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会議と匙と雨季の恋と誇り

細目のヒロシはギルドの大会議室に集まった各隊の隊長38名を前に話しだした。


「コア個体は残り3体。州軍の対応しているグリムツリー本体も残りわずかです。立て続けになっていた20隊は心配無く、今日から4日休んで下さいね」


「休んで下さいって言う為にわざわざ集めたの?」


「全撃破後の活動は?」


「最初の契約以上は付き合えない! 我々はサポートに回らせてもらう」


「離脱組もサポートくらいはさせたらいいんじゃない? チキン過ぎるっ」


「魔族の艦船の目撃が相次いでいると聞くが?」


「俺達は結局、歩兵だぞ? 艦隊戦なんてナンセンスだ!」


「ホノカ神様はなんと?」


「一部の隊が加護を独占している!」


「YO?」


「長期離脱者の親族からの起訴が溜まってきているようだぞ?」


「酷い記事があった!」


皆、ワーワー言い始めた。そこからは協議というより、『ヒロシが日頃の不満を聞く会』になった。ま、そうなるよね・・



私とディンタンは傘を差して、げんなりしてスプリングウッドのギルド本部から出てきた。

ヒロシに確認したいこともあったけど、会が終わっても食って掛かる人が結構いて、とてもじゃなかった。


「込み入ってくると土下座で解決、ってワケにもいかないぜ? セイホー」


「ホントだね。ディンタンどうする? 私はまずゼンとマティちゃんと合流して神様達の所、回ってくるつもりだけど?」


「俺は1回、警察署行ってそっちでも状況確認してみっかな? 知り合いにラッパー辞めて警官になった人いんだYO」


「ラッパーって警官になれるんだ」


「お? ミカゲ。ラッパーはなんにだってなれるぜ? 警官だろ、サラリーメンだろ、パティシエだろ、農家だろ、あとは板金工、葬儀屋、ブライダルプランナー・・」


「街がラッパーだらけになっちゃうよっ。まぁいいや。私、いくね」


「おう、夜はマリマリー達とメシだな」


「うん、お寿司ね!」


私はディンタンと別れて、朝、マティ3世を預けたゼンとの待ち合わせ場所に向かった。



小一時間後(店が遠い!)、私とゼンとマティちゃんはカレー屋『タデ☆モリ』のカウンター席にいた。

店は混んでいて匙人間が忙しく働いてる。

私達の前にはランチカレーセットが置かれていた。


「頂きまーす」


「頂きます」


「ケムん、食す(とき)っ!」


カレーをハフハフ食べる私達をカウンター越しに、店の制服を着た血色のいいタデモリ神が仁王立ちして見ている。お腹の周りの制服のボタンがパツパツだ。


「・・見過ぎですよ? タデモリ神様」


「プン! カレーを食べに来たワケではないんじゃろう?」


私は一旦、スプーン置いた。


「タデモリ神様、ちょっと状況が変わってきているみたいで、ホノカ神様は怪我した人のケアとか倒された魔物の魂の浄化で忙しそうにしてらっしゃって・・」


「手に負えぬ気になってきたと?」


「いやまぁ」


「最近、テンジクカ神様もコロシアムにいらっしゃられないようですが?」


「アレは茄子のくせに好戦的なヤツじゃ。州内のお前達の取り零しの破片や、目立つ魔物を手下どもと狩って回っておるのじゃ」


「えー、テンジクカ神。そんなことを」


確かにやりそうな感じはした。


「グリムツリーは蓄えた力で魔界の入り口を開く力があるのじゃ。既に相当な魔族どもが地上に出てきておる!」


「やっぱりっ!」


「幹部らしいのにも引っ掛かったしな」


ギルドでも誰か言ってたけど、艦隊とか・・ちょっとキツいよ。


「ギルドは伸び代を期待して若手を集めたのじゃろうが、先んじて魔族の大戦力との決戦の想定を話すと、離脱者が増え過ぎると思ってボヤかしていたんじゃろうな」


「また荒れそうだ」


「ケムん」


「この世界は長く平和だったからのぉ。『逃げれば自分達ばかりは見逃してもらえる』と、根拠無く考えてしまうのも致し方ないのじゃ。人の心はか弱き物、ププン!」


「タデモリ神様、もう少し力を貸してもらえませんか?」


「プン? この間、オリハルコンスプーン授けたじゃろう?」


「とても役立ちました! ですが私達にっ」


私はカレースプーンを両手で持って祈りの構えを取った、ゼンもマティちゃんも続く。


「さらなるスプーンの御加護を!!」


「・・3号店を出店し、徳は集め易くなっておるのじゃ。テンジクカ神から授かった『無限茄子』を貸すというのであれば、神力を込めた茄子カレーを長期離脱の者達に振る舞い、傷や気力を癒してやらんではない。ププン!!」


「ありがとうございます!」


「助かります!」


「ケムんっ」


「・・善き、匙の糧のあらんことを・・・」


目映い匙を掲げ、後光に照らされたタデモリ神に、私達と他の客達と匙人間達はただただ畏まって拝んだよ。

これが、後に知られる『(さじ)教』が数百年ぶりの復活した瞬間であったみたい・・。



午後3時過ぎ。苦手だというゼンと、ケムシーノ仲間のミティ3世とピティ3世と約束があるというマティちゃんと別れ、私は合流したマリマリーとパルシーと一緒に、マブカ神の館に来ていた。


「他の2(ちゅう)が手を貸しているのに私だけ何もしないというワケにもゆきませんね。ゲコっ」


ナチュラルにホノカ神を勘定に入れていないっぽいマブカ神。


「ただし、1つ条件があります」


「条件?」


プールの玉座で、マブカ神はむしろ神妙に言った。



10分後、水着から『いつもの神様の服』に着替えたマブカ神と私とマリマリーは館のもはや密林みたいになってる温室にいた。

私達の隠れる熱帯の木の陰の先にはポツンとパルシーが蛙人族(ワーフロッグ)にお茶を出されて座ってるティーテーブルがある。


「・・なんで1回隠れるんですか? とっとと告白したらいいじゃないですか?」


面倒臭そうなマリマリー。


「告白?! ゲコぉっ? ち、違いますよぉおっ?? 最近『パルシー君』が普通のマッサージ機の試作品しか貸してくれないんですよぉ。どうしたのかなぁ? 機嫌悪いのかなぁ? って聞くだけですよぉ?」


私とマリマリーは顔を見合せた。


「だけならプールでサクっと聞いたらいいじゃないですか?」


私も面倒臭くなってきた!


「ゲコぉっ、あそこだとなんか偉そうですしっ、それに・・水着はちょっと恥ずかしい、っといいますか・・・」


赤面するマブカ神。


「じゃ、なんで最初に水着着て出てきたんッスか?」


雑な敬語になるマリマリー。


「いやぁ、せっかくプールの間までパルシー君が来てくれるなら、新しい水着、見せちゃおったかなぁっ、て! ゲコっ」


もう完全に真っ赤になるマブカ神。


「・・聞いてられないんでっ、とっとと行きましょう!」


私はマブカ神の片腕を取り、マリマリーももう片方の腕を取ってマブカ神を連行し始めた。


「ゲコぉっ?! 心の準備がっっ」


悪あがきするマブカ神をパルシーの前まで引っ立てた!


「なんですか? マブカ神様」


「・・いや、あのぅ」


もじもじするマブカ神。


「私のこと、飽きましたか? 試作機のレポート! いつも真面目に書いてたと思うのですが・・ゲコぉ」


ちょっと泣きそうなマブカ神。真顔のパルシー。


「・・貴女はお一人上手なようですが、もうマッサージ機のテストは結構です」


「ゲコぉ」


ほぼ泣くマブカ神。動じないパルシー。


「貴女は時折、可愛らしく見えますね。機械でテストするのが不愉快になってきました」


「ゲコ?」


え、待って。私とマリマリーは居合わせて大丈夫な会話の流れかな? パルシー、私達のこと見えてるよね??


「今後は」


パルシー!


「水族館にでもゆきませんか? ムルッペコーポレーションの業務はギルド活動の合間になんとでもできるので、僕も別に気晴らしがしたくなりました。貴女と」


「・・・ゲコぉおおーーーっ??!!!」


マブカ神は茹で蛙のようになってノビてしまった!

ふぅ~っ、ビビった! 私もマリマリーも冷や汗かいちゃったよっ。というか、なんか2人、手順的なの逆じゃない??


・・私とマリマリーは温室でもう少し話してゆくというパルシーと別れ、2人でモノクロ映画を観たり買い物をしたりしてから、時間になったからディンタンと待ち合わせしている半個室の寿司ダイニングに向かった。


「こっちだYO!」


先に来ていたディンタンは、枝豆をツマミにルートビアを飲んでいた。


「私、特上握り満開セット!! ワカメサラダ! ドリンクに低糖サクランボソーダ下さい!」


「あたしは特上お刺身セットと炙りキリタンポ、季節の糠漬けプレート、ドリンクはトリプルベリーアイスティー氷無しで」


「俺は特上海鮮丼大盛り!! 卵焼きとモロキュウ! よろしくセイホー!!」


オーダーを済ませ、情報を交換した。

マブカ神はワーフロッグ達に州内の魔族の動きを探らせてくれることになった。

州警察は魔工機動特殊課を段階的に冒険者ギルドのバックアップに回すつもりらしかった。


「邪教徒対策の人手も足りてないみたいだけどYO、荒事になってくると中々大変みたいだ」


「それ、あたしら行くの?」


「いや、魔族軍やグリムツリー本体に比べりゃマシだから、サポート組や離脱組を口説くつもりみたいだな。お? 卵焼き美味いYOっ!」


「なんかすっかり『その後の話』モードだね。というか私達、グリムツリー本体や魔族軍と戦わなきゃなんないの? もう~っ、どっか別のとこで戦争してくれたらいいのに!!」


お寿司もワカメも美味しいけど、一向に『大体片付いて安心』なフェーズにならないよ!


「タデモリ神のカレーで怪我してる連中が落ち着いたらホノカ神もちょっとは手が開くよね? ミカゲ、ホノカ神にもあたしらをどうするつもりか聞いといてくれよ」


「うん。たぶん、凄い疲れてると思うけど・・キリタンポ1個ちょうだい」


「いいよ、イクラ軍艦1個とトレードな」


「俺の卵焼き1個ずつ分けてやってもいいぜ? セイホー!」


私達は美味しいお寿司とサイドメニューを楽しみながら、今後のことを話した。

ギルドはお給料がいいから、最近金銭感覚がちょっと緩くなってきている自覚はあるけど、美味しい物くらい食べれないと、やってられないよ!



すっかり満腹になって3人で傘を差してトラムの駅までぶらぶら歩いていた。


「妙に高いもん食ってるけどYO、なんか尋常中学ん時みたいだな?」


「中学の時、ディンタンちょっとカッコ付けてたからあんまりウチらと並んで帰ったりしなかったよ?」


「いやミカゲっ、俺よりマリマリーの方がよっぽどツンケンしてたぜ? 今の5倍くらい!」


「せぇな~」


うるさそうなマリマリー。


「彼女多かったからトラブル続きだったし、なんかダンスチームでもしょっちゃう活動方針でメンバーと揉めて、4回くらいチーム変わってたよね?」


「そういう年頃だった・・っ!」


マリマリーは身構えたっ。ディンタンと私も構える! オールファウンテンシールドの腕時計も少し発光して警告する!!

雨の向こうに、赤いドレスのような古風な服を着た女性と、喪服のようなドレスを着た女性が、傘を差して立っていた。2人は手を繋いでいる。

1人は傘を傾けて顔を見せた。鎧は着てないし、半面も付けてないけど!


「アディさん?!」


「どうして街ん中に?!」


「昨日の今日だぞ?!」


街の魔除けは??


「勘違いするな、『一切の危害を加えない』その縛りを課して街へ入った。今の私達は無力だ」


アディさんはそう言い、喪服の女性も傘を傾けて顔を見せた。


「イエーラ、さん?!」


「・・私は魔物と人達の遺骸とアディの想いを元に、主によって作られた人形です。私は『(しかばね)のイエーラ』」


なんか、ややこしいことになってる?!


「何しに来たんだよ? 抵抗できないなら殺されにでも来たのかよ?!」


「殺したいのなら好きにすればいい、私達は恐れない。ミカゲ・オータムゴールド」


アディさんは私を真っ直ぐ見据えた。


「記憶の球をもう1度私達に使ってみろ。前回、動揺したのは屈辱だ! 全て理解して上で、私達は『魔』としてお前達に挑戦する!!」


アディさんと、屍のイエーラは私達を見据えた。

私達は困惑するしかない。


「どうすんだ??」


「ここで無抵抗の相手を倒すのもダサぇな」


「・・使う?」


私は私服に合わせていたウワバミのバックルから琥珀の球を取り出した。

私達は琥珀の球と2人を見比べて・・頷き合った。


「わかった。使うよ」


私は魔力で操って琥珀の球を2人の前に持ってゆき、光と共に記憶を解放した!


「っ!!」


「っ!」


2人は怯んで涙を溢したけど、手を強く握り合い、アディさんは琥珀の球を握り、そして・・握り潰した! 砕け散る琥珀の球!!


「・・かつての私の想い、『彼女』の想い、理解した。だが」


屍のイエーラと視線を合わせるアディさん。


「やはり、それは彼女達の生涯だ。この私達は違う」


「この偽りの命燃え尽きるまで、アディを愛します!」


2人の勢いに私達は圧倒されるばかりだった。でもさ!


「それで、ホントにいいの? 本物のイエーラさんは1人だったよ?」


「ミカゲ・オータムゴールド。お前が見たのは、魔族によってねじ曲げられた偽りの彼女だ。本当の彼女は、地獄でかつての私と結ばれた。それが、彼女の人生だったんだ・・」


アディさんは半面を虚空から出して身に付けた。


「私は魔剣士アディ。魔軍(まぐん)の刺客だ! 再び戦地で見る時は、一切の迷いは不要!! 最大の力でっ、私に対抗してみろ! お前の生涯に、守るべき誇りがあるのならば!!」


アディさん・・魔剣士アディは屍のアディと共に背に翼を早し、傘を手放して雨雲の中に飛び去っていった。

残された傘もこの世の物じゃなかったみたいで、雨の中、緑色の炎を灯して、薄紙のように燃え尽き始めた。


「・・誇り、あるのかな? 私」


「あるよ」


マリマリーは私の肩に手を置き、


「YO、無くても俺達が見付けちまうぜ?」


ディンタンは笑い掛けた。

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