3話 迷子の面倒
学校への登校からの運動場での始業式は、何の変哲のない儀式であった。
(校長先生……話長すぎ……)
周囲立ち並ぶ生徒諸君は、もちろん各々の私服でこの演説を聞いている。校則はゆるゆるな分、こういう行事への参加はうるさい学校であった。
「ここで何してるの?」
隣にいる幽霊少女は私の裾を引っ張て聞いてきた
「(聖なる演説を聞いている。疲れるだろうが我慢だ……敵情視察は大事な情報収集なのだが、いや、というか、アカネ今我に話しかけられても困る大人しくしておれ……)」
「は~~~~い」
元気よく返事を返してきた。
『――では、以上を持って始業式の式事は終了とする』
校長先生と言いう聖なる者の話を聞き終えて、皆は続々と校舎の中に入っていく。
(まだ……暑いなぁ~~夏も真っ盛なのかな)
そして私も校舎の中に入って、今度は担任の先生の演説を聞かされて下校した。至るところで幽霊を見かけたが気にしないことにする。
中庭の自動販売機でブラックコーヒーを買いこんで口にする。冷たい方を選んでおいた。
「さて、約束どおりお前の家を探してやろう……名は確か……明豊アカネだったな、少し待っておれ」
スマートフォンで住所アプリを開き、名前から住所を逆算する。しかし――
(ん? 出て来ないぞ、おかしいなぁ)
そんな時、肩に乗っていたバステトはこう言って来た。
「あの~~、僭越ながら主様、この娘の住所は古すぎて存在しなくなったのではありませんか」
「な、なにぃ~~~~~~じゃあこの万能魔道具ではどうにもならないではないか!」
「おねいちゃん――どうしよう――わからないの?」
(もう70年以上も前の故人だしなぁ~~、当然住所不定かぁ~~面倒だなぁ。仕方ないあの手でいこう)
「まさか、あの魔道具をお使いになるのですか。今回の件で役に立つとは思えませんが……」
「フフフ、我が使い魔バステトよ。いい作戦を思いついたのだ……まぁ、そこで大人しく見ておれ……」
手提げカバンの中から魔道具幽霊ダウジングマシンを取り出した。二本で一対の幽霊探知機である。
「それどうするの?」
「まぁ、見ておれ。私はとある事情で魔法を使えるようになっているからな~~貴様の母親を探せばよいのだ。母親の名前はわかるか?」
「えっ? お母さんの名前? わかんない」
「(母親も故人だろうと思って出した提案なのに~~)――もういい――貴様は今日から我が使い魔だ。私の手足として働くがよいぞ。まず手始めにこのブラックコーヒーの空き缶を捨ててくるのだ」
「諦めない方がよろしいかと――」
「我が無脳なる使い魔バステトよ。他に代案があるなら申して見せよ」
「いえ、ありませんが……」
「ねぇねぇおねいちゃん。お家はまだ~~」
「うぅ~~そんな小動物みたいな目で見るな。これから貴様は我が使い魔だ」
「うっ、ううっ…………」
「――おい! 泣くな! 私の配下にそんな弱いものなどいらんぞ!」
思わず、大声を出してしまったので、周囲の生徒たちに怪訝な顔をされ、挙句の果てには噂話である。
「誰あの子?」
「ほら、一年の黒井さんよ――よく一人で喋ってる痛い子らしいわよ」
またも、オカ研の評判を上げてしまった。これで先輩も喜ぶはず。
「フフフ、我こそ真なるオカルト少女――大邪神の神官、黒井アゲハであるぞ。オカルトに興味があるならぜひ我が部に入門するといい――ハハハ、ハーハッハッハッハッ!」
「――行こ行こ」
上級生の二人はさっさとその場を後にした。
「……ドン引きされてしまいましたよ。主様」
バステトが言う。
(ちっ、なかなか眷属は増やせんか)
学校での私の立ち位置はこんなところだ。狂人扱いでもめげないぞ。
「うぅ~~おねいちゃん、お家は~~?」
「使い魔では不満か……他に策があるとしたら~~(霊体、霊感、霊質、見えるもの、聞こえるもの、名前、50年代生まれ、あとは……)おい! 死因は何だ?」
「しいん?」
「死んだ理由だ、自分が死んでいることくらいわかるよなぁ」
「うん、車にひかれちゃった」
「なら、あの手で行こう」
いい作戦が思いついた。今日の私は頭が冴えているのだ。