034 王女を占う。
ラークは、リガーとゾーイを解放した。
2人を全面的に信用したわけではないが、手駒として使うからには、譲渡は不可欠。
いつの日か真の友情が芽生えるかもしれず、または殺しあうことになるかもしれない。
そこが暗殺者の醍醐味でもある。
(いや、僕は占い師だが)
とにかくラークが呼べば、すぐに駆け付けることになっている。
ラークが隣室に戻ると、アリアとソフィア姫が話し込んでいた。
アリアが弱者へ手を差し伸べるのは、生まれつきの性格なのか。
それとも領主に拷問されかけ、ラークに助けられた経験があるからなのか。
いずれにせよ、弱い者への共感力はアリアの魅力だろう。
「いいか、アリア?」
「あ、お師匠様。ソフィアちゃん、このお師匠様が、あなたを王位に就けてくれるわ」
ラークは軽い眩暈を覚えた。王位に就けると安請け合いしているだけでなく、一国の王女相手に『ちゃん』付けとは。
世間知らずは恐ろしい。
ラークは頭を振ってから、ソフィア姫の前に跪いた。
「ソフィア王女殿下、お初にお目にかかります。私は、占い師のラーク。是非とも、姫様の将来を占いたく思うのですが、よろしいでしょうか?」
王族を占うチャンスなど、そうはない。占い師としての魂に火がついた。
しかし、それを弟子が妨害する。
「まって、お師匠様。お師匠様の実力で、ソフィアちゃんを占ってもいいの? 一国の王女なのよ?」
「……いや、しかし、僕は導師エレノアの弟子だぞ」
「Gランクよね」
「全てがランクで決まるわけじゃない。大切なのは、ランクよりも心意気だ」
「本気なの?」
「……」
ソフィア姫が柔和にほほ笑んだ。
「良いのです、ラークお兄さん。どうか、ソフィアを占って欲しいです」
「有難き幸せ」
裏切り者の弟子を睨みつつ、ラークは水晶玉を取り出した。さっそくソフィア姫を対象として、占いスキルを発動する。
とたん、水晶玉の映像がフェードアウトした。
真っ暗な球体を、ラークは狼狽しながら観察する。
試しに占いスキルを解除すると、水晶玉は元に戻った。
「不可解だな──もしかすると、ソフィア姫を占うことは、世界全体に影響を及ぼすのかもしれない」
占う対象の、この世界への影響力は無視できない。影響力が大きいほどに、占うことは困難になる。だが、まさか水晶玉がフェードアウトするとは。
アリアがすかさず言った。
「さすがGランクね」
「ランクは関係がない! ──おそらくは」
その後、水晶玉より無難な手相占いにシフトし、ラークはうなずいた。
「生命線の刻みの深さからして、長生きされますよ」
「それは、お師匠様がソフィアちゃんを王位に就けるからよね?」
ラークは溜息をついた。
「まてよ、アリア。まずソフィア王女殿下が、何を望まれているのか。それが大事なことだ。王女殿下、国王が崩御されたとき、あなたは即位を望まれますか? 女王以外の道もあります。占い師とか」
「お師匠様。そこで勧誘しないでくれる?」
「一つの可能性を示しただけだ。勧誘などはしていない。とにかくソフィア姫。あなたにはまだ、数多の可能性がある。女王に縛られることもない」
ソフィア姫はしばし瞑目した。それから見開かれた瞳に、ラークは覚悟を読み取った。
「昔、リリアンヌお姉さまと、一度だけお会いしたことがあるのです。お姉さまは夢を抱いていたのです。オーシャ国を、この大陸全土を治める超大国にまで発展させるという夢を。
ソフィアは指摘したのです。それは他国侵略なくしてはあり得ないと。数多の人々が死ぬことになるのです。
ですがお姉さまは、意に介してはいなかったのです。君主とは国家を発展させるため尽力するものであり、民草に犠牲を強いることができる者。これがリリアンヌお姉さまの思想なのです。よってソフィアは言うのです。あのひとを、女王にしてはいけないと」
ラークは、手元の水晶玉を見下ろした。導師エレノアから授かった、大切な水晶玉を。
(導師は、どこまで『視て』いたのだろうか)
「では王女殿下、そろそろお出かけになりましょう」
ソフィア姫が小首を傾げる。
なかなかに愛らしい生物だ。
「王宮なのですね?」
国王がいつ死ぬのか分からない今、玉座の近くにいたほうがいい。
「もちろん」




