7話 浴室への来訪者
時刻は21時を回っていた。
私は自宅の、もとい邪神殿のお風呂でお湯に浸かって、もとい浴槽で心身を清らかにする儀式をしていた。
「ふぅ~~~~(疲れが取れるなぁ~~、気持ちいい)」
身体を浴槽に浸しながら、一日の疲れを癒していた。すると突然、バリーンという効果音がして何が起きたか推理する。
(フン……やはり、覗きの幽霊がこの辺りに出没していたか。強制成仏の罠に引っ掛かているようだ)
浴槽に入るため、まず私は蝋燭と塩を備えて結界を作り、音楽プレイヤーでお#経__きょう__#を垂れ流していた。一旦引っ掛かるとまず出られない。
(はぁ~~~~、何度も何度も、この裸体を見られていたかと思うと。キャ~~~~、死にたくなって来るなぁ)
油断して表情筋が緩んでしまった。それを湯船のお湯でバシャバシャと顔を洗い、気付けをする。
「いかんいかん、キャラクターが崩壊しているぞ。もっとかっこよく決めねば……リスナーたちも直ぐ離れて行ってしまう……」
――その時
「いでででででででででーーーーーー」
(――っ!? ま~~た幽霊か……凄いなぁ、アレに耐えてるのか。しかしここまではたどり着けないだろう)
「おおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーこんなものが利くものかーーーー」
バリー―ンと浴槽の扉をブチ破られた。来訪者の蹴りによって。そして高らかに私に向かって宣言した。
「やっと、やっと、見つけたぞ。契約者よ」
(――なんだ、こいつは。幽霊ではない……?)
思わず裸体のことなど忘れて――バシャン――と音を立てて、その場で立ち上がる。
来訪者の正体は、15センチ大の小悪魔みたいな風貌をしていた。
「なんだ、お前は……」
「俺様の名よりも先にそっちの名を応えよ。人間」
「違う(どうやらここまで来られたというのなら幽霊ではないようだ)」
「何が違う。いいから名前を教えろ人間! この家を爆発させるぞ」
小悪魔みたいなヤツの、その手から炎が出現した。
「――ちょっと待った! わかった! 私はデイネブリスパピヨンと名乗るユーチューバーだ!」
「本名を言え!」
さらに手先の炎を大きくする。
「――黒井アゲハ!!」
本名を聞いた小悪魔的何かが、炎を払うようにして手を下げた。
「そうか……俺様の名はデビルンだ」
小さな羽根がパタパタと振るわれて、小さな角が二本生え、全身が真っ黒い恰好であった。
「――主様! 一体何が! 何故浴室の扉が――」
「――寝ていろ! 雌猫!」
デビルンが着ていたマントを翻すのと同時に、バステトはパタリと深い眠りについた。
「貴様! バステトに何をした!」
「な~~に、契約者と二人きりになりたかったのでなぁ……安心しろ、眠っているだけだ」
「契約者ぁ~~?」
「しかし、やっとオカルトを使ってくれたか……? 降霊術の痕跡を辿ってようやく見つけたぞ、契約者」
「お前、あのバステト召喚の動画でも見ていたのか? (精巧なアンドロイドという訳ではないのか……?)本物の化物まで現れたか……」
「どうが……? よくわからないが、俺様はただ降霊術の痕跡をである魔力を辿って来ただけだぞ」
「魔力だと? お前、一体何者だ。見たこともない生命体、まるで伝承に出てくる悪魔みたいだぞ」
「そう! 俺様は大悪魔! デビルンだ!」
私とデビルンは浴室で対峙していた。
「なぁ、何でもいいが。まず、服を着させてくれないか?」
私の提案に首をかしげる大悪魔だった。
「その、肌をさらしたまま///話を勧めたくないと言うか、何と言うか///」
「関係ない……やっと見つけたんださっさと話を――」
私は我慢ならなくなって桶を右手に、シャワーを左手に掴み取り、
「このエッチ! 変態! ドスケベ野郎ーーーー!」
風呂桶を悪魔の顔面に投げ、高温で45度のシャワーをその身に浴びせて、浴室から追い出す。
「わ、分かった。す、少し時間をやろう。俺様もあの結界でダメージを、受けているから休みたいしな……だから、やめてくれ」
そう言って五分後に話をする約束をした。