米国会談1
19:35 日本国 東京 羽田空港
記者会見を終えた山階宮大将達は、一旦部下達が居る羽田空港へ戻った。
大日本帝國空軍所属 早期警戒管制機内
山階宮大将は本国との定時連絡を取るため管制機に搭乗した。
「山階宮大将。お疲れ様でした」
「ああ、ありがとう。それで本国からの連絡は?」
山階宮は、本国から新たな指令が来てないか部下に訊ねた。
「はい。本国から新たな指示が来ております」
「そうか、分かった」
部下から指令書を受け取った山階宮は、すぐに内容を確認した。
指令書を確認した山階宮大将は、
「髙原大佐を私の執務室へ呼んでくれ」
と部下に伝え、仮設の執務室へと向かった。
5分後
「失礼します」
髙原大佐が入室してきた。
「楽にしてくれ。君を呼んだ理由だがこれを見てくれ」
山階宮大将は先程の指令書を髙原大佐へ渡した。
「領空侵犯の件で米国と会談を?」
「そうだ。政府は即座にこの問題に対処しろと言ってきた。貴官には直ぐに資料を纏め、米国大使達に事の経緯を説明してもらう」
「了解しました」
「では取り掛かってくれ」
山階宮大将は、髙原大佐を下がらせ、受話器を取った。
「私だ。高宮大佐を呼んでくれ」
数分後に高宮大佐が現れた。
「失礼します」
「高宮大佐。貴官は直ちに日本国外務省へ赴き、明日午前中に米国大使と会談を行いたい旨を伝えてくれ」
「了解しました」
「それともう一つ。午後にはドイツ大使館とイタリア大使館を表敬訪問したい旨も伝えてくれ」
「ドイツとイタリアですか?」
「ああ。異世界の国とはいえ元の世界では大事な友好国だ。 どのような歴史を歩み、どのような考えを持ってるか、そして帝國に対してどういった対応をするか見極めたい」
「分かりました」
山階宮大将は用件は以上だといい、高宮大佐は退室していった。
山階宮大将は椅子に深く腰掛かけ、明日の会談のことを考える。
「はぁ。(今回の領空侵犯問題、米国はどういう対応するんだろうか)」
山階宮大将の脳裏に不安が過る。
「(向こうが非を認めてくれれば良いのだが、最悪こちらに問題があると難癖をつけられなければよいが)」
山階宮大将はネガティブな思考を切り替え、日報の作成に取り掛かった。
20:35 霞ヶ関 外務省
「米国大使の会談とドイツとイタリア大使館の表敬訪問ですか?」
外務省の職員は、高宮大佐の言葉を聞き返した。
「はい。本国からの指示で米国大使と会談を、そして異世界とはいえドイツとイタリアは大事な友好国ですので表敬訪問を行いたいのですが各国大使館にお取次をお願いできないでしょうか?」
「わかりました。大使館に連絡を取りますのでお待ち下さい」
職員は一旦応接室から退室し、3ヶ国の大使館にアポを取りに向かった。
そして約20分後、職員が応接室に戻ってきた。
「先方に連絡した所、米国大使館は午前9時からであれば大丈夫との連絡が来ました。ドイツとイタリアは何時でも歓迎するとのことです」
「そうですか。ありがとうございます」
「いえ、お役に立てたなら何よりです」
「それでは、私は上官に報告しますので失礼します」
そして高宮大佐は退室し、羽田空港へ向かった。
21:15 赤坂 アメリカ大使館
米大使は今、大使館の職員や武官達と共に会議を行っていた。
事の発端は、日本の外務省経由で大日本帝國の使節団が明日の午前に2カ国だけで会談を行いたいと申し出てきたことだ。
突然の会談の要請に困惑したが、2カ国間の会談が出来るという事もあり、受け入れることを決めた。
しかし、ただ受け入れて終わりというわけにはいかない。何故このような要望を出したのか? また、どのような要求をする気なのか予想する必要があった。
そして会議が始まると一人の武官が
「大日本帝國の会談も目的は軍の領空侵犯の件かもしれない」
と言った。
領空侵犯の件を知らない職員達はどういうことですか? と尋ねた。
「事の経緯は・・・」
武官の説明を受けた職員達は驚きを隠せなかった。
国交の無い国に武装した無人機を大量に送り込み、領空を侵犯侵犯した。
大使達職員はどうして大日本帝國が会談を申し込んだのか理解した。
「なんということだ」
大使は思わず呟いた。
「防空識別圏に侵入したときとかにあの国の警告とかはなかったのですか?」
職員の一人が言った。
「警告はあったかもしれん。そもそも無人機に通信用の無線機器は取り付けてないからなんとも言えん」
「そういう問題じゃないだろう! 警告を無視して相手国の領空を武装した無人機で領空侵犯したんだ! 普通なら戦争になってもおかしくないことをしたんだぞ!」
職員は思わず怒鳴り声をあげた。
「確かにその通りだが、無人機の偵察作戦に関して私は感知してない。全て事後報告を受けただけだ」
武官は淡々と述べた。
「落ち着け、まずは会談の事を本国に連絡して指示を仰ごう。これは高度な政治判断が予想される」
そして10分後に大使は国務長官に会談の件を報告した。
アメリカ ワシントン
駐日大使の報告を受けたホルスト国務長官は、ホワイトハウスへ向かった。
そしてジョニー大統領に面会を求めたところ、すぐに許可が下りた為執務室へ向かった。
「緊急の知らせと入ったと言ったがどんな知らせだ?」
「はい。実はですね」
ホルスト国務長官は大日本帝國の使節団が在日アメリカ大使館に会談を申込んだことを伝えた。
「それは本当か!?」
ジョニー大統領は驚きの声を上げた。
「はい、事実です。また会談の目的は軍の領空侵犯が原因ではないかとの意見も出てます」
「そうか。となると会談の目的も賠償関係か」
「おそらくは。私としましては大なり小なりあの国と接点を持てば少なくとも最悪の事態は回避できるかと思います。なのでこの会談を受けようかと」
「うむ、分かった。会談は受けていい。しかし、大使だけでは不安だ。今回の会談は私も出よう。在日大使館にはTV会談の準備をするように伝えろ」
「はい、分かりました」
そしてホルスト長官は退室していった。
そして在日アメリカ大使館は明日の会談に向け準備を進めた。
ドイツ ベルリン
アメリカが会談に向けて準備を進めてる頃、ドイツのアイヒンガー首相は外務大臣から表敬訪問の報告を受けた。
「大日本帝国の使節団が表敬訪問だと?」
「はい。明日の午後に表敬訪問されるとのことです。」
外務大臣の報告にアイヒンガー首相は首を傾げた。
「何故、表敬訪問するんだ?」
アイヒンガー首相の疑問に連邦首相府長官は、
「恐らくですが、我々と交流を持ちたいとかでは?」
長官の発言にアイヒンガー首相はなぜだね? と聞き返した。
「使節団の記者会見を見ましたが大日本帝国は向こうの世界のドイツと軍事同盟を結んでました。ですが今回の転移で同盟国を全て失ったので、新たに友好関係を築きたいとの考えではないでしょうか?」
長官の発言にアイヒンガー首相は、
「ふむ、向こうが友好的に接して来るのなら問題はないだろう」
「わかりました。では大使館にはそのように伝えます」
イタリア ローマ
イタリアもドイツと同様に大使館から報告を受けていた。
「何故我々の所に表敬訪問するのだ?」
イタリア首相は外務省の職員に尋ねた。
「おそらくは交流の申し出では?」
「交流の申し入れか。まぁ、友好的なら断る理由はないか」
イタリア首相はそう言うと外務省の職員に使節団には無礼が無いように注意するよう通達した。
そして翌朝、大日本帝國使節団は赤坂のアメリカ大使館に向けて出発をした。