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013 これからは占い師夫婦ですか。

 



 暗殺者ギルドは、幼少より暗殺者を育てる。

 さらに一歩進んで、人為的交配なるものを行うことになった。


 つまるところ、優れた男と女に子を産ませようというわけだ。

 むろん、その子供は暗殺者としての英才教育を受けることになる。


 ラークが、クロエと引き合わされたのは、13歳のときだった。

 クロエは12歳。


 この時まで交配は暗殺者ギルド内で行われてきた。

 しかし、ラークは暗殺者ギルドの最高傑作。

 よってギルド内の女子では、つり合いが取れなかった。


 暗殺者ギルドはギルド連合には属していないが、別のギルドと繋がりがないわけではない。

 中でも、傭兵ギルドとは時に提携する間柄だった。


 両ギルドでどういう取り決めがあったかは不明だが、双方から最高傑作を出し、子を産ませることにしたのだ。


 傭兵ギルドが出してきた最高傑作が、クロエだったわけだ。


 不思議なことに、〈傭兵〉という職業はない。

 よって傭兵ギルドには多様な職業の者たちがいる。クロエは、召喚士(サモナー)だった。

 それも世にも珍しい、悪魔を召喚できる召喚士だ。


 こうして2人は、形ばかりの婚約者となった。

 ただギルドが決めた婚約だ。暗殺者ギルドを抜けるさい、ラークが婚約破棄を申し出たのも当然なこと。

 少なくとも、ラークはそう思っていたわけだが。


 クロエは、納得していなかったようだ。


 木っ端微塵となった客間から、赤い瞳をした、白銀の髪の女が現れる。召喚士のローブを纏い、召喚杖を片手にしていた。

 クロエだ。


 クロエは歩いてはいなかった。

 巨大な漆黒の化け物の、組み合わされた両手の上に立っている。


 クロエが召喚する上位悪魔が一体、ベヒモスだ。


 悪魔を見るなり、ジェーンは失神した。修道女には刺激が強すぎたか。

 ついでにアリアも腰を抜かす。


「お、お師匠様。これは何の冗談なの? あれは魔物ではないでしょ?」


「ああ、魔物とは似て非なるもの、悪魔だ。精神体なので、物理攻撃は食らわないぞ。暗殺の仕方はあるにはあるが──暗殺者にとっては、相性の悪い敵だ。それを操る召喚士も含めてな」


 暗殺者ギルドの長タイタンは、暗殺者と召喚士、2つの職業を持つ子供を期待していたらしい。

 確かにラークとクロエならば、それも可能だったかもしれないが。


「クロエ。修道院で暴れるな。罰当たりだろ」


「そうよ。守るはずの修道院を壊して、どうするのよ」


 そう言ったアリアの非難は、ラークに向けられていた。

 クロエを呼んだラークにこそ、責任があるということか。


「あら。けどクロエという人は、どうやって一瞬でやって来たの?」


「《空間転移(ワープ)》スキルだ。これは通常スキルだが、使い手は稀だ。僕は使えん。召喚士に得意な者が多いのは、召喚と転移のシステムが似ているかららしいが」


「このわたくしを、蚊帳の外にしないでくださいますか!」


 ふいにクロエがそう怒鳴った。


 アリアが、「あ、怒った」と呟く。


「クロエ──何か怒っているようだね?」


「当たり前ですわ! ラーク──ダーリン。あなたは、わたくしの婚約者でしたのに。婚約破棄だなんて仕打ち、信じられませんわ。人非人の所業です」


 アリアが理解を示す。


「婚約破棄は、さすがにお師匠様が悪いわ。愛想をつかされて当然よ」


「あまりに頭に来ましたので、わたくしも傭兵ギルドを脱退して、あなたを追いかけてきましたのよ。占い師になったと風の噂で耳にしたので、わたくしも占い師に転職することにしましたわ。これからは占い師夫婦で頑張っていきましょう!」


「あ、愛想をつかしているどころか、お師匠様に首ったけのまま? 転職までしちゃっているのだけど。というか、ストーカー気質」


「占い師って、お前──クロエ。誰もが簡単になれる職業ではないぞ、占い師は」


 ラークが《能力透視ステータス・スキャン》したところ、クロエは占い師Eランクだった。

 Gランク占い師のラークは、絶句した。


(いや、おかしいだろ。なんでもうEランクなんだよ。導師エレノア、これは間違っていますよね?)


 アリアがラークを小突く。


「お師匠様。何か言ってあげなさいよ。元・婚約者に。向こうは婚約破棄を受け入れてないようよ」


「……占い師に転職するなら、おめでとう。これからは仲間だな」


 クロエは悪魔から飛び降り、ラークのもとまで駆けて、抱き着いた。


「占い師夫婦ですわね!」


「いや、誰も夫婦になるとは──婚約破棄の意味、分かってるか?」


「2人の愛を高める障害だけれど、最後には乗り越えるものなのですわよね?」


 ラークは絶望的につぶやいた。


「分かってないだろ」





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