表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/36

翌日の『大和撫子』

「おはようございます」


 廊下を歩いていると柔らかな声音が聞こえたので振り返ると、陽葵がこちらに向かってきていた。


「おはよう。もう大丈夫なんだな」


「はい。昨日はありがとうございました」


 昨日までの翳りのあった表情はもうそこにはなくて普段と変わらない様子の陽葵だった。


「それと……ごめんなさい。風凪くんに強く当たってしまって。せっかく話を聞いてくれていたのに」


「いいよ。全然気にしてないし。むしろ自分の気持ちをちゃんと伝えてくれたことが嬉しかったから」


 それだけ蒼のことを信用してくれている陽葵の心の表れのようにも思っていて、それは僅かだが陽葵との距離が縮まっている確かな証明だった。


「聞き役くらいにはなれるから……また何か嫌なことあったら愚痴言いにきてもいいんだからな」


 話を聞いて寄り添ってあげることはできることを伝えると、陽葵は表情にやや驚きの表情を表す。


「……風凪くんはやっぱり変わった人です」


「変わった人って……」


「でも……優しくて温かい人ですね」


 そう言った陽葵は目を細め口元を緩ませて笑顔を向けてくる。蒼は思わず目を逸らして口元を隠した。


 (これはずるいだろ)


 思わず可愛いと口に出してしまいそうなくらいの破壊力があった。全身を巡る血液が熱くなって鼓動が早く鳴り響いていることがよく分かる。


 蒼が知ってる限りでは少なくとも校内ではあんな顔をしたことはない。それを自分に向けてくれたちょっとした優越感が蒼の身に降り注いだ。

 

「また……風凪くんのお家にお邪魔してもいいですか?」


 心臓の鼓動が鳴り止まない中で、陽葵が視線を逸らしている蒼にそう尋ねる。


「あ、あぁ。いいぞ。ユキも一ノ瀬さんに会えて喜ぶと思う」


「ふふっ。楽しみにしていますね」


 小さく微笑むその姿すらも蒼の瞳には可愛らしく映って血液をさらに熱く沸騰させていく。

 これまでも蒼に微笑むことは何度かあったが、今蒼に見せる笑顔は憑き物が落ちきってすっきりしたような清々しいもので、陽葵には一番よく似合っている。


 それではまた、と陽葵は蒼に軽く手を振ると教室に戻っていった。


 陽葵と別れた蒼は窓から見える景色に視線を向けた。熱くなっていた身体もだんだん冷めてきてうるさかった心臓も通常の鼓動音へと落ち着いていく。


「そーうーくん」


 今度はまた別方向から名前を呼ばれて顔を向けると、圭人と有紗がいた。名前を呼んだ圭人はにんまりと蒼を見ていた。


「なんだよ」


「何やら随分と楽しげにお話をされてたな。一ノ瀬さんと」


「盗み見してたのかよ」


 趣味がいいとはいえない行為に蒼は眉間に皺を寄せる。それに気づかなかったので、それだけ陽葵との会話を楽しんでいたというわけにもなるので、そこに関しては圭人の言う通りなのだが。


「わたしたち風凪くんに用があったんだけど、一ノ瀬さんと話してたから終わるまで待ってたんだ」


「用?」


 首を傾げた蒼に圭人と有紗は顔を見合わせると、ニヤリと笑う。


「蒼。昨日一ノ瀬さんに会いに行ったんだよな」


「おう。お見舞いとか月宮さんに頼まれた届けものとか渡しに行ったよ。それが何か?」


「なんで蒼が一ノ瀬さんの家の場所知ってるのかなーって」


 圭人と有紗はジリジリと蒼との距離を詰めてくる。その目は完全に興味本位で蒼のことを弄り倒そうとする目だ。


「別にそんな面白い理由じゃないし聞いてもあまり意味ないと思うぞ」


「いいのいいの。蒼が一ノ瀬さんの家知ってる理由を知りたいんだから」


「わたしも少し興味あるから教えてほしいかな」


 どうしても理由を言わないと納得しないと理解した蒼は小さく吐息を漏らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ