020 四つの旅団。
〇ロガ山の付近〇
パクルガ連隊長は、不満だった。
連隊長といえば、旅団長に次ぐ地位だ。それなのに使い走りをさせられるとは。
もちろん、事は神兵がらみ。下っ端には任せられない。そういう意味では、パクルガが連隊長だからこそ、この件に関与できている、ともいえる。
それでも、不満に変わりはない。
ロガ山などという田舎まで行かされ、バメル男爵が仕事を終わらせるのを見届けるなどとは。
すなわち、神兵の眠っている修道院を、合法的に入手するという仕事を。
むろん騎士団の権限ならば、修道院を徴収することは可能。しかし、それを第四旅団が行えば、ほかの旅団が怪しむことを必至。
つまり、『第四旅団は、なぜあんな古い修道院を徴収したりしたんだ?』と。
それは第四旅団として、まずい。
第四旅団が神兵を手に入れたと、他の旅団に知られたらどうなるか?
考えられるのは、次の2パターン。
その1、神兵を王立騎士団の共有財産にするべきだ、という流れになる。
その2、第一~三旅団が手を組み、第四旅団を潰しにかかる。
どちらのパターンも、パクルガとしてはゾッとしない。
王立騎士団の四つの旅団が勢力争いに明け暮れ、早二〇年。
その期間、王立騎士団には、全てを統べる騎士団長が存在しない。国王がこの異常事態を傍観せざるをえない状況こそが、今のオーシャ国の現状を現わしている。よく隣国が侵略してこなかったものだ。
とにかく、第一~四旅団を統べる、四人の旅団長。
この中の誰が騎士団長となるのか。
オーシャ国において、王立騎士団長の有する権力は、あまりに大きい。
そしてパクルガは勝ち馬に乗るつもりだ。第四旅団長オールこそが、騎士団長となるであろうと。
そのための切り札に必須なのが、今回の神兵。
だからこそ、連隊長であるパクルガが、このような使い走りをする羽目になったわけだ。
男爵邸に到着するなり、慇懃に対応してくるバメル男爵。
パクルガ自身は平民の出自なので、バメル男爵としても、内心では屈辱に感じているだろう。
しかし、第四旅団長オールの爵位は侯爵。そして、パクルガはオールの右腕であり、代理としてここにいる。無礼な態度はとれまい。
「状況は芳しくないようだな、男爵? 期限は過ぎようとしているぞ」
実のところ、男爵の腰が低い理由はパクルガ自身にもあった。
パクルガの職業は、騎士(体面的に騎士の称号を持っているからといって、神から与えられた『職業』が騎士になるとは限らない)。
そして、Sランクだ。
仮にパクルガが上流階級の出ならば、旅団長の座に収まっていたのは、彼だったかもしれない。
しかし、パクルガはさほど残念に思ってはいなかった。旅団長ともなると、腹芸の一つもできなくてはならないが、パクルガの好みではない。
とにもかくにも、バメル男爵は冷や汗をかきながら、弁明した。
男爵は長々と話したが、要点をまとめればこうなる。
ロガ修道院の用心棒に手も足も出ないのだ、と。
パクルガは興味を覚えた。
(こんな田舎に、それほど腕の立つ者がいるのか? 何か事情がありそうだ。いや、それよりも──)
「男爵。修道院までの道案内の者を頼めるか?」
男爵がハッとした。
「では?」
「会ってみようではないか、その用心棒とやらに」
〇男爵邸より1キロ離れた地点〇
ひときわ高い大樹の天辺に、ラークは胡坐をかいていた。
《遠視》スキルで、男爵邸の様子を伺いながら。
監視を始めてすぐに、王立騎士団からの使者が現れたのはツイているといえる。
ただし《遠視》と並行して、《能力透視》を使ったところ、あまり嬉しくないことも分かった。ランクSの騎士。
「思ったより大物が来たな」
読唇術で、パクルガと男爵の会話を読む。読唇術はスキルではなく、単に覚えたものだ。弱点は口が見えないと、何を言っているか分からないことだが──。
ちょうどパクルガの口の動きを読めたとき、『会ってみようではないか、その用心棒とやらに』と言った。
「いらっしゃるか。できれば、明日まで待って欲しかったんだが──」
ラークは大樹より飛び降り、修道院まで高速移動。
修道院前の庭で作業中のクロエに声をかけた。
「計画を早めるぞ」
「早めるって、いつですの?」
パクルガが身体強化スキルの《加速》を使えば、あっという間に来るだろう。しかし、今回は徒歩──または馬か。
「早くて5分後だな」
クロエが抗議の声を上げたのも、無理はない。




