グリムツリー 中編
すっきりしてハミングしながら停泊している艦内の廊下を歩いていると、廊下沿いの上層への金属の階段から私達以外でホノカ神様から加護を受けてる職業・『守護騎士』のロンロンと、職業・『凍結魔術師』のナジムが降りてきた。
「ミカゲちゃん」
「小っちゃいけどコア撃破率No.1のオータムゴールドさんじゃないですか」
半笑いのナジム。ちょっと面倒臭いタイプ!
「なんだよ、ナジムっ。ロンロンも雨季の『クレーム会議』以来じゃない?」
「あれ、酷かったね」
ロンロンは短髪で背が高くてガッチリした二十歳ぐらいの女の子で、元はカシナート市の警官。武闘派に見えるけど交通課で実直に仕事してたらしい。
「ギルドの実態が魔王軍戦で使えるタマの早期育成機関でしたからねぇ。直接の加護の有無の差もわりとエグいですし」
ナジムはエルフ系の黒い肌の男子で18歳くらいだっけ? 元は南のパピヨンダガー市の魔法道具屋で見習いをしながら魔法系のスキルスクールに通ってたみたい。
他の人に絡みがちだから活動初期はトラブルメーカーで、加護を受けてるのに1回隊を変わってる。
よくホノカ神様に選ばれたね!
「素で活動してる人達は面白くないって人も多いんだろな、とは思うよ」
「ミカゲちゃん達は直に神様方の『お世話係』までしてるんだよね? 大丈夫なの?」
「三神は最初は普通にバトってたよ」
正確にはテンジクカ神とはバトってたよっ。
「茄子と匙と蛙の神様でしょう? よくわからないですね! はははっ」
「・・何か、問題あるゲコ?」
いつの間にか出現していたマブカ神が背後からナジムの片頬をベロリと舐めた。
「ひぃ~っ?! すいませんすいませんっ。失礼しましたっ!! ロンロンっ、行こうっ!」
慌てて退散するナジム。
「ああっ・・失礼しますマブカ神様」
「ゲコ」
「じゃ、ミカゲも。今回よろしくね」
「うん」
2人は廊下の向こうに去っていった。確か、先にカシナート市系の隊の控え室がある。パピヨンダガー市系の隊との協議かなんかあったのかも??
「急に出るからビックリしてたじゃないですか、マブカ神様」
ゴージャスな神様の服を着て、セクシーな体型で美人だけど舌をペローンと出してるから、機械だらけの艦内に1人で立っていると『なんらかの都市伝説怪人』風だっ。
「小癪なことを言いだしたのでビックリさせてやったのですよ?」
「・・ちょっと言ったら、すぐ来ましたよね?」
「これだけ長い時間同じ場所にいれば、この艦はもはや私のテリトリーなのです。ゲコォ」
舌を出したまま器用にニヤリとするマブカ神。神様だからただいるだけで、色々アレなんだね・・
「そう、ですか・・じゃ、私も失礼します。あ、今日はよろしくです」
一応、ペコっと頭を下げ、私はその場を去ろうとしたけど、ふと、振り返った。
「ゲコ?」
「パルシーは親戚で、幼馴染みの1人なんですが」
たぶんパルシーはマブカ神の加護も受けてるから、私達より生き残れる気はした。
「のめり込み易くて結構変わってるけど、根はいい子だと思うんで、よろしくお願いします」
「わかりました。というかパルシー君の良さは私がよく知ってます! 親戚で幼馴染みとかっ、負けないですよっ?」
「いやいやっ、張り合ってないですっ。ほんと、よろしく、ということなんで、・・失礼します」
これまであんまりちゃんと話してなかったから、ちょっと変な感じになっちゃった。私はそそくさと今度こそ、その場を後にしようとしたけどよくよく考えてみたらマブカ神も控え室同じだ。
「あの、マブカ神様も控え室、戻ります?」
「戻るゲコ」
私はマブカ神と連れ立って歩き始めた。
「え~と・・好きな動物とかあります?」
「新鮮なコオロギ」
「いやっ、食べる方じゃなくて!」
「ゲコ?」
いまいち噛み合わない会話をしながら、私達は控え室へ戻っていった。
・・固定座席前方に取り付けられた大きな魔工画面に映るグリーンベース17のグリムツリー、ダウンポリスが、地表に発生した超巨大魔方陣の光に包まれた!『迷宮化』の魔術っ。
これで対象物は迷宮構造物に変質し、内部から攻略可能になる。
ル・ケブ州で確保できた迷宮化魔法の使い手の全てがここに投じられていた。
「内部観測完了次第、突入です。ムルッペコーポレーションに協力して頂きましたが、急拵えですので舌と首を痛めないよう御注意下さい」
ネネフルさんは出撃時のオペレーターも担当してくれていた。
私達は突入用のただの立方体、って形態になってる『大型マシンゴーレムシップ・3号機』の格納室に作られた座席に詰め込まれていた。すんごい狭い!
ゴーレムシップ自体は仮設前編基地から離陸した中型迷彩飛行艦の艦底に取り付けられてる。
そう、吊られてるだけ! 普通に怖いっ。カタパルトの規格が合わなかったみたい・・
「マティちゃん、苦しくない?」
「大丈夫ケムっ」
マティちゃんは半面が空気穴の付いた透明プラスチック製の卵型保護ケースに収まっていた。なんかベビーカーみたいで可愛い。実家の姪っ子のことを思い出したりもした。
「ミカゲ」
隣のマリマリーが手を握ってきた。お? いつも体温高いマリマリー。
「これが片付いたら、あたしらの隊は影響を受けた他の魔物とか、邪教徒狩りとかに移ろう。艦隊戦とか、魔王と戦うとか、よそう」
「うーん」
「ミカゲ、お前はなんというか・・なんだかんだで神様達に気に入られ過ぎてる気がする」
「ええ? パルシーの方が」
「そういうんじゃなくて、戦士としての祝福、っていうか」
確かに、なんか神器の類いがやたら私のとこに集まってくる気はするけど、これってフェアリーコインの効果とも言えるような??
「あんた、このままだと『勇者』に仕立てられちゃうんじゃないか?」
「そんな大袈裟だって!」
さすがに買い被り過ぎだよ。私はすっかり過保護モードにスイッチが入ってしまったマリマリーを宥め、やがて軍の迷宮化ダウンポリスの内部観測が済んだ。
コア個体は幹の上部中心の最奥に発生していた。本来のコアもそこに有ったようだけど、迷宮化の魔術に生命力のリソースを持っていかれて上位の残留物コア3体分程度に弱体化はしているみたい。
いや上位の残留物コア3体分って、どんだけなのっ?
「出撃・・どうぞっ!」
ネネフルさんの合図と同時に私達の乗る迷彩結界展開済みのゴーレムシップ・3号機は艦から切り離され、少しスラスター修正をし、一気にメインバーニアを噴かしてダウンポリスの幹の上部中心に向けて突進を始めた!!
他の艦のマシンゴーレムシップも次々突進を始める。
「うわわっ?!」
「YOっ!」
「ケムんっ」
「ゲコぉおおおっっ」
加速の反動に私達が仰け反っていると、操縦席からパイロットの州軍兵の人からアナウンスが入った。
「小型無人爆雷機先行っ!」
画面状で小型無人ゴーレムシップ十数機が上部中央とその他各所に突撃大爆発して、各所に穴を空けた!!
「デコイゴーレム散布っ!」
続けて、別の無人小型艦から大量の小型ゴーレム達が上部中央以外の穴に投入される!
全部陽動の為。迷宮化によってダウンポリスの生命力は迷宮と宝物と守護モンスターに変換されている。
攻撃によって休眠から目覚めちゃうから、なるべく散らして時間を稼ぎたい。
迷宮化ダウンポリスの歪な表面が徐々に発光し始める。合わせてダウンポリス周辺に巨大な円盤型の魔力障壁が次々発生し始めた!
「抜けるっ!」
私達の3号機は複雑な軌道で回避しながら突進を続ける。
迷宮化のお陰で外部への迎撃はできなくなってるみたいだけど、ダウンポリスは『防衛型』のグリムツリーなので『迷宮を守護する結界』くらいは張ってくる!
数機が増えてゆく円盤障壁に機体の結界ごと弾かれて後退していったけど、3号機を含む他のゴーレムシップは全て大穴が空いた。上部中央に突入した。
「全機変形っ!! 運べるとこまで運ぶぞっ?! 月給が農業組合と変わらない州軍兵見くびんなよっ? オッラァーーっ!!!」
突入した立方体のゴーレムシップは全て人型に変形し、『追尾榴弾』『目ビーム』『踏んづける』『ロケットパンチ』なんかを連発して群がりだした守護モンスター達を蹴散らして進んでゆくっ。
強いっ! 強いぞ変形ゴーレムシップっ!! 州軍に予算が3倍あったらたぶん私達必要無かった! 実際の州軍は発生した宝物を回収しまくらないとカツカツみたいだけどっ。
「僕もコレ、操縦したかったなぁっ!『巨大ゴーレム搭乗で敵を殲滅っ!』は魔工師のロマンですよっ」
興奮してるパルシー(魔工師レベル30)と、それを微笑ましく見詰めるマブカ神。・・そんな微笑ましいこと言ってないけどねっ。
そのままガンガン進んで、密かにお宝回収用の『小型シークマシンゴーレム』を散布しながら私達はコア個体までの直進ルート(踏破可能な迷宮にはなってるけど、真面目に迷ったりせずに壁を抜いてってる!)の4割まで進んだ辺りで、
「っ?! 2号機、何かっ」
前に出ていた2号機が爆炎から飛び出した機体からすると小さな何かに飛び付かれ、胴体の機関部を両断された。
パイロットや格納室の選抜ギルド隊員達(ロンロン居たっぽい?)が慌てて脱出し、2号機は爆散っ!!
2号機を斬り捨てた小さな影は多数の変形マシンゴーレムシップに囲まれながら、悠々と大剣を肩に掛けて嗤った!
「人?」
「魔剣士アディっ! ・・さん」
私達は一瞬唖然としていると、散々ゴーレムが破壊した壁を抜いて通路にした瓦礫の向こうから無数の『骨の触手』が飛び出してきて、残りの全ゴーレムシップの手足と目ビームの射出口と榴弾射出口のカバーに突き刺さり動きを封じた!
通路の先には無数の骨の触手に絡まるようにして構える屍のイエーラ!!
「なっ?!」
続けて笑みを浮かべたまま、魔剣士アディが黒い花吹雪を纏って飛び上がり、逆巻き出した!
「伝えてっ、脱出っ!!」
インカムで叫ぶと、3号機のパイロットが即座に汲んでくれて緊急脱出信号を出し、残る全機から私達が飛び出すのと魔剣士アディの黒の花弁の刃の連打による全方位攻撃で全機を真っ二つにするのは同時だった。
機体の爆発は各隊が結界で防いだ。ミカゲ隊は私のオールファウンテンシールドの水の結界っ。ディンタン隊はパルシーに付いたマブカ神の泡の結界!
「少し間が空いてしまったな」
爆発等、物ともせず、着地した魔剣士アディが呼び掛けてきた。その側に屍のイエーラが骨の触手をまだいくらか纏って降り立ち、そっと身を寄せた。
「我々は刺客だ。優先順位を付けて『勇者の兆しを持つ者』を狩らねばならない」
魔剣士アディは大剣の切っ先を私に向けて言い放った。
「お前の番になったぞ? ミカゲ・オータムゴールドっ!!」
「だから私、勇者じゃないってばっ!!」
「アハハハッ」
「うふふっ」
よくわかんないけど、魔剣士アディと屍のイエーラがめっちゃウケてるよっ。どこにあったの? 貴女達の笑いのツボっ。別に知りたくもないけど!!