表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/34

004 女暗殺者が来る。

 




 その夜。

 ラークの部屋に侵入者があり、ベッドに短剣を突き刺した。


 ラークは壁際の闇の中で佇み、暗殺者を眺めていた。

 暗殺者はラークがベッドにいないと知り、ハッとした様子で顔を上げる。


「掛け布団の下に、枕を入れていたんだ。こんな手に引っかかるなんて、Aランクが泣くよ」


 暗殺者のランクはA。

 しかし、いくらランクが高かろうとも、それに見合った経験値がなければ宝の持ち腐れ。

 なまじ才能がある分、経験値を稼ぐ前にランクだけ上がると、こういう初歩的な失態をやらかすわけだ。


 暗殺者は女で、顔をマスクで隠していた。女の暗殺者は珍しくないが、たいてい色仕掛けを武器とするものだ。

 しかし、この暗殺者は色仕掛けなしで、いきなり夜に殺しに来た。


「いまだに暗殺者ギルドが、僕を狙っていたとは。暇な連中だなぁ」


 暗殺者は声を低めて答える。


「貴様はギルドの恥さらしだ。命を狙われて当然だろう?」


「それはおかしい。育ててもらった恩の分は、ちゃんと働いただろ。あとは僕の好きにやらせてもらう。すなわち、占い師として」


 ところが女暗殺者は、意味の分からないことを言い出した。少なくとも、ラークには意味の分からないことを。


「貴様が、占い師という職業に偽装している。それくらいは、お見通しだ」


 アリアも、似たようなことを言っていた。

 ラークとしては、不可解すぎる事態だ。なぜ誰も、ラークの言葉を信じないのか。こちらは正直に話しているというのに。


 そもそも『占い師=偽装の職業』という発想が、失礼ではないか。

 ラークに言わせれば、占い師ほど貴い職はない。


 暗殺者ギルドの長にして、ラークの暗殺者の師でもあったタイタン。

 たしかに立派な人物ではあったが、導師エレノアと比べれば、霞んでしまう。


「占い師は偽装ではない。大事なことだから、強調しておくぞ」


「ふん。そんな見え透いた嘘に引っかかるものか。占い師に偽装し、標的に接近するつもりなのだろう。標的が何者かは知らないが──とにかく暗殺者ギルドは、暗殺者の独立を禁じている。ラーク、貴様は禁を破った。よって抹殺対象とされたのだ。覚悟しろ!」


 ラークはようやく理解した。

 なぜギルドからの刺客が尽きないのか。


 ようはラークが転職したと、誰も信じていないわけだ。

 それどころか、ラークが暗殺者として独立したと思い込んでいる。

 そうなるとラークは商売敵だ。


 少なくとも、この王国オーシャでは、暗殺者はギルドの独占市場。ところが、そこにラークというライバルが出てきた。

 それで暗殺者ギルドは、ラークを消そうとしている。


(こっちは、暗殺業からは足を洗ったというのに。まったく──信用ないのか、僕は?)


 女暗殺者は、火炎の弾を発射してきた。通常攻撃スキルの《業火弾ファイヤボール》だ。


 火炎弾の回避は楽勝だ。

 ただ火炎弾が壁に当たると、そこから火の手が広がってしまう。最後には、この宿が全焼するだろう。

 暗殺者ならともかく、今は立派な占い師だ。ひと様に迷惑をかけるようなことはしたくない。


「仕方ない。《吸取手アブソーシプション》」


《吸取手》発動の右手で、発射された火炎弾を、次々とキャッチしていく。キャッチすると、火炎弾はすぐさま消えていった。

 一方、女暗殺者は《業火弾》連発の手を止めない。


 ラークは溜息をついた。


「いい加減に──」


 跳んで距離を詰める。


「しろ!」


 左拳を、女暗殺者の腹部へと放つ。

 だが、女暗殺者は余裕の顔だ。


「無駄だ。私には《防御膜シールド》が──!?」


 全身を覆う《防御膜》スキルは、防御の基本中の基本。Aランクともなれば、《防御膜》の強度にも自信があったのだろうが。


 ラークの拳は《防御膜》を破壊。

 女暗殺者は腹部への一撃をもろに受け、壁まで吹っ飛んだ。


「バカ、な──私の《防御膜》が破壊されるなど」


「悪くはなかったが、こちらも《粉砕拳インパクト・ブロー》スキルを使わせてもらったし」


 女暗殺者は屈辱の様子も、ここは撤退が上策と見たか、逃げ去った。


 ラークも深追いするつもりはない。

 とはいえ、また来られるのも面倒だが。


 翌朝。

 ラークは朝食の席で、アリアに言った。


「どうも、暗殺者ギルドの本部に、行くことになりそうだ」


「OK。弟子のあたしを紹介するのね?」


「バカか。違う。僕が暗殺者を引退したことを、きっちりと話しに行くんだ」


「ふうん」


 アリアは信じていない様子だった。

 弟子でさえ信じないことを、暗殺者ギルドの連中に納得させることができるだろうか。


(まぁ、試してみるか。占い師としての将来のためにも、これは必要なことだしな)





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ