃の触手。持ってる大鎌も強毒で始末に負えない。体液も毒だから触れないように気を付けろ」


「ややこしそうだね」


「『子爵級』の悪魔だ。そりゃそうよ」


「緊張してきたよ!」


私達は手筈を確認し、なるべくショートカットできるよう2階の東側の窓から入って、透明化を解除した!



途端、神殿内に殺気が充満した!! ベスカーだっ。

眷属の中で一番機動力のあるインプの大群が、灯り台に陰火(いんか)点る通路の向こうから来るっ。


「仲間に報せるついでだ!」


ラファンは『特大手榴弾・改』を投げ付け、壁際の柱の陰に隠れた! 私達も慌てて続くっ。

大爆発っ!! インプの大群は消し飛び、私達が隠れた柱の横を爆風が抜けてゆくっ。


「よしっ」


「本当にすぐ仲間が来るの?」


「来なけりゃ俺達が袋叩きでオダブツするだけだ!」


「・・・」


ロンロンは微妙な顔をしたけど、私達はベスカーがいるはずの2階奥の『浄火(じょうか)の間』へ走りだした。


「建物の中の方が涼しいじゃん?!」


マリマリーは野分け薙ぎの真空の刃で、撃ってきた『針弾(しんだん)』を巻き取りながら磔ニードルの群れを八つ裂きにした!


「得意分野!」


ロンロンは胸部の聖印を光らせながら魔力を回転力に変換させる槍『ドリルランス』を突き出してファットグレムリンの群れを纏めて砕いた!

2人ともミスリル鋼を使った防護服を着て、マリマリーは竜鱗(りゅうりん)の籠手を、ロンロンは竜鱗の盾を装備してる! どれも強力っ。


「水よっ!『龍円刃(りゅうえんじん)』っ!!」


私は腕時計のオールファウンテンシールドから聖水の渦の刃を5発放って、炎を吐こうとしていたパイロリザードと魔法を使おうとしておたマージパイソンを纏めて切断して仕止めた!


「すげぇな、魔王軍の幹部だか刺客だかを2度も退けた。ってのは伊達じゃなかったか!」


「それは私じゃない」


冷静に言うロンロン。


「お前じゃないのかっ。なんだよお前は? どっから来た筋肉だっ」


「カシナート市から来た筋肉だよ!」


もう『筋肉呼び』でいいんだ。た思ったりもしたけど、私達はさらに進んだ。

途中、1階と2階の私達の後方で爆音がして、


「仲間だ。2階の班は隔離担当だ。隔離されたら俺達も出れねーからな!」


なんてラファンが言うから内心、「え~?」と思ったりもした。外から延々眷属に援護されるよりかはマシだけど・・



私達は浄火の間の前を守っていたサンドデーモンを特大サイズにしたオリハルコンスプーンの下敷きにして『ただの砂』に戻すと、高価な霊薬(エリクサー)をケチらず飲んで回復しながら、隔離班を少し待った。すると、


「ラファン!」


私達の通ったルートの後ろからトレマー州の冒険者の隊3人が駆けてきた。


「遅いぞっ!」


「いや進行速過ぎるだろっ? 段取りが」


「あの、ル・ケブ州のミカゲ隊です。隔離お願いします!」


「ああ、はいはい。・・え~と、貴女が半神化した」


隊のリーダーらしい人は私の桜色の神や瞳やもうずっと消えない額の聖印や、神気(しんき)を帯びた私が賜った『息吹きの鎧』を珍しそうに見た。


「見せ物じゃないよ?」


私の前にマリマリーが立った。


「っ?! いやいやっ、そんなつもりではっ。隔離化! すぐ行うっ。・・ラファンはそっちでいいんだな?」


「おうよ! 勝算ありだっ」


隔離隊のリーダーは苦笑して、仲間共に準備に入った。早速通路の向こうからモンスターと魔族の群れが迫ったけど、隔離隊の人達が光の結界を張ると、聖なる障壁に阻まれて吹っ飛ばされていった。


「浄火の間は囲った! 20分程度しか持たないからそのつもりでっ」


「ありがとうっ、任せて下さい! ロンロン」


「よしきたミカゲちゃん!『ブライトスケイル』っ!!」


ロンロンはラファンと私達3人全員に光の護りを付与した。


「じゃあ、いっちょ行くかぁっ!!」


マリマリーが真空の刃で扉をブチ破り、私達4人は浄火の間に雪崩れ込んだっ。



神像の破壊された浄火の間の燈台には暗い負の炎が灯され、ザミアドの街でもあちこちで見た巨大アロエが無数に床から天井から壁から突き出していた。

破壊された神像の前にはアロエを組み合わせたような玉座と台座があった。

1体のどことなくアロエのような少年の悪魔がに億劫そうに玉座に座り、台座に置かれた『菓子皿』に盛られた小さく圧縮された人の岩玉を摘まんで口に入れ、歯を立てて悲鳴を上げたそれを噛み砕いて食べた。


「抜刀!」


ナマクラ・薄紅の刀身を解放して光の花吹雪を巻き起こした。


「・・ボクはベスカー。子爵だよ。『渇き断たれた望みの与える者』なんだ。お前は確か、あの出来損ないの刺客が仕損じた勇者の兆しを持つ者だね? どこから涌いてきたんだろう?? まぁいいや。手柄になりそうだし! フフフッ」


ベスカーは玉座から浮き上がって虚空から禍々しい大鎌を出現させ、前触れなく菓子皿の残りの人の岩玉を一閃して毒で溶かし砕いた!


「ミカゲ。俺は備えるぜ。スキル、超隠れる・・」


私の血の気が引いていると、ラファンは静かに言って、ハイエーテル2つを対価に完全に姿も気配も音も全て消していった。


「やろう」


「先行するよ」


「・・うん」


私達は構えと同時に、ベスカーは、


「アハッ」


と嗤って周囲の巨大アロエを操って数十の斬撃の触手として攻撃してきた!

私達は散開してそれを躱し、ロンロンが突進した。


「スキル、『鉄亀(てつがめ)』っ!!」


盾の守備力を瞬間的に高める技で石化の視線と超高速の毒の大鎌の一撃を完全に防ぐロンロンっ。

ベスカーは立て続けに石化のブレスをロンロンに吹き掛けたけど、マリマリーが近くで旋風を起こして石化ガスを巻き取り、それを手近な巨大アロエに叩き付けて石化して砕き、4割程度の巨大アロエの触手を無効化させた。


「チッ」


舌打ちして、ロンロンのカウンターを避けて飛び退いたベスカーに光の花吹雪に乗って私が迫る!

ベスカーは斬撃の触手を放ったけど、最初程の手数は無いっ。


「スキル、『桜辻(さくらつじ)(てん)』っ!」


光の花弁が舞う範囲で近距離テレポートを繰り返す移動技! 私は一気に間合いを詰めるっ。


「ウザいね!」


ベスカーは大鎌を構えた。だけど、


「スキル、『超盗む』っ!」


すぐ近くに突如出現してラファンが、神速の手並みで大鎌を奪った! でも絵に触れるだけで猛毒らしく、焼けるラファンの両掌っ。


「このっ」


ベスカーは青筋を立てて鉤爪を伸ばし、ベスカーは毒の苦痛で対応が一手遅れてしまった。予定とそこが違ったけどっ、


「『茄子トリック』っ!!」


私はベスカーの眼前に茄子ボム3個をテレポートさせ、起爆させた!


「たぬぅーーーっ?!」


ベスカーも怯ませたけど、吹っ飛ばされてくラファン! でも根性でまた、超隠れるを使って盗んだ毒の大鎌ごと姿を消した。偉いっ!


「オラぁーっ!」


「覚悟っ!」


マリマリーとロンロンが畳み掛ける! ベスカーは石化の手による捕獲と、残りの触手斬撃で対抗するけど、返り血の毒を含め、もう2人に見切られてるっ。石化の視線もロンロンの盾で防がれ、石化のブレスもマリマリーに利用されるので完封されていた。

このまま私も加われば削り勝てそうだけど、毒の大鎌を持ち続けてるラファンが多分持たない! 1発で、決めるっ!!


「『龍会(りゅうだまり)』」


私は刀身に強力に圧縮した聖水の渦を纏った。


「『彼岸吹雪(ひがんふぶき)』!」


浄火の間全体を強く発光のする光の花吹雪で覆い、巨大アロエとベスカー本体を損耗させるっ。


「っ?! お前っ」


ベスカーはマリマリーとロンロンに攻撃されるの無視して、突き抜け、私に迫ろうとしだした。

強くなる光の花吹雪に包まれるベスカー。


「『龍櫻(りゅうざくら)祓根打ち(はらみねうち)』」


光の花吹雪と一体化した斬撃は、私がベスカーの背後に実体化すると、既にベスカーを両断していた。


「潤う、な・・・」


ベスカーは光の花弁に変換されて消滅した。巨大アロエもまた光に変換されて消えていった。


「たぬっ! げふぅ・・・」


離れた位置にまた出現したラファンはすぐに毒の大鎌を手離したけど、両手が酷い状態で、すぐに泡を吹いて、獣人として人に近い姿も保てなくなってボフンっ! と煙と共に狸のヌイグルミのような姿になってその場に昏倒してしまった。


「タヌファーーーンっっ!!!!」


ロンロンが慌てて駆け寄って治療を始めた。


「まずは1体、だよ」


マリマリーは私の元にピョンっと跳んで着地した。


「うん・・魔族はやっぱり、そのつもりで色々するんだね」


私は力が高まり過ぎてちゃんと実体化し切れず花弁を散らし続けてる左手をマリマリーが両手で握って抑えてくれるのを感じながら、ベスカーが最初に齧った人の岩玉の欠片をぼんやり見詰めていた。

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