002 弟子ができる。
助けた少女の名前は、アリアといった。
ラークは村まで送ろうと申し出たが、アリアは丁重に断ってきた。
ラークはうなずいた。
「そうか。じゃ、気をつけて」
この領地を抜けた先、王領内に城郭都市がある。都市規模なら占いを必要とする者も多いだろう。
ラークはさっそく出発した。街道をのんびりと歩きながら、占い師としての未来に思いをはせる。
やはり導師を超える占い師になることが目標だ。
日が暮れるころ、ラークは後ろを見やった。アリアはまだいる。
「君の村って、こっちの方角なのか?」
アリアを浚った馬車が走って来た方角は、まるきり反対なのだが。
やはり、アリアは首を横に振る。
「いいえ。もう村に戻る気はないわ。あたし、新たな道を見出したの」
「そうか、見出したのか」
「あなたと共に歩むのが、あたしの道なのよ」
そう自信満々に言われると、ラークとしても否定しがたかった。
それに占いの弟子ができるのは、喜ばしいことだ。
「分かった。今日から、僕の弟子だ」
アリアは顔を輝かせる。
ラークは良いことをしたな、と思った。
30分ほど歩いたころ、嫌な予感に襲われるまでは。
振り返って、後ろにいるアリアに尋ねる。恐る恐ると。
「弟子というのは、占いの弟子だよな?」
アリアはキョトンとした顔だ。それが全てを物語っていた。
「……まさか暗殺者のほうか?」
「もちろんよ、お師匠様」
暗殺業。
ラークは幼いころから、叩き込まれてきた。ラークは孤児であり、引き取ったギルドこそが、暗殺者ギルドだったのだ。
そこでは遊びの延長として、子供たちは暗殺スキルを磨く。ただ殺す技術だけではない。毒の知識や、事故に見せかけて殺す方法など。
ラークは実際に使ったことはないが、標的を精神的に追い詰めて自殺させる手法までも。
そんなラークが実戦デビューしたのは、6歳のときだった。若すぎるという意見もあるだろうが、暗殺業は子供のほうが向いている。
何ら疑われず、標的に接近できるからだ。
ラークは大成功でデビューを飾った。大物といえる標的、とある太守を殺したのだから。
それでも、ラークの暗殺者としての全実績の中では、平凡な仕事に位置するが。
初仕事の後も、ラークは確実に暗殺を重ねていった。暗殺者ギルドのエースに成長するまでになった。
しかし、ラーク自身は虚しい思いだった。
果たして、これが自分のやりたいことなのだろうかと。
ある日、導師エレノアと出会った。
エレノアの占いを見たとき、ビビッときた。これが、自分の求めていたものだと、分かったのだ。
その場でラークは、エレノアに弟子入りを願い出た。
導師エレノアは、ラークが弟子入り志願することなども、占いでお見通しだった。
ラークのための水晶玉を、すでに用意していたのだから。
ちなみに、このときラークが受け取った水晶玉は、練習用のものだ。いまラークが大事に持ち歩いている水晶玉は、エレノアのもとを巣立つとき贈られた。
ラークの宝物だ。
では暗殺者ギルドのほうは、どうなったのか?
ラークはよく知らないし、興味もない。
ラークが弟子入りしたあと、何度か暗殺者ギルドから刺客が送り込まれてきた。標的がエレノアだったのか、ギルドを足抜けしたラークだったのかは不明だ。
全員、ラークが返り討ちにしたので。
こうして、ラークは占い師となった。
Gランクだが。
暗殺者だったころは、SSSランク。
しかし未練はない。
占いこそが、天職である。ランクなどは関係ない。
ところがアリアという、暗殺者の弟子を作ってしまった。いまさら、暗殺者の弟子は持たない、とは言えない。了承してしまったので。
ラークは溜息をついた。
「まぁ、いいか。アリア、これからよろしく」
「よろしくね、お師匠様!」
「ところで敬語は使わないのか? ほら師弟の関係だし」
「敬語が介在すると、他人行儀になってしまうと思うのよ」
「……そういうものかな」
ラークの思っていた師弟関係とは違うような。
ラークは改めて、アリアを見た。
歳は16。赤銅色の髪、空色の瞳。スレンダーな肢体で、貧乳。襤褸切れのような服を着ている。
「ふむ。城郭都市に到着したら、服を買ったほうがいいな。それと──」
ラークは、《能力透視》スキルを使った。
職業やランクとは、【神なる者】が与えるものだ。《能力透視》で、他者の職業とランクを見ることができる。
アリアの場合、まだ弟子にしたばかりなので、ダメ元だったが──
暗殺者、Fランクと出た。
(訓練も受けていないのに、もうFランクだって? 素人はGランクと相場は決まっているんだが)
「アリア。君、才能はあるようだぞ」
アリアは嬉しそうにほほ笑んだ。
「知ってたわよ」
(才能があり、自信は過剰、と)