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契約っ!!

出入口に『清掃中』の立て札を立てた男湯の浴場で、私はゴム靴を履き、ゴム手袋をして、ゴーグルを付け、業務用洗剤(要換気)を入れたポリバケツにブラシを2本、ジャボっと付けた。

風が軽く吹き込んで、桜の花弁が浴場に落ちて来る。

勝手に開けるお客さんがいるから専用の棒を使わないと開けられない高めの位置にある、全開にした曇りガラス窓からだ。

窓枠で、私の相棒のモヒカン毛を持つ魔法が得意な芋虫型な小さなモンスター『マージケムシーノ』の『マティ3世』が居眠りしていた。

先に掃除を済ませたシャワーの1つに紐で吊るした魔工(まこう)防水ラジオからトンチャ州の公共放送の昼のラジオニュースを流してる。

公共放送の抑揚の薄い、たぶんベテランのキャスター曰く、


「国軍の支援を受けた州軍は、現在カシナート市南部のグリーンベース17に出現した『グリムツリー』とその影響可のモンスター群と膠着状態に入り・・ここで速報です。ボルネガン・オルソ大佐が戦死されました。大佐は国防大学第48期首席・・失礼しました47期を首席で卒業され、ベンデル戦役では」


ベンデル戦役って40年くらい前じゃん! そんな御老人を前線に引っ張るのどうなのかな? 軍のシステムとかよくわかんないけどっ。


「・・なんか、また増税しそう」


私はうんざりして、バケツから2本のブラシを出して大きく構えた。身長は153センチメートルしかないけど、『強大な者と戦う者は強大であれっ!』 って教わったもんねっ。


「スキル・『超磨く』っ!」


私は神速で浴場の、清掃済みの浴槽以外の床を全て磨き切った!


「・・ふっ、完っっ璧っ!!!」


と、1人で悦に入っていると、


「ケムんっ」


「ん? どした、マティ」


マティ3世が私を呼んできた。頬髭の触手で空を指している。

中型? の飛行艦が2隻、飛行機雲を引いて私達の暮らすスプリングウッド市の上空を横切っていた。北を目指してる。グリーンベース7の戦地を目指してるんだろな。


「・・・軍艦かぁ。早く、平和にならないかなぁ」


「ケムも同意する・・」


意外と声が低いマティ3世に同意されつつ、私はブラシとバケツを排水溝の近くに置いて、ホースで浴場の洗剤を桜の花弁と一緒に落とし始めた。花弁、詰まるんだよね!



私はミカゲ・オータムゴールド。16歳。代々スプリングウッド市の保護林の中にあるホノカ神殿付きの老舗旅館『一角騾馬(いっかくらば)』を営んでいる家の次女。

去年の春に尋常中等学校を卒業してから入った調理のスキルスクールを出てすぐ、グリーンベース2(グリーンベースは拠点化した農地で、あちこちに一杯ある)にあるウチの家と昔から付き合いのあるホテルの厨房に就職してたんだけど、今は実家の旅館を手伝いに来てる。

スプリングウッド市は春に『ブロッサムカーニバル』っていうお祭りがあって、観光関連業は繁忙期になるんだけど旅館を継ぐ予定のお姉ちゃん(長女)が妊娠8ヶ月目で、こりゃ無理だ。となって呼ばれたワケ。

この時期、経験のある短期バイトを掴まえるの大変なんだよね。



「よいしょっ!」


私が頭にはマティ3世を乗せ、掲げた両手には業者が届けてくれたクリーニング済みの畳んだ敷き布団を左右15枚ずつ持ち上げてずんずん従業員用の廊下を歩いていると、


「お嬢っ! 先代が御呼びですっ」


古参の男性従業員に呼ばれた。


「今?」


「ケムぅ?」


仕事中にお爺ちゃんに呼ばれるとめんどくさいこと言われるパターンなんだけどなぁ。

スルーしても後で怒られるから、私は敷き布団を運び終えると、旅館の家族の居住スペースにある『お爺ちゃんの畳の部屋』に向かった。



行ってみるとビックリ! お爺ちゃんだけじゃなくて、お父さんとお母さんとお腹大きいお姉ちゃんとお姉ちゃんのお婿さん(脱サラしてウチで修行中)も来てた。

お姉ちゃんはしょうがないから椅子に座っていたけど、他の家族は全員正座してる! なんかヤバいパターンだコレっ。


「来ました、けど?」


「ミカゲ、マティちゃんは置いて、ここに座りなさい」


「はい・・」


私は頭の上のマティ3世を近くの畳に置いて(すぐ元相棒のお母さんの頭の上に移動開始)、お爺ちゃんの前に置かれてた座布団に正座した。ヤバいっ。私、怒られることは何もしてないと思うけど??

あ! 去年帰省した時、居住スペースの裏庭で私とマティ3世と幼馴染みの従業員の子と3人で久し振りに『紙風船で無限トス』をしてたら面白過ぎた勢いで、庭の台で日に当ててたお爺ちゃんの盆栽を1個、骨董の器も割って木も折っちゃって、慌てて回復薬(ポーション)掛けたら木が育ち過ぎてよくわかんなくなったから3人で旅館の裏の林に植えて『アリバイ工作をして無かったことにしよう』と企んだことが今になって発覚したのかも?!


「・・お爺ちゃんっ、盆栽は自然に帰ったし、割れた器は物置の段ボールの中にっっ」


「州政府から、これが届いた」


お爺ちゃんは私の自供に構わず青い封筒を私の前に置いた。

私宛てで『再結成案内状』って書いてある。


「再結成案内状・・え? バンドをまた始めよう、みたいな?」


「違うわいっ。お前はいつバンドを結成しておった?!」


「いや、やって・・なかったです」


確かに私、バンドやってなかった! 活動してたとしても州政府からは来ないよね? レーベル? とか、プロダクション? とか??


「いいから開けて読みなさい」


「はい・・」


え~? 話がさっぱり見えない。何を再結成するの? なんで私に案内状??

と、読みだして私はすぐに仰け反った!


「冒険者ギルド再結成ぇ~~っ??!!!」


いやっ、そんな組織、50年は前に解散したでしょっ???



『 国際冒険者ギルド連盟』50年くらい前まであった冒険者と呼ばれた探検や採集、モンスター討伐、あとはトラブルシュートや賞金稼ぎの専門家達の公的互助組織。

でも文明の向上に伴う軍、警察、諜報機関の発達で役割を終えて解散し専門分野ごとに縮小分割して、今は民間業者になってる。

だからもう『冒険者』っていう職業は無いんだ。時代じゃないから。



・・というワケで案内状を渡された日の夕方、私は旅館の仕事を抜けさせられて(不本意っ!)、動き易い私服を着て頭に相棒マティ3世を乗せ一応お爺ちゃんから借りた物を出し入れできる魔法道具『ウワバミのバックル』も付けて、旧冒険者ギルド・スプリングウッド支部で今は色んなスキルスクールの教室やトレーニング施設が集まってる『セントラルスキルホール』の前に来ていた。

どこかから、桜の花が風に乗って散ってくる。

ここの講堂の1つで説明会があるらしい。


「はぁ~~っ、今時冒険者ギルドって! 何の用? 行きたくないなぁ。なんで私ぃっ?」


「・・長女は身重、父は一般人、母は四十肩、祖父はお年寄り。オータムゴールド家に伝わる『(さむらい)』の技をまともに使え、ギルドの眼鏡に叶うのはミカゲしかいないケム」


冷静に言ってくるマティ3世っ。


「眼鏡に叶うって! スカウトされんの私? 侍の技も子供の時、お爺ちゃんにちょっと習っただけじゃん。私、今、レベル8くらいだよ?」


レベル8の侍は暴れる牛に素手でたぶん勝てる。けど『急に突っ込んできた魔工(まこう)自動車』には素手じゃ勝てないくらい。まぁ別に自動車と素手でケンカするつもりは無いけど・・。と、


「あっ!」


「ケムっ?」


いきなり後ろから右の肩にぶつけられて、背の高い、変なコロンの臭いのする背の高い男が擦れ違ってきた。頭の上のマティ3世もびっくり。

相手はニヤリと笑って振り向いてきた。


「オイオイオイ~っ! チビ過ぎてうっかりぶつかっちまったYO(ヨー)っ! どこ(ちゅう)だオ・マ・エーっ!」


微妙に韻を踏んだ感じで煽ってくるっ。同い年の幼馴染みでオータムゴールド家の分家、エルフ族の血を引くユニコーン家の次男っ! 尋常中等学校出てからずっと『 売れないラッパー』やってるコイツはっ!


「あんたと同じスプリングウッド第6尋常中等学校だよ! ディンタンっ!」


「なんだ同中(おなちゅー)のミカゲかYO、チビ過ぎてプランクトンかと思ったセイホーっ! あ痛タタっ?!」


調子こいた瞬間怒ったマティ3世に『頬触手(ほおしょくしゅ)ビンタ』を連発されるディンタン・ユニコーン! ざまぁみなさいっ。ふん!


「というかディンタンも呼ばれたんだ」


「痛ぇ・・、そりゃ呼ばれんだろ?『家』単位だぞこりゃ? 元冒険者の家系で技が伝わってるとこは手当たり次第じゃね? 案内状とかやんわり書いてっけど、こりゃ『召集』さっ」


「え~? 私達、ちょっと習ったことあるだけで素人じゃん?」


「ちょっとも習ったことないヤツらを俺らレベルまで鍛えるのに平気で1年くらい掛かるぜ? 民兵集めてそんな訓練してる余裕はもう無くなったってことだろな・・おっ、他にも見た顔の運悪ぃ間抜けがゾロゾロ来たぜ?!」


ディンタンに促されて振り返ると、


「ミカゲ! 久し振りっ。・・チッ、ディンタンもいたのか」


「マリマリー!」


兎型獣人族(ワーラビット)の幼馴染み、マリマリー・タキガワが私に笑顔を見せた直後にディンタンに舌打ちしつつ歩いてきた。ダンスのインストラクター見習いしてる子。

タキガワ家はどっちかと言うとディンタンのユニコーン家と縁があるけど、この2人、仲悪い。

続いて、


「ミカゲ、ディンタン、年明け以来ですね」


「パルシーも来たんだ」


魔工キックボードに乗って来た魔工眼鏡を掛けた私より背の低い男の子パルシー・グラスフルートも来た。私の再従兄弟でもあるグラスフルート家の子だ。

グラスフルート家は小柄なボックル族の血がオータムゴールド家より濃くて、親族皆小さい。そして魔工製品会社『ムルッペコーポレーション』を代々経営してるお金持ち! パルシーはスプリングウッドの寄宿舎制尋常高等学校に進学してる。


「勢揃いだなぁ・・」


「ゼン! 中学以来じゃん!」


ドワーフ族の血を引く背はあんまり高くないけどガッチリした体型の、やっぱり幼馴染み、ゼン・ドッチも来てた。自然観測員助手をしてる子。


「第6尋常中等学校の同窓会かっ、こりゃケッタクソ悪いYOっ! マジヤバマジヤバ第6(ちゅー)っ! ツイてないYOっ!!」


「・・クソラップやってないでさっさと中入るぞ? でも、ミカゲとマティは相変わらずラブリーだな、ふふふっ」


マリマリーに促され(ボディタッチ多めなので軽く距離を取りつつ)、私達はプチ同窓会モードもそこそこにセントラルスキルホールの出入り口に向かいだした。


「んだよっ、マリマリー。つーか、相変わらずパーフェクトな『脱毛』、ごっふぅっ?!」


ディンタンが、よせばいいのにマリマリーが左腕にしてる『人獣変化(じんじゅうへんげ)の腕輪』を触ったもんだからマリマリーからボディブローを喰らっていた。

人獣変化のスキルを使うと獣人族は人間族に近い姿に変身できる。

60年くらい前に量産化された人獣変化のアクセサリー類はこのスキルの負担を軽減することができて、街で暮らす獣人族の人達は大体このアクセサリーで人に近い姿を取ってる。

マリマリーも耳と尻尾以外は人間みたいな姿だった。

でもって結構デリケートな所だから、アホなディンタン以外は子供の頃から無闇にイジったりしないんだ!


「いい加減、デリカシー覚えなっ!」


「・・ディンタン、これ、ウチの新商品の『眠気覚ましポーション』あげます。カフェインも入ってますよ」


「ぐぅっ、いや、眠くねーけどなっ。・・うっ! 苦っ」


パルシーからもらったポーションに、うげっ、となるディンタンだった。おバカ!



指定の講堂に入ると結構人が来ていて、暫くするとさらに増えた。200人くらい。二十歳前後組と同年代組に微妙に別れてる。全員『なんかしら心得ある』感じ。


「皆、なんかやってる人ばっかしだ・・なんかさ、普段は人間のフリしてる吸血鬼が、人間のフリのまんま吸血鬼ばっかり同じとこに集められて小っ恥ずかしい、みたいな感じがするよね?」


「それな。俺、同じインディーズ事務所の音楽やってるヤツらばっかしで予防接種受けにいくことなった時、病院の待合で、私服で、ノーメイクで、キャラも無しで長椅子に全員座らされて順番に本名で呼ばれてく時間の罰ゲーム感、思い出すわ」


「私の方がわかり易く例えたじゃんかっ!」


「ケムんっ」


「っ?! そこで張り合うのかYOっ?!」


なんて並べられたパイプ椅子に第6中の幼馴染みメンバーで固まって座って話してると、


「っ?!!」


突然、講堂の床のあちこちに魔方陣が発生し、そこから熊くらいの大きさのある植物系モンスター、『ラージリーフウォーカー・凶』がパイプ椅子を吹っ飛ばしながら出現した!

私の方にも飛んできた複数のパイプ椅子を自分で避けるなりなんなりしようとしたけど、ディンタンが素手のパンチで、マリマリーは素早く畳んで手に持ったパイプ椅子で打ち払ってくれた。


「あっぶねぇYOっ!」


「大丈夫? ミカゲ!」


「うん、まぁ、私もレベル8あるから自分で防げたけど・・ありがと」


「過保護ケム」


講堂内は騒然となったけど、皆、素人じゃない! すぐに体勢を整えてた。


「・・・」


出現したラージリーフウォーカー・凶達は目を閉じてまるで動かなかった。


「ラージリーフウォーカー・凶、ですよね? 動かないですね」


「『凶個体』はグリムツリーの影響で狂暴化してるはずだが・・」


身構えてるパルシーとゼンが戸惑ってたけど、私達もだ。講堂の皆は一様に動かないモンスター達に困惑だった。すると、

講堂の壇上に魔方陣が発生してそこからローブっぽく装飾された背広を着た細目の男が魔工マイクを片手に出現した。


「はーいっ! どうもぉっ、暫定ですが冒険者ギルド、ル・ケブ州スプリングウッド支部ギルドマスターに就任しました。ヒロシ・ネス・オロでーす! 職業は召喚師! レベル27で~すっ!『自分も召喚』できまーすっ。皆、よろしくぅ」


魔工マイクで自己紹介しだした細目のヒロシに、益々困惑する私達!


「ギルドマスターだかなんだか知らねーが、あんたがこのモンスター達召喚したよかYOっ!」


「椅子、危ないだろっ?」


食って掛かるディンタンとマリマリー! よしっ、もっと言ってやりなさいっ! 私の代わりにっ。


「ふふっ、この子達は『グリムツリー汚染域』でサンプルとして回収した子達だよ? これから冒険者ギルド『入団』試験として、この子達を倒してもらうからね? じゃ、レッツ・ゴーっ!」


一方的に宣言して、パチン! とヒロシが指を鳴らすと、ラージリーフウォーカー・凶達は目を開いて動きだし、蔓の触手や鋭い葉、巨体の体当たりなんかで手当たり次第、私達に襲い掛かりだした!! 講堂は今度こそ大混乱になった!

取り敢えず、同中(おなちゅう)チーム全員、ちょっとは安全そうな位置に飛び退いたっ。


「講堂から逃げ出したら『入団辞退』と見なしますから御自由にどうぞ~。ただし、貴方達から1人欠員が出るごとに、おそらく金銭的に厳しいが体力はある一般人数十人が民兵として州軍に雇われて一応基礎訓練は受けるでしょうが、まぁ前線で正規兵の『肉壁(にくかべ)』として消費されることになるでしょうねぇ」


事も無げに言う細目ヒロシ!


「ふざけるなっ!」


「脅しじゃないかっ」


「ハラスメントだ!」


「ブラック組織!」


「法律どーなってる?!」


攻撃をいなしつつ、口々に私達以外の他の皆が抗議する。


「魔物は法律なんて気にしませんよ? 皆さんも若くてももう子供じゃないんでしょう?『ただ事実に即応する』それ以外に困難が日常の範囲を越えてしまったその時、対抗する術は無いんじゃないでしょうか?」


細目ヒロシは興が乗ったミュージックスターのMCみたいに壇上でマイク片手に口上を続ける。


「5年前にグリムツリーが世界中で出現しだした当時に比べれば各国の対応は迅速になりました。しかしグリムツリー本体を撃破しても、その根、実、挿し木の類い、残留物ですね。方々に散ってしまい、軍の対応キャパをもう完全に越えてしまっています。事態の長期化、悪化に備え、人材の確保、育成は急務なのです!」


「俺達だって一般市民だっ!」


「学生だぞ?!」


「結婚したばかりなんだっ」


「ようやく自分の店舗借りれたのにっ!」


皆、おんなじだ。捨てていい生活なんて、無いよ。


「でしょうねぇ。でも、『そんなの知ったこっちゃないんですよ』。グリムツリーの根に汚染されれば小規模な郷なら小一時間で『元は人であった魔物の巣』に仕上がってしまいます。グリムツリーに知性は観測されていません。交渉は不可能です。まぁ裁判で訴えれば勝てるでしょうけど、賠償金の徴収は難しいでしょうね」


「そんな・・」


「酷いよ・・」


「好きで力を継承したワケじゃないのに・・」


皆に無力感が拡がりだした。私もだよ。子供頃から『この世に災いが生じた時には受け継いだ力で戦う務めがある』って言われてはきたけどさ・・


「おや? 暗いですね。心外です! ギルドとしても嫌々参加してパフォーマンスが低下してしまっては残念です。ここは逆にっ! 楽しみませんか? 拡がる大地! 抜ける空! 海の底深く! どこへでもゆけますよ?! 許可もどんどん取れますし、公的サポートもモリモリですっ。『冒険』しましょうっ!! 人生において好き放題冒険できるっ! 力を隠さず、手加減せずに使い切れますっ! これは特権です! 若い皆さんに、そうですね・・『目映い青春』をっ、『美しいロマンの探求』をっ、楽しもうじゃありませんかっ?!!」


「・・・」


何を言ってるんだコイツは?? という空気の中、腹を括ったいくらかの人達がそれぞれの力で本格的にラージリーフウォーカー・凶に応戦を始め、連鎖的に、ちょっとヤケクソ気味に他の人達も戦い始めた。

私達の中で最初に動いたのはディンタンだった。


「ちょっと言ってる意味わかんねーけど、やるしか無さそうだなっ! やるぜっ『フルゴング・改弐(かいに)』っ!!」


ディンタンは自分のウワバミのバックルから打撃用護拳(ごけん)フルゴング・改弐を取り出して両手に装備して打ち付けて火花を散らして手近なラージリーフウォーカー・凶に打ち掛かった。


「YOっ! セイホーっ!!!」


拳の連打で簡単に粉砕してゆくディンタン! 次に動いたのパルシーだった。


「冒険とかロマンとか、全く興味ありませんが、僕はムルッペコーポレーションを継ぐつもりです! お客様が安心して当社の商品を購入して頂ける社会を守る為にもっ、参戦しましょうかっ?! コールっ!『デク3号』っ!!」


パルシーは足元に展開させた魔方陣からゴリラ型の機械傀儡兵(マシンゴーレム)デク3号を呼び出してその背に乗った!


「デク3号! 殲滅ですっ」


デク3号は口から『電磁ビーム』を放って他の集められた人達を慌てさせながら、前方のラージリーフウォーカー・凶を消し飛ばした!


「俺は自然の異変を観測してた。軍か民間業者に志願するつもりだったから、どのみちだよ。『ドライブガン・BIS』っ!」


ゼンもウワバミのバックルから属性付与拳銃ドライブガン・BISを取り出して構えた!


「・・屋内で乱戦、氷かな?」


ドライブガン・BISに氷の属性を付与して凍結弾を連射して苦戦している他の集められた人達を支援する形でラージリーフウォーカー・凶を撃破してゆくゼン!


「ミカゲ、あたし達は・・しょうがないけど、あんたくらいは今の暮らしを」


マリマリーは私に迫ったラージリーフウォーカー・凶を蹴っ飛ばしから私の肩を持って言ってくれたけど、私は苦笑して、そっとその手を外した。


「私だけゴマメとか無いよ? マリマリー。超嫌だけど・・『ナマクラ・薄紅(うすくれない)』っ!」


私はウワバミのバックルから桜色の鞘を持って、鎖で封をされた打ち刀、ナマクラ・薄紅を取り出して構えた!


「ミカゲ!」


「大丈夫っ! マティっ、私と危なそうな人達を援護してっ!!」


「ケムんっ、『マナ・レイ』っ!!」


マティ3世は中に数十の小さな魔方陣を展開して周囲全方位に向けて、手こずってる人達を襲う個体や、私に向かってくるラージリーフウォーカー・凶に向けて熱線魔法を放って牽制した。


「行くよ?! スキル・『祟り辻(たたりつじ)』っ!!」


私は頭にマティ3世を乗せたまま、緩急を付けたジグザグの加速技、祟り辻を発動して桜色の鞘に収まったままのナマクラ・薄紅でラージリーフウォーカー・凶を打ち据えていった!

打たれた魔物達は一瞬で光の花弁に変換されて倒されてゆく!! ナマクラ・薄紅は桜の化身、『ホノカ神様』の加護を受けていて、植物系、地属性、魔族、アンデッド系のモンスターにめ~~~っちゃ! 効くっ!!!


「ミカゲ・・ったく、そういうとこあるよな。あたしも、やるしかないかっ!『野分け薙ぎ』っ!!」


マリマリーはウワバミのバックルから風を宿す薙刀、野分け薙ぎを取り出し、構えた。


「コーラのCMのバックダンサーのオーディション受かってた恨みっ! 晴らさせてもらうよっ」


八つ当たりなことを言って突進して、風の刃でラージリーフウォーカー・凶達を斬り伏せてゆくマリマリー!!

本気になった私達の奮闘で、講堂の魔物達はあっという間に駆逐された!


「はいはい、お疲れです~~。ま、全員合格! ということで、ホノカ神様っ!! 200人程、問題無く集められましたよぉ?!」


「っ?!」


細目のヒロシが宙に呼び掛けると、壇上の中空に閃光と共に桜吹雪が起こり、ホノカ神様が出現した。

桜色の髪、瞳。華奢な身体つきに東方風の衣を纏っている。エルフ族のように耳が少し尖っているが、ピクシー族のように背に4枚の透明か羽根を持ち、でも身体の大きさは人間族の少女くらい。


「ホノカ様!」


「ホノカ神様だっ!」


ざわめく講堂の皆。


「・・・」


ホノカ神様は片手を差し伸べた。すると、桜吹雪が講堂を包み、皆が倒したラージリーフウォーカー・凶を光の花弁に変換し、私が既に変換していた花弁も巻き込んで引き寄せ、集め、固めて、3体の小さな桜の放を咲かせた邪気の無い『ゴールドリーフウォーカー・亜種』として転生させた!


「おおーっ?!」


私を含め、皆びっくりだよっ!


「・・『神様サミット』で、このル・ケブ州のグリムツリーに纏わる生命の循環に介入する権利がわたくしに委任されました。魔物とはいえ手に掛けることを心苦しく思う方々は安心して下さい。使命の途上で命を落とされても、この州にある限り、通常より甘い判定で蘇生可能です。助からずとも来世で、積んだ徳、相応の祝福を授けることを約束します。どうぞ憂うこと少なく、心強く、この戦いに挑んで下さい」


「うおーーーっ!!!!」


ヤケクソモードから一転! ホノカ神様登場で大興奮になる講堂の皆っ! うーん、子供の頃から、ブロッサムカーニバルとかでホノカ神様に親しみあるしなぁ。というか、ホノカ神様、そこら辺のアイドルより人気あるし・・。

恐るべし、『タレントパワー』っ!


「・・詐欺師のセミナーに芸能人呼ぶ手法と同じだYOっ」


いつの間にか近くにいたディンタンが耳元で囁いてきた。くすぐったいわっ。変なコロン付けてるクセにステルス性高いなコイツっ!


「不敬だよっ、ホノカ神様に!」


「ケムんっ」


「いいこと言った風だけど、さっきのも『安心して死んでこい』って言ってるだけじゃねーか?」


「うっ、そんなこと・・」


「距離が近いんだよっ」


ゴニョゴニョ話してたらマリマリーが怒って間に入ってきた。もうっ、ややこしいなぁ!


「ホノカ神! ホノカ神様!」


やんやの喝采を受けてやや困り顔で手を振って応えるホノカ神様。


「では、わたくしはこれで・・ヒロシ、頼みました」


「ハッ、お任せあれ!」


畏まるヒロシ。ホノカ神様は桜吹雪の中、ゴールドリーフウォーカー・亜種3体を連れ消えていった。


「はーい。それじゃ、高度回復薬(ハイポーション)高度魔力活性剤(ハイエーテル)を用意したので必要な方々は御利用下さい。手続きはこちら、御意見御感想はあちらの『ギルド目安箱』に投函下さ~い」


急に事務的になった細目ヒロシが案内しだすと、どこからともなくギルドの事務員達がワラワラ現れて机やら椅子や書類や筆記具やポーションやらを手早く用意しだした。


「・・なんだかな、ですね」


「書類の内容はよく確認しよう」


パルシーとゼンがうんざり顔で登録に向かい、私とディンタンとマリマリーも続くしかなかった。

この運営と上手くやっていけるか? 不安しかないよっ。



・・・ちょっとシラけた気分でギルドに登録を済ませ、むしゃくしゃしたから帰りは同中メンバーで豚骨ヌードル食べにゆこう、となったけど私はトイレにゆきたくなったから、マティ3世をマリマリーに預け(マティ3世は男の子)は女子トイレに向かった。

けど、結構混んでたから、ちょっと遠い方の女子トイレに向かう。ここの調理のスキルスクールに半年通ったから中の構造はよく知ってるんだ。


「はぁ~、ポーションとエーテル飲み過ぎたっ。やばやばっ、『ミカゲダム』の水位がっっ、というかっ! 家帰ったらお爺ちゃんにクレーム入れないとっ、絶対運営とグルだよねっ?! くっそぉ~っ、グレてやる! 盆栽もう1個っ、裏の林に植えてやんよっっ」


なんて言いながら、我慢し過ぎて内股気味の早歩きで人気の無い女子トイレに入ったら、いきなり腕を引っ張られた!


「ええっ?」


「ミカゲちゃん!」


びっくりして(今日何回目っ?)、振り向くと、華奢なエルフ? の女の子供だった。大きな帽子を目深に被って地味な服を着てるけど・・桜色の髪、瞳・・っ!


「ホノカ神様っ?!」


「声おっきいよっ!」


「あっ、ごめん! え? なんで??」


ホノカ神様は完全にエルフの子供の姿に変化していた。直に話すの子供の時以来だよっ!


「大変なんだよぉ~っ?! わたし、神族になってまだ100年も経ってないような新人なのにっ、一番下の7位神格(しんかく)だよ?! それなのにこのル・ケブ州のグリムツリー対策を神様サミットで押し付けられちゃって! この州もっと上の神格の方々がいらっしゃるんだよっ? でも、ちょっと、なんか先輩格の何柱(なんちゅう)かの神様方にわたし、目を付けられちゃって! わたしの旧人格は未来視が得意で、現在の危機を予期していたのに対策を怠ったとかなんとか難癖付けられちゃって! でもぉ、わたし、旧人格のことあんまり覚えてないしぃ、わたしは未来視苦手だし、大体、わたし、悪くないんだっ。グリムツリーは魔王の尖兵で近い時代になったらもう未来視とか効かないし、それにその神様達、皆、女神なんだけど、ちょっと、わたしよりキャリアはあるけどその、あんまり要領よくない他の女神様達をイジメっていうか、・・ちょっと意地悪だなぁ、みたいなことしてたから、どうなんですかぁ? みたいなこと言ったらもうっ! わたしがターゲットになっちゃってぇっ! 最悪っ。この間、神様舞踏会に行ったらその神様達が色々『圧』を掛けられてっ、誰もわたしと踊ってくれないっ! もうっっ、泣きそうっ!! 暫くスプリングウッド周辺の天気が雨になっちゃうけど、ちょっと泣いていいかなっ?」


「・・情報量っ!! よくわかんないっ。というか私っ、オシッコしたいんですけどっ?」


オシッコしたい、って言っちゃったよっ。


「オシッコしてもいいけど、協力してほしいっ!」


「協力しないとオシッコできないんですかっ?!」


「そうだよっ!」


「ええ~っ?!」


酷い神様っ!


「だから! 私をイジメてる神様達が、この州のグリムツリー退治の妨害してきそうだからっ、何組か直接私の加護を受けた隊がいないとたぶん対処できないんだっ。でも、よく知らない人達に加護与えたくないからっ! ミカゲちゃん達がリーダーの隊に加護を与えていい?」


「私、リーダーになるの?! というか、オシッコ!!」


「オシッコしたいなら協力して!」


掴んでた手から花咲く桜の木の枝を蔓のようにして出してロックしてくるホノカ神様っ!


「あーーーっ!!! もうっ、わかったよっ、リーダーやるよっ! 協力するっ」


「他の神様達怖いけど、大丈夫?」


「神様よりオシッコっ!!!」


「よしっ、じゃあ契約成立っ! ・・ホノカの名において、ミカゲ・オータムゴールドに加護を与えるっ!」


ホノカ神様の帽子が浮き上がって額にホノカ神様の聖印が浮かび、それが私の額に移された!


「熱ぅっ?!」


「ふぅ、これでよし・・そういえばオータムゴールド家にはわたしの旧人格が預けたフェアリーコインが」


「もう追加の情報とかいいからっ! 離してっ」


内股で地団駄踏む私っ!


「あ、ごめ~ん」


ホノカ神様はようやく『桜ロック』を外してくれたので、私は神速で女子トイレの個室に突進した。

人生最速で体勢を整え、ミカゲダムを解放した!!


「ほぉわぁああ~~~~・・・・」


「んじゃあ、もう何組かはほしいから、取り敢えずディンタン君とも契約してくるね!」


個室のドアの上によじ登って話し掛けてくるホノカ神様。


「いちいち覗かなくて大丈夫です・・」


「あっ、ごめんごめんっ! えへへっ」


契約だかなんだかよくわかんけど、確かに『女子校でイジメられそうなタイプ』だな、とは思っちゃったよ・・

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