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グリムツリー 前編

「オロチ櫻・(ひじり)・根打ちっ!!」


私はナマクラ・薄紅を最後の残留物コア『屍塊(しかい)』に打ち砕き、光の花弁に変換して倒したっ。

私達の隊や後方支援組のギルドメンバーや魔工機動特殊課の魔工戦車と交戦していた屍塊の眷属達も連鎖的に光の花弁に変換されてゆく!


「はぁっ、終わったぁ・・ハッ?!」


私は反射的にオリハルコンスプーンを手に持って小雨が降り続ける空を見たけど、今回は魔剣士アディさんの強襲はなさそうだった。

代わりに宙で激しく清らかな光が発生し、そこから、小柄で華奢な四肢、桜色の髪と瞳、輝く聖なる衣、4枚の透けたトンボのような羽根、口元に付いているのに気付いていないポテトチップスの欠片っ! まさしくっ、ホノカ神様がそれはそれは神々しく降臨された!!

・・出るタイミングを計ってる間を絶対ポテチタイムにしてたよね。


「スプリングウッドの冒険者ギルドの皆さん、それから州警察の魔工機動とくしぇ・・オホンっ!」


噛んだ。


「魔工! 機動! 特殊課! の皆さんっ!」


区切って滑舌対策してきたっ。


「よくぞ残留物コアを全て・・2割くらいはテンジクカ神様がワーって、片付けちゃいましたけど・・とにかくっ! よくぞ成し遂げてくれました。魔との戦いはまだ終わっておりませんが、今はひとときの休息を・・・」


ホノカ神様は残留物コアとその眷属であった花吹雪をより柔らかく輝かせ、私達全員の傷と疲労を癒し、ギルドメンバーや戦車のハッチから顔を出した機動特殊課の人達の歓声に手を振り、微笑みながら光の中に再び消えていった。

なんか前にもこんなのあったような・・



で、その夜、私の実家の旅館『一角騾馬(いっかくらば)』の私の部屋では、


「はぁ~~~~っっっ、つーかーれーたぁーーーっっっっ!!!!」


エルフっ子バージョンのホノカ神様がベッドに座って『愚痴りモード』に入っていた。


「疲労回復にはワシの神力たっぷりの『無限茄子カレー』が1番じゃっ! ププンっ!!」


普通にいるカレー屋の制服のままのタデモリ神が、魔工炊飯器を抱え、頭は魔工コンロ型に改造された匙人間の上に置かれた小鍋から『お玉みたいな匙』で取り出されたカレーのルーを掛けられたライスを『長めの匙』でさらに掬って、強引にホノカ神様の口に放り込んだ。


「あむうっ・・もう最近こればっかりで飽きたよぉ」


「何を言っておるんじゃっ! 今のこの地上で、ワシがありがたくも『スプーンで食べさせる』無限茄子カレー程、滋養のある食物はないのじゃっ!!」


「うう・・たまには茄子以外の野菜を・・」


「ププンっ! 黙って神力茄子カレーっ、喰うのじゃっ!! どれだけ浄化待ちの、討伐された魔物どもの魂が渋滞しておると思っておるのじゃっ」


「あむうっっ?!」


なんだかな・・まぁでもこの2人、長期離脱者のケアで協力する内にちょっとは仲良くなったみたいで、そこは良かったよ。


「ミカゲ・オータムゴールド。湯上がりほっこりパジャマ姿でめでたしめでたし、のような顔をしておるが、まだ最終回にはさせんのじゃっ?!『続く』じゃっ! ププーンっ」


「いや、ププンと言われましても。こっからどうしたらいいんですか? ギルドメンバーも区切りがついた、って辞めたりサポーター専門に回る人さらに増えちゃったし」


回復した長期離脱者や一回辞めてから細目のヒロシ達の説得で戻ってきた人達も殆んどサポーター専任を申し出ている。

前線に残ってくれそうなのは私やディンタン達を入れてもう60人くらいだ。

レベルは皆、28から30ぐらいでヒロシより強くなっちゃったけど、数少ないよ・・


「残るグリムツリー『本体』2個体の討伐に関しては、一応、段取りは決まったよ?」


「あ、やっぱやるんですね・・」


「いやっ、片方だけ! 片方は『迷宮化』の術が効きそうにないんだけど物理で押し切れそうだから、州軍の方々はそっちに回ってもらって、もう片方の個体『ダウンポリス』をみんなで倒してほしいんだ」


「倒せるかなぁ?『樹』って言っても、前に倒した黒樫(くろかし)と比べ物にならないくらい大きいんですよね?」


あの塔みたいなトレントに憑いてたヤツね。コメットストライクで燃してから突っ込んだヤツね! あの作戦考えた人、頭オカシイと思ったけどっ。


「大丈夫! もうすぐ州軍の人達が休眠状態までは持ち込めるから、後は迷宮化して、内部からコアを壊すだけ! 黒樫の時と違ってあちこち炎上はしてないだろうし、マブカ神様も手伝ってくれるみたいだから。大丈夫、大丈夫っ!」


「いやあの蛙、大丈夫じゃろうか? 最近、ミカゲの所のカラクリちび助に益々『骨抜き』にされておるではないか?」


それね。今回も出掛けにお弁当作ってきてたもんね。


「うっ・・でも、なんかわかんないけど『徳』は凄い高まってるみたいだよ?」


「人間だかボックル族だかと好いた惚れたとするだけで徳が高まるじゃとっ?! ププ~~~ンっっ!!! ワシが苦労に苦労を重ねっ、カレー屋を4号店まで増やして徳を貯めておるというのにっ! なんたる破廉恥かつイージーなっ!! 許せんのじゃっっ」


いつの間に4号店を・・。なんか街で『匙教』の人達が急激に増えてきてるし、魔族も気になるけど、タデモリ神をこのまま野放しにしておいて大丈夫なのかな?? その内この国の国教になってしまって『語尾にププンと付けること』が義務化されてしまうかも・・っ?!!


「まぁまぁ、とにかく、州軍が準備を整えたり、来月までは空くだろうから、皆は休暇が済んだら、自主トレとかしててね」


「まだ鍛えるんですか・・」


どうなっちゃうだ? 私達?? もう魔工自動車に思い切り跳ねられても「イテテ・・効いたぁっ。ワクワクしてきたぜ!」くらいになっちゃってるよ?! 全部戦いが終わったら神様達に『レベルダウン』をお願いしないと、普通の生活に戻る自信無いよっ!


「というワケで、ミカゲもありがたい無限茄子カレーを食べるのじゃっ! プンっ」


タデモリ神はいつの間にか皿によそった大盛り無限茄子カレーライスを私にずいっ、と差し出すタデモリ神っ。


「今日の無限茄子カレーは、ココナッツとニンニクが増し増しだよ・・」


モソモソと自分でスプーンで掬って食べ始めているホノカ神。なんか、刑務所暮らしに慣れた囚人みたいな表情だ。


「私、お腹が空いていたので、お風呂を入る前に夕食を食べ終わっておりまして・・」


「食べる子は育つっ、じゃ!」


「・・・頂きます」


私は諦めてニンニクとココナッツ増し増しの無限茄子カレーライスを匙で食べ始めた。味は美味しい! 神力でパワーも湧いてくるっ! でも、私の胃のキャパシティがっ。

この後、なんだかんだでお代わりまでさせられて私はリバース寸前まで追い込まれたよ・・・うっぷっ。



監視用の強力な迷彩結界を張れる州軍の小型魔工飛行艦に乗った私達は、艦の窓から強制休眠させられたグリムツリー本体、ダウンポリスを見ていた。

雨季が明け、7月の夏の日差しを静かに受けているそれ。


「ちょっと大き過ぎないか?」


マリマリーが緊張するのもわかる。もう、1つの都市と同じ大きさ。城壁のような根はグリーンベース17を埋め尽くし、幹には雲が掛かっていた。

シルエットは植物その物だけど、よく見ると表面は無数の歪んだモンスター達だった。


「途方も無く見えますが、ここは1番後期の被害地なので、休眠させるまでの段取りはいい方だったんですよ?」


州軍の担当者『ネネフル』が言ってきた。狐型獣人族(ワーフォックス)の女性。


「爆薬等でとどめは刺せないのか?」


ゼンがもっともなことを聞く。


毒光石(どくこうせき)爆弾を使うか、焼夷爆弾の大量使用すれば可能です。しかし、環境影響の点で最終手段となりますね」


5年前にグリムツリーが世界中で発生した当時、パニックに陥った人類は大量破壊兵器等を連発し『第一波』のグリムツリーを殲滅したけど、あちこちで環境が一時的にボロボロになっちゃった。

この汚染を回復する為に主要な神々は消耗してしまったりもしてる・・。


「ゲコォ、幹まで取り付けば、コア近くまでは私の眷属達で血路を開きます。何も心配ありません。パルシー君も途中で連れて帰ります!」


「帰らないですよ?」


「ゲコォ?」


マブカ神がずっとベタベタしてくるので、ちょっと反抗期みたいなノリになってるパルシーっ。


「YOっ! とにかくこのル・ケブ州のグリムツリー騒動はこれでマジでガチでっ、ラスト! ばっちり決めようぜっ! な? ミカゲ」


「うんっ、皆、いつも通り頑張ろう!!」


「了解っ!!!」


「ケムんっ、決戦の(とき)っ!」


「ゲコォ・・」


目視確認を終えて、一旦、仮設前線基地に引き上げた私達は、いよいよグリムツリー本体討伐へと臨むことになった!

ふーっ! ほんと緊張してきたっ。もう1回トイレ行っとこっ!!

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