44話 失踪の真相
私たちはダークネス・カイザー様の残留素、赤い煙をたどるうえで、悪魔界の街から出て行く。そうすると辺りは漆黒の草原が広がりを見せ、不吉な逆さ十字を模した教会が見えた。
(それにしてもどうして先輩がこんなところにいるのよ。まさか邪神官の力は本物で真のオカルト男子だったとでもいうの。あるいはそれに類する存在、悪魔界と人間界を自由に行き来できる存在だったとでもいうの? だとしたら今までのオカルト現象にも気が付いて……)
ある疑問が思い浮かんだのでデビルンに訊くことにした。
「デビルン一つ聞いてもいいかしら……」
「おう! 何だ!」
「どうしてダークネス・カイザー様は悪魔界へ来ることが出来たのよ……?」
「その答えを聞いてお前は何が望みなんだ?」
「デビルンの姿が見えていたかどうかって話よ」
「ああ、たぶん見えてない。アイツの眼は普通に人間の眼だったし、だいいち見えてたら見えてたで、隠す人種とは思えない。もっと話題にするはずだぜ」
「それもそうだけど、じゃあどうやって悪魔界に来られたのよ。私みたいなオカルト的力がない限り来られないんじゃないかしら」
「たぶん契約者がいるんだろう」
「契約者?」
「もしかしてこのスマートフォンに映るラインの相手では……」
バステトが口に咥えて見せて来たそれをもう一度読む。
――もういいか。
――世界征服は、代わりの子に任せようと思う。
――なら、こちらへ来い。
――よかろう。だがどうやって行くのだ?
「たぶんそのやりとりの前者が悪魔で、後者がそのダークネスなんたらだろうな」
「――悪魔、契約者ってことは魂を代価に望みを叶えてくれる悪魔の事? 先輩も悪魔と契約していたっていうの? 私みたいに?」
「そうとしか考えられないと思うけどな」
「じゃあ、やっぱり先輩にもオカルト的力があるんじゃない」
「それはどうかな。そいつの願いがアゲハみたいに真のオカルト少女になりたいのなら話は別だが、アイツからは魔力も霊力も微塵も感じ取れなかったぞ。たぶん違うことを願っている」
「先輩の願いがオカルト的力でないとしたら、世界征服関連の事よね」
「しかし、この文脈から察するに不味い事態なのでは? なにせ既に人間世界と別れを告げる文脈になってますよ」
「そうね。契約も無事終了して、あとは魂を食すだけってことかしら――急ぎましょう。先輩が危ないわ」
「……悪魔の俺様だから言うけど、既に契約は成就されたんなら助けるのは不可能だぞ。その辺どうするつもりだ?」
「大丈夫よ、またアガレスの力を貸してもらうから」
「そんな古き良き純潔の大悪魔様の権力をポンポン使うなよなぁ~~、変な噂が出たら俺様の身がヤバいことになるんだぞ」
「そんなこと魂を食される側の私の知ったことではないわ」
「ああ、なんで俺様の契約者はこんな自分勝手なんだろうなぁ! イビルンの方がマシだったかもしれないぜ」
「イビルン?」
「俺様の弟だよ」
(弟がいるんだ。まぁいいわ、このラインの文脈から察するに先輩は悪魔の力を借りてこっちの世界にやって来た。とすると、その悪魔をどうにかやっつけてしまえば、あるいは払ってしまえば事態は丸く収まるんじゃないかしら。この真のオカルト少女デイネブリスパピヨンが敵う悪魔だといいんだけど……)
私たちは丘を下り気味に道を進みようやく先輩の残留素が強い地域、墓場へとやって来ていた。
「……ここだな、ここにダークネスなんたらがいると思うぜ! ってどうした? 敷地をまたいで来いよ」
「何ここ人間の手? それにマスク越しでも伝わってくるこの異臭は何?」
そこには土からはみ出した人型の腕や足、腐って白骨化した死体が至るところに転がり落ちていた。
「お前も契約を成就したときにはこうなるんだ。今から覚悟しておくんだな」
「本当に先輩がこの先にいるのよねぇ?」
「早くこっちに来いよ! じゃないとダークネスなんたらが喰われちまうぞ。もう喰われてるかもだけど……」
「わかっているわよ!」
私はその墓地とも呼べる場所に足を差しこみ、歩み始めた。そのとき――
「――イ、イビルン!?」
――とそこでデビルンが驚きの声を上げた。どうやら弟の姿を見つけたらしい。