005 占い師ギルドの代表。
暗殺者ギルドの本部へ向かう前に、もう少し占い師として活動しよう。
というより、このままでは城郭都市ポーソンでは占い客ゼロだ。
これでは占い師としてのプライドが、許さない。
「仕方ない。営業許可を取るとするか。で、アリア」
「なぁに、お師匠様?」
「営業許可は、どうやって取るんだ?」
アリアは呆れた様子だ。
「そんなことも知らないで、占い師をやっていたの?」
「占い師として独り立ちしたのは、つい先日のことだからな。導師エレノアは偉大すぎたので、営業許可とか不要だった」
「うーん。それは偉大とか関係なくて、ただ無許可で営業していただけでは?」
だとしても、導師エレノアが衛兵などに注意されたことは、一度もない。やはり偉大性ゆえだろう。
アリアも農民の娘なので、営業許可の取り方は知らなかった。そこで宿の女将さんに聞いてみる。
そこは女将さん、詳しく知っていた。営業許可を取るためには、まず連合ギルドに行かねばならないそうだ。
連合ギルドとは、その地方にある各ギルドを統括する機関。
宿を出てから、アリアが尋ねた。
「暗殺者ギルドは、連合ギルドに加盟していなかったの?」
「暗殺者ギルドが表立って、本部とか公表できるわけがないだろ。ある支部なんかは、居酒屋に偽装していたっけ」
「お師匠様が占い師に偽装しているのと同じことなのね」
「何遍でも言うがね、僕は占い師だ」
学習能力のない弟子とともに、ラークは連合ギルドの建物に到着。
ところが、さくさくと営業許可を取るはずが、阻まれた。
それも占い師ギルドに。
「そんなギルドがあったのか!」
「お師匠様、下調べくらいはしましょうよ」
だが知らなかったのも無理はないことだ。
ギルドの始まりは、鍛冶屋たちが組合を作った500年前まで遡る。
以来、数多のギルドが生まれてきた。
その中には王国全土に影響力を持つ、大手ギルドもある。一方で、地域密着型の小規模ギルドもある。ピンからキリだが、全て集めれば300近くのギルドがあるのだ。
もちろん、これは確認されているだけのギルド数。
ここに暗殺者ギルドなど、闇に生きるギルドもプラスされれば、さらに数は増える。
占い師ギルドの代表がやって来て、ラークに向かって意地悪く言った。
「占い師をやりたければ、ギルドに加わることだな」
「しかし、導師エレノアはギルドには属していませんでしたよ」
すると占い師ギルドの代表は、あざ笑うではないか。
「導師だか何だか知らんが、我々のギルドに入る実力がなかったから、無所属で活動していたんだろ。いずれにせよ、このポーソンでは勝手は許さんぞ」
「分かりました」
連合ギルドの建物を出ると、アリアが腹立たしそうに言う。
「占い師ギルドの代表とかいう男、失礼な奴だったわね。もうこんな都市、出て行きましょう。占い師ギルドの縄張りでないところで、活動すればいいわ。そうでしょ、お師匠様?」
「僕のことはいいが、導師エレノアをバカにしたことは許せない」
「え? もしかして、さっきの男を暗殺するの?」
「殺さずとも、人生を破滅させることはできる」
※※※
占い師ギルドの代表の名は、ホルトといった。
2日間、ラークはホルトを尾行。ラークの《存在減滅》スキルを使えば、楽勝だ。
《存在減滅》スキルとは、己の気配──すなわち存在を、どこまでも減らすスキルだ。
《存在減滅》の使い手ともなれば、相手の目の前にいても、まるで透明になったかのように振舞える。それに対抗するのが、《存在感知》。
とにかく、暗殺者としては必須のスキルだ。
先日の女暗殺者も、ラークの寝込みを襲うさい、《存在減滅》を使ってはいた。
ただラークには通用しなかっただけで。
さて、3日目。
ラークは再度、ギルド連合の建物を訪れていた。
今回も代表のホルトが傲慢に答える。
「また来たな、ヘボ占い師。帰れ、帰れ」
ラークはあるものを取り出した。
写真だ。念写スキルで作る写真は、スキルの希少さもプラスして、滅多に見られない。
ホルトは写真を見るなり、青ざめた。
「な、なんだこれは──!」
「ホルトさん。あんたは愛妻家で有名なそうだが──いや、驚いた。たった2日間で、4人もの愛人のもとを訪ねているとは。精力的なことだ」
ラークが見せた写真には、ホルトと愛人たちが映っている。裸で絡み合っているところなので、言い逃れはできそうにない。
これが尾行の成果だ。
ホルトは哀願した。
「わ、わかった。貴様を占い師ギルドに入れてやる。だから、この写真は処分してくれ──」
ラークは写真をホルトに渡した。
ホルトは安堵した様子。だが──。
「占い師ギルドに入ることに興味はない。それと同じ写真を、すでにあんたの奥さんには送り済みだからな」
それだけ言うと、ラークはギルド連合を立ち去った。