38話 観覧車のペア
オカルト研究部、もといクレヴァナルのメンバーはこの遊園地一番の目玉、観覧車の前まで来ていた。
「こ、これも動くんでしょうか……?」
ほぼ女子の荷物を降ろしながらソリトゥス様が尋ねて来た。
「動くわけがない……廃園して何年たってると思ってるの? 動いたってジェットコースターのように壊れているだけでしょ」
観覧車を見上げるビーブリオテーカ様が答えに応じた。
「フーッハッハッハッハ!! 愚かな答えだなぁビーブリオテーカよ!」
「ム! なに? 黒条くん……まるでここには何かあるって言いたげねぇ」
「その通りだともビーブリオテーカよ! 我が情報網を甘く見るでない! これでも12万人の使い魔のいるダークネス・カイザー様だぞ。下調べもせずにここに来ようはずがない!」
「下調べって、貴方の使い魔さんがわざわざここまでやって来たってこと?」
「その通りだ! なんでもこの遊園地は、デイネブリスパピヨンの言うように心霊スポットとしても名の知れた場所らしい……そしてなんでも数あるうちのアトラクションの中でも最も興味溢れるのがこのバナナ観覧車なのだ!」
「えっ……なに……それじゃあ動くわけこの観覧車……?」
「――ご明察!」
「そうなの……黒井さん?」
「いや~~私は下調べも何もしてないので分かりません。すみませんビーブリオテーカ様」
「そう……まぁバイキングもジェットコースターも動いていたし、それだけ言うのなら動くんでしょうねぇ」
「さて、この観覧車の動かし方だが……確か……」
ダークネス・カイザー様がスマートフォンをいじりだした。きっと動かし方について再確認しようとしているのだろう。
「(アゲハちゃん、アゲハちゃん)」
ヒソヒソとクリスチャンが手招きしてきたのでそちらへ向かって行った。
「(なによ? ヒソヒソと……猫に話しかけてるでもないんだしハッキリ言ったら?)」
「(えぇ~~鈍いよアゲハちゃん――女子がヒソヒソ話を始める時は恋バナに決まっているじゃない)」
「(恋バナ? 今それを話して何になると言うの?)」
「(だから鈍いって、観覧車に乗るってことは、ペアを決めるも世界の常識! ここで一気に黒条先輩との交流で恋人同士になっちゃおう作戦だよ)」
「(こここ、恋人同士!?)」
「(そうだよ、観覧車が頂上まで行くと愛の告白をしたり、互いに見つめ合ってキスしたりって、定番のアレだよ~~)」
「(こここ、告白! それにキスって!?)」
「(シーーーー声が大きい声が……遊園地と言えば観覧車、観覧車と言えば、愛の告白。私がとびっきりのペア決め策を考えて来たから大船に乗った気で任しといて……そっちは告白の心の準備でもしておいて)」
「(ここ、告白ってなにを言ったらいいのよ)」
あまりの突然な申し出に焦る私。
「(使い魔たちに聞いてみたらいいじゃない。何のための86万人だーー)」
「(――そそ、そうね、相談してみる)」
私はスマートフォンをいじり出し、告白の解決策を聞いてみることにした。
「ちょっと、勝手に入って大丈夫なわけ?」
ダークネス・カイザー様とビーブリオテーカ様は観覧車の前にある個室で口問答していた。きっと観覧車の制御室なんだろう。
――今、憧れの人と一緒に観覧車に乗って愛の告白をするんだけど何をしたらいいかわからない。
と、ツイートしてみちゃった。すると……
――どしたん急に。
――マジ!? おめでとう頑張ってね!
――いきなりのツイートに使い魔もビックリ。
――観覧車ってことは今遊園地にいるってこと?
――どうするも何も襲っちゃいなよ!
――相手の男性の素顔プリーズ!
――どいうこと? 今日はデートでもしているって訳?
(ああ、返信は来たけど、突然過ぎたわよねぇ)
ガココン!!!! ――大きな音がして、私が振り返ると観覧車が動き始めた。
「さて、これで観覧車も動き出したし、あとはペア決めだが……」
「はいはいはーーい! あいうえお順がいいと思いまーーす!」
「クリスチャンどうしてあいうえお順なのだ?」
「決めるのが簡単だからですよ!」
「あいうえお順? 黒条、幹久、来翔、黒井、離岸。これを組み替えて、ペアは黒条くんと黒井さん。私と来翔くん。あまりが離岸さんになるけど……はは~~ん。なるほど、この組み合わせは……狙っているわねクリスさん」
「まぁ、我は一向にかまわんがこれだとクリスチャンが一人になってしまうぞ!」
「大丈夫です! 見たところこの観覧車は4人乗り用つまり、幹久先輩と来翔先輩のグループに私が入ればいいだけです」
「なるほど、まぁいいだろう」
「(――という訳できょうりょくお願します幹久先輩)」
「いいでしょう」
とにもかくにも順番が決まり私たちは観覧車に乗ることにした。
「――では、行くぞデイネブリスパピヨンよ!」
観覧車の入り口に立つダークネス・カイザー様が手を差し伸べる。
「――あっ、はい!」
そのまるでさらうように誘われた手の指の動きで私は、身体ごと観覧車へと吸い寄せるかのような錯覚を覚えさせられた。