魔剣士アディ 後編
数百の魔族達は私達を素通りして後ろの大隊の皆の方へ殺到し、大混乱になったっ!
アディさんは半面をつけ直した。
「出歯亀のお前達は私が始末をつける」
禍々しい大剣を私達(主に私!)を向けるアディさんっ。
「立て直せっ!」
YO付ける余裕もなく、人形の分身の大群をアディさんに放つディンタン!
私達は意を汲んで、それぞれウワバミのバックルから取り出した霊薬を使って回復し、私はナマクラ・薄紅を拾って、パルシーは別のマシンゴーレムを召喚したっ。
「っ!!」
そうしている間にディンタンの分身人形はあっという間に大剣に連撃に殲滅されてしまい、ディンタンは消耗で膝をついてしまう!
「ディンタンっ、代わるっ!」
「YOっ?」
「マナ・スケイルっ!!!」
マリマリーがディンタンの首根っこを掴んで後ろに放り投げて交代し、マティ3世がバフを失っていた自分を含む私達全員に鱗状の魔力の護りを付与した!
アディさんの凄まじい連撃を風を纏った『野分け薙ぎ』で打ち返しだした側から押されるマリマリーっ。
私はスッ転んでるディンタンにエリクサーの瓶を投げ渡しながら刀に光の花吹雪を纏い直す! ゼンは『ドライブガン・BIS』の銃撃でマリマリーの援護を始め、さっきので懲りたパルシーは取り敢えずマシンゴーレムの背に乗って距離を取ったっ。
「・・『本物の』イエーラを始末したようだな?」
半面の向こうの表情がわからない。
「本物??」
私も桜辻のスキルで加速してマリマリーの加勢に入ったっ。
大剣の攻撃は一撃一撃が重く速く正確だった! パルシーがマシンゴーレムに撃たせる『曲がる熱線』による援護が始まっても崩し切れないっ。
マリマリーは既に滝の汗っ。ヤバい! この人、アディさん! たぶんレベル30台後半だっ。人間なら英雄級の力っ!!
「・・スキル、『冥穴棘網』っ!」
返事の代わりにアディさんの影から噴き出した闇が茨の網のようになって周囲に爆散した!! 瞬間、私を蹴っ飛ばすマリマリーっ。
「っっ?!」
マリマリーと後ろにいたゼンとゼンの背にいたマティちゃん、上空にいたけど徹底的に狙われたパルシーとマシンゴーレムは闇の棘の網に絡め捕らえられた!!
捕らえられて即座に絞られる皆っ! 打たれ弱いパルシーは咄嗟に防御体勢のマシンゴーレムの中に入ったけど長く持ちそうにないっ。
「あああーーーっ!!!」
「ケムぅーーっ!!!」
叫ぶマリマリーとマティちゃん!
「げほげほっ、マリマリー・・っ」
私はお腹の辺りを蹴られたから吐きそうになりながらなんとか起き上がった。回復していたディンタンも自分自身の分身を使って逃れたみたいで、『フルゴング・改弍』を構え直していた。
「ミカゲっ! 初見殺しだけどよっ、維持にリソース使ってる! 畳むぜっ!!」
「うんっ、アディさん・・記憶っ、どうなってんのっ?!」
ディンタンが出した分身人形に紛れるように、私さ桜辻の加速でアディさんに迫ったっ。
「私は偽物なのか?」
散発的に闇の棘の網を放ちつつ、どこかぼんやり話すアディさん。
私とディンタンが間合いに入ると、分身人形は網を使っての捕獲粉砕する対応に終始し、自身の大剣を使って応戦してきた! でも、ディンタンの言う通り最初よりかは軽いっ。
「造られた当初は疑問に思ったが、『また彼女に出逢い』、そもそも何を失い求めた者であったのか? 私は考察し、結論に至った」
急激に魔力が増し、禍々しい大剣の一振りで私とディンタンは距離を取られてしまった!
最初にディンタンが出した分身人形は全部潰された。分身を出しながら戦ったディンタンの消耗の方が激しい。
捕獲されてる皆のダメージも大きいし、後ろの大隊の皆も苦戦してるっ。
「・・私は、『愛』を得たい。その為に存在している。かつての私は『かつての彼女』と共に地獄へ堕ち、そこで2人は完結している。私はその結末を『尊重』する」
攻撃の手も止めて、何を言ってるの? この人??
「この私は、『今、事実ある愛』こそ全て!!」
再び魔力を高めるアディさん!
「ミカゲ! なんかやる気だっ、準備っ!」
「うんっ、オールファウンテンシールド!」
私はハイエーテル3本を対価に刀に霊水の渦を纏わせたっ。
「来い、『ペイルギガース』っ!!」
アディさんは影の中から青ざめた骨の巨人を召喚した!
「ヒゥウゥゥ・・・・ッッ!!!!」
暗く呻くペイルギガース!!
「嘘ぉっ?!」
「『影の茨の支配権』を譲渡する! お前達は既に越えた過去の一部だっ。消え去れっ!!」
ペイルギガースは私より前に出ていたディンタンに青く燃える巨大な鉈で襲い掛かり、アディさんは私に飛び掛かってきた! 霊水と光の花弁を纏う刀で受けるっ。
「んぐっ!」
どうしよう? 凄く会話ができるけど、あまり話は通じてない。
グリムツリー残留物狩りも後半の強い個体は、知性があるケースも珍しくはなくなっていたけど、あくまで『知的な魔物』であったり『正気に戻ることがある』という物だった。
私はきっと死霊のイエーラを倒した負い目や、救済を頼まれた義務感も抱いている。何より、なんていうのかな・・『考え方の違う人』と殺し合いになろうとしてる感じ。
これ、困った。私はほぼモンスター退治しかしてきてないよ。やっぱ苦手っ、対人戦!
「恐れているな!『人に見える者』を傷付けることっ、その命を奪うことっ! ・・浅いヤツっ 」
宙に弾かれた! 私は光の花弁の上を後ずさって、中空で無防備になるのを避けたっ。暗い闇の花弁を踏んで宙を駆けて追ってくるアディさん!!
「お前のような者は滅びの日がくるその時まで、パン工房で丸パンでも焼いているべきだったのだ!」
剣技も速さも断然向こうが上だけど、武器に乗せたパワーと攻撃範囲の広さはこっちが上っ! どうにか凌ぐっ。
下ではディンタンが単独でペイルギガースと戦ってる! まず、ゼンとマティちゃんの解放を狙ってるっ。
「大体そんな暮らししてたよっ! そっちがワケわかんないこと仕掛けてきたんでしょっ。何がしたいの?!」
「・・グリムツリーはほぼ役割を終えている。お前達は後手に回った。今の世界は滅びるだろう。目的は知らない、関心も無い」
アディさんは背に翼を生やし、周囲に衝撃波を放って私を吹っ飛ばした!
「わぅっ?」
「お前達の世界が終わり、私達の世界が始まる。私はそのどの段階でも愛に生きる。それだけだ。・・お前、名は?」
「はぁはぁ・・ミカゲ・オータムゴールドだよっ」
「ミカゲ・オータムゴールド。今のこの私は『こちら側』で、お前は違う。理解しろ。私を敵と認識しろ。なまじ善戦する者を騙して倒すようで後味が悪い。不愉快だ」
この人っ、話にならない!
「貴女に面白がられるかどうかで生きてないからっ!! 茄子ボムっ!」
やるだけやってやる! レベル差がなんぼのもんだよっ?! 私は数十発の茄子ボムを投げ付けた。
「子供の癇癪かっ? ハッ!」
くっそ~っ、でも茄子ボムは神聖属性っ!『魔族』だっ、ていうんだったら、この空域では負荷が増すよねっ?
相手はそれを深刻に判断する前に、
「桜辻っ! からオロチ櫻っ!!」
私はギリギリのタイミングで光の花弁を蹴ってジグザグ加速突進を始めたっ! 刀に力も溜めるっ。合わせて見切られた側から茄子ボム投げまくるっ。
「鬱陶しい動きっ! スキル、『陰火車』っ!!」
短気を起こしたアディさんは暗い炎を宿した大剣で回転斬りを放って範囲攻撃に出た! こういうの待ってた!! 格下と思ってるもんねっ、やると思った!
「『螺旋・根打ち』っ!!」
私も回転範囲攻撃技を仕掛けるっ! バッチバチに力と力のブツかり合いになったっ。
一時的に拮抗できてるけど、茄子ボムによる弱体化とマティちゃんの守備魔法のバフを差し引いてもすぐに打ち負けるっ。でもね!
「スキル、『レイ・ピリオド』」
解放されたゼンが、地上から圧縮した魔力を込めた超高速弾を競り合いで一ヶ所に止まっていたアディさんを狙撃した!!
同じく解放されてマティちゃんは解放の為に無茶して隙ができたディンタンをフォローする為に迫ったペイルギガースに攻撃魔法を撃ちまくってるっ、偉い!
「ぐっ?!」
半面を割られて回転が止まったアディさんに、私は『片手持ち』で、できる範囲のフルパワーで水と光の斬撃を打ち込んだけど、これもガードされたっ。
「!」
想定内っ。私は刀を持たないもう片方の手の中の、既にウワバミのバックルから取り出していた『琥珀の球』をアディさんの額の魔石に向かって突き出した! 閃光っ!!
「っ?!」
アディさんは僅かな間、仰け反ったけど、すぐに翼の衝撃波を放って私を吹っ飛ばしたっ。2回目! 全速で自分から壁に激突しに行ってる感じっ。
琥珀の球は弾かれずになんとか、まだ私の左手で持ってる。左の爪、全部剥がされちゃったけどっ。痛ぁ~っ!
「・・ううっ、イエーラ・・くっ、小癪な真似をっ! ミカゲ・オータムゴールド!! 次は殺すっ!!!」
苦し気なアディさんは翼をはためかせて、飛び去っていった。
「はぁはぁはぁ・・・私に怒ってもさっ! もう、しんどいっ。というか、手、痛ぁっっ」
私は半泣きで、酷いことになってる左手にウワバミのバックルから出したハイポーションを振り掛けて直した。これ、治る時も痛いのっ!
「ミカゲっ! そっち済んだら下か後ろも手伝えYOっ!!」
下から怒鳴ってくるまだディンタンっ。まだペイルギガースは暴れてる!
闇の茨から既にマリマリーも解放されていたけど、落下させられた位置が悪くて遠いパルシーはまだで、それを助けに行こうとディンタンはあたふたしていた。
後ろの皆もちょっと立て直してきてるけど、変わらず乱戦っ!!
「わかったよぉっ! おりゃあっ!!」
私はもう複雑な技を使う気力が無くて、琥珀の球と納刀したナマクラ・薄紅をウワバミのバックルにしまって、代わりに取り出したオリハルコンスプーンを巨大化させて地上のペイルギガースに殴り掛かっていった。
・・頭痛と吐き気が酷い中、旗艦アッシュロアに戻り、よろめきながら寝所に向かっていると、床の影が集まり、エウドゥルエが出現した。忌々しいっ!
「雑兵どもも、ペイルギガースも、無尽蔵というワケではない」
「そうだろうな」
私は壁に手をついて、鳥のガラクタのようなエウドゥルエと擦れ違った。
「少しは記憶が戻ったか? 苦しかったか? どれくらい苦しかったか? 主を憎むか? 憎んでも抗えぬゆえ、絶望したか? どれくらい絶望したか? クェッ! 聞かせろ聞かせろ聞かせろ」
「黙れ! 鳥っ!!」
「クェッ?」
小首を傾げてみせるエウドゥルエを斬り付けてやりたかったが、怒ればより悦ばせるだけだ。私は、ヤツらの玩具に過ぎない。
「あの、小娘達は、私が狩る。手出しするなっ」
「私の範囲では約束しよう。嬢は苦しむと、艶で出るからな、クククククッッッ」
「ゲスが」
私は寝所に向かった。
香の薫る寝所に入る。燭台に暗い火が灯っている。
「アディ、っ! どうしました? 傷を受けましたか?!」
私のイエーラが駆け寄ってきた。記憶のイエーラと重なるが、本物のイエーラはより険しく、強い人だった。
私は私のイエーラを抱き締める。
「アディ?」
「イエーラ、早くこの世界を滅ぼそう。ここでは、私達が偽物になってしまう」
私のイエーラはそっと身体を離した。
「アディ・・私は貴女を愛する為に、主に造られた人形。この命は偽り。でも」
私のイエーラは私の左手の甲、心臓の上、顎、左の頬、それから唇に口付けをした。
「私は私の役割に命を燃やします。私にそう信じさせたのは、貴女」
私は、私のイエーラに強く口付けをして、それから離さなかった。
そうだ、何を怯えることがあるだろう。かつての暗闇の世界と何も変わらない。ただ彼女だけ、彼女と私の世界だけを信じればよいのだ。
流離う歌い手の暮らしの中で見付けた炎と、この魔軍の中に灯る冷たい灯。何の違いも無いのだ。
失い続けるのが私の愛だというならば、今、私は、愛の中にいる。誰も邪魔はさせない。決して。