『大和撫子』と休日の遭遇
休日――
食卓についていた蒼は大きな欠伸をしながら朝食を食べていた。こんがりと焼き目が付いた食パンにベーコンエッグを乗せて大きく一口。
これぞ至福のとき、と蒼は口の中にあるものを咀嚼しながらしみじみ感じていた。
休日だからといって、蒼の生活リズムは平日とそう変わらない。強いて言うならいつも着替えている時間帯はソファーに寝そべりながらテレビを見ているぐらいで、今は寝衣姿だ。
「蒼。母さん少し出かけてくるから」
そう言ったのは蒼の母親――風凪恵だ。
恵は今から単身赴任している蒼の父親――風凪雄大に会いに行く。
蒼の家族は雄大、恵、蒼の三人家族。雄大は今県外で仕事をしていて、恵もそれなりに有名な大手企業に勤めている。
「いってらっしゃい」
「蒼も家でダラダラ過ごしてないでどこか遊びに行ったらいいのに」
「んー……めんどい。あと寒い」
「またそんなこと言って。だから彼女できないのよ」
まだ少し眠そうな目を擦りながら朝食を食べ進める蒼に恵がため息混じりに心を抉るような言葉をかける。
ムッと眉を顰めて余計なお世話だ、と蒼は反論してプイッとそっぽを向いた。
「それじゃあ行ってくるわね。ご飯は冷蔵庫にあるものなら何使ってもいいから。あと帰り少し遅くなるかも」
「ん。そしたら買い物でも済ませておくよ。夕飯必要だったら連絡して」
「はーい。行ってきまーす」
恵は軽やかな足取りで玄関へと向かい、程なくしてガチャリと鍵の閉める音がした。
恵と雄大はご近所でもおしどり夫婦と言われるほどに仲が良い。息子である蒼ですらたまにのけものにされているのではと思ってしまうくらいに二人の世界に入り込んでしまう。
それだけに単身赴任が決まったときは何かと大変だった。
蒼はそんな二人のことのことが好きだしここまで育ててくれたことに関して感謝している。
最後の一口を食べ終えた蒼はコーヒーを流し込んで食器類を片付けると、ソファーに腰を深く下ろした。
部活動に所属していない蒼にとって休日は何物にも縛られない自由な時間だ。
もちろん成績を落とさないよう勉強したり家のことをしたりバイトをしたりと、ただ惰眠を貪るわけではなくそれなりにやることはやっている。
(午後から雨降るのかよ)
スマホで天気予報を確認した蒼は思わずげっ、と言葉を漏らして嫌な顔を浮かべる。
午前中はのんびり過ごして午後から買い物や家事をやろうと考えていたのだが、雨が降りしきる中買い物に行きたくない。蒼は急いでクローゼットから私服を取り出して身支度を整えると玄関を出た。
空を見上げると今にも降り出しそうなくらいにどんよりとした分厚い雲が空を覆っている。
傘を手にして雨が降り出す前にと蒼は足早に最寄りのスーパーへと向かい歩き出した。
☆ ★ ☆
スーパーに辿り着くと、蒼は買い物カゴを手にして店内を歩き出す。
足りなくなっている食材は事前に確認していて、恵からも買い足しておいてほしいものは伝えられている。
野菜コーナーから始まり精肉、鮮魚コーナーに続いて生活用品が揃っているコーナーへ足を運んでいく。
(味噌買うの忘れてた)
必要なものをカゴに入れたことを確認してた蒼が味噌を買い忘れていたことに気がついて、調味料が並んでいる棚に向かったときだった。
「あっ……」
澄んだ声がすぐ近くから聞こえて振り向くと、買い物カゴを手にした陽葵の姿があった。
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