震える鼓動
ゼルが国家反逆罪で捕まろうとする少し前…
ゼルが学校に行く途中の道には5人ほどの怪しい人影があった。
「あれが例の少年…ゼル•タチバナ…」
その怪しい人影の一人であるベルク•サイオンジ隊員が呟く。
サラサラとした金髪にところどころに混じっている黒髪。いかにも美少年っていう感じだ。
ベルクは軍に入隊してすぐに頭角を表し国家軍部機関JAGに編入したエリートである。
JAGとはJudgment Alternative God(神の代わりに制裁を)の頭文字をとっている機関であり
対人機そして_神機戦での対応を主にとっている。
また、大日本帝国の学校で教えられる歴史で小学6年生から教えられる神機の本当のことについても教えられる。
そんな特殊機関に所属しているベルクだが彼がこの機関に入隊した理由はもちろん神機を憎んでいるからだ。彼が14歳の時に「ワシントン崩壊」という事件が起こる。それはアメリカ大陸で突如として現れた神機2機による約1時間による大虐殺事件だ。ワシントンにも兵器が装備されているもののアメリカ大陸での戦争は一度たりともなかったため兵士たちの熟練度がまだ浅かった。それをいいことに神機達はワシントンにある基地をすぐさま破壊、その後は街を地獄にした。それによりワンシントンは今ではもう無き街と化している。
(絶対に許さない。俺の両親を殺したあの灰色の神機…。殺してやる…。中尉になって人機操縦試験に必ず合格して復讐を果たすんだ…あんな邪悪な生物を生かしては置けない。あの少年もそう…あんな歳に誤魔化されてはいけない。たとえ神機を操縦していたやつの血族だと知らなくても…な。)
神機による内戦が起きて以降、大日本帝国は新たな兵器を開発するのに全力を尽くした。
そして新たに開発したその兵器の名は人型並行ロボット、人機_。内戦以降、はそれを主力とした戦いにシフトする。しかしながら現在はヨーロッパ領地獲得のためにアマゾン連合王国と戦い続けているものの一向に決着は尽きない…
大日本帝国での人機操縦権は先程ベルクが述べたように中尉以上で試験を受けてもいい権利が与えられる。それに合格すれば人機操縦権を獲得することができる。
しかしベルクはまだ少尉ですらない。だからこそ彼は功績が欲しかった。そのためにもここで成果を上げなければならない。それにたとえ神機を操縦できたとしても人類の叡智の結晶である人機なら恐るるに足らず、と思っていた。あの「アメリカ崩壊」も結局のところは人機が対応しに来るのを恐れて1時間だけ暴れたに違いない_。とベルクは思っていた。
(ここで功績を上げて一気に中尉まで上り詰めてやる_。)
そんな野心に燃えていたベルクだが、それは彼だけではなかった。
「そうだ、だが殺してはいけない。「捕獲せよ」が軍部の命令だ。我々は命令通りに速やかに行えばよい。」
そう言ってゼルを睨みつけてベルクの呟きに反応したのはタナカ中尉。今回のゼル逮捕隊の隊長であった。
外から見れば真面目な軍人に見える、だがその心は腐っていた。
(ここでやつを捕獲しても功績対象としては神機を倒した時と同じ扱いになるとはな…しかも奴は神機の操縦者の血族とも知らぬとはほんと運が回ってきたというものよ!ここでやつを捕獲しゴッドスレイヤーの称号を得るのはこの私、タナカだ!)
ゴッドスレイヤー…それは、軍人の中で最高の名誉である。神をも殺すことができる最強の人間に与えられる称号_。日本大帝国ではそれを与えられているのはわずか5人_。
ー自分がその新たな6柱目になるのだー
そう考えていたタナカ。そのためにもこの残りの4人に手柄を横取りされたくなかった。
(とりあえず人気の少ないところにやつを誘導させて捕獲するか…そうすれば手柄を奪えるというものよ。)
上司であるタナカ様には逆らえまい、と確信していたタナカ。
「やつを人気のない場所に誘導するぞ。あとは待機させている私の“人機“を使って捕獲する」
なんとまあ外から見ても自分が手柄を横取りにしようとするのが丸わかりの発言。
「お、お待ちくださいタナカ少尉!いくらなんでも人機をこの作戦に投入するのは大袈裟ではないでしょうか…?」
タナカの発言に驚いて聞いてしまったのはペンタブ少尉。白髪が目立つのも無理がない_。彼は今年で48歳。才能は皆無_。まずもってこの歳で少尉の位というのは悪い意味で珍しいのだ。タナカが31歳で中尉という位の時点でそれは明らかであるしタナカはそんなペンタブを舐め切っていた。当然自分の命令に口を出されたので_。
「黙れ、ペンタブ少尉。私の命令は絶対だ。その歳で少尉でしかないお前がこの私に口答えするではない。老害は黙っておけっ!」
と、容赦なく罵声をあげる。
(ペンタブさんもなんか言ったらどうなんだ…あんな野心透け透けのタナカ中尉なんぞにペコペコする必要なんてないのに…)
そう、内心で呟くベルク。彼以下タナカ以外の3名はペンタブが嫌いなわけではなかった。
いつも自分たちのことを励ましてくれるし長年のキャリアを生かしてアドバイスもしてくれる。
ベルクが言えたことではないがあんな野心見え見えのやつなんかよりもよっぽどペンタブのほうがましだ_。と思っている
「それでは行動を開始。なにか不明な点は?」
タナカ中尉が隊員に聞く。もちろん顔が物語っている。
ーなにも文句などないだろう?ん?ーと_。
「はっ!」
隊員たちの返事に満足したのか2、3回頷く。
「相手を人気のない場所へ誘導。私は先回りして待つ。その後君たちは私の後方支援をしたまえ。」
そして動く5人の集団。
危機はゼルの間近に来ていた_。
●●●●●
「はっ?」
いや、ま、まて状況を整理しようじゃあないか!
たしか俺は学校に行っている途中だった。歴史の話をしてわーすごいねー?日本ばんざーいみたいなこと言っていたはず。そしたらマッチョな軍人さんきて昔の俺が載っている記事を見せられて「君だよね?うふふ」
って言われたから「そうですよ、うふふ」って答えたんだったよね?んで「うふふ逮捕しまぁす♡」という現状…
うん…ごめん、意味わかんね。
とりあえずこうなっている以上、俺のすべきことは
「あーあのぉあそこにいる人は…?」
俺が指で刺して後ろを振り返る軍人さんたち。
この隙にーダッシュ!
「あっ貴様、待て!」
ねぇ頼むよ誰か助けてよぉぉぉぉ!
●●●●●
「はぁっ…はぁっ…はぁ」
いつのまにか廃工?なのかわかんないがそんな結構広いところに来た。
「待ってください、俺が国家反逆罪?俺は常に国家に身を尽くしてきたナイスガイですよ!?」
こんな状況でもボケる俺ってさすが_。
「御託はいい。タナカ中尉、目的地に来ました。」
はい、無視ですよ無視。これがシカトっていうやつだね!はっはっは!
その時後ろで大きな音がした。
「ゼル•タチバナ_。お前はこの私が捕獲させてもらう。せいぜい私の栄光の礎になるがいい。」
…そこにいたのはそう、教科書で見たことがあるあのロボット_人機だった。
いかにも見た目はロボットみたいな感じというかは人型をイメージしたような姿。大きな目?が一つ。おそらくあそこが操縦席だろう。しかも右手に人間からしたら考えられないほどの大きさの剣が連結している。
あぁ詰みっすね。はい。人間相手にこんなん出されたらもう逃げようがないっすわ。
「ふっ…諦めたか。それじゃ大人しく_」
その時また大きな音がした。
いや、さっきよりも大きい音。それにこの異様な雰囲気。そして煙越しに見える人型のシルエット_
「な、なぜここにいる…き、貴様が…」
あの人機を操縦している人の動揺している顔が思い浮かぶ。だが俺もそうだった。教科書には載ってはいない。だが煙の中からだんだん露わになってくるその姿を見て俺は確信した。
「神機…」
さらに奇妙なことに身体が動かなかった。おそらく敵もそうなのだろう。
そしてそれは人機と俺との間に割って入ってこう放った_。
「ゼル•タチバナだな?上官命令より、お前を保護する。」
そして神機が俺に触れる。
そこで俺は意識を失った。