001 占い師だが、殺人マシーン。
ラークは意気揚々と街道を歩いていた。
ついに天職に就くときが来たのだ。
占い師という天職に。
そもそも前の職業は、ラークには向いてなかった。幼少から訓練を積んで、手に職つけたのは悪いことではない。
しかし、人生は短い。好きなことをして生きるべきだ。
後ろから猛スピードで馬車が走ってきた。ラークは一歩横に退く。
そのさい、馬車から「助けて!」という少女の声がした。
ラークは頭をかいた。元の職業ならともかく、占い師ならば、無視できない。
馬車は速度を落とさず、500メートルほど先にある町へと入っていった。ラークが目指していた町でもある。
数分遅れて、ラークも町に入った。通りすがりの町民に、先ほどの馬車の行方を聞くことにする。
「轢かれそうになりましてね、ひとこと文句を言ってやろうかと」
すると町民は慌てた様子で言った。
「やめておいたほうがいいぜ、旅の方。さっきの馬車には家紋があったろ。あれは領主様の馬車だ」
領主館は町の中央にあるそうだ。ラークは礼を言ってから、商売道具を取り出す。収納スキルで異空間にしまっていたものだ。
さっそく道端に広げたのは、占いのための一式。
といっても、テーブルとイス二脚。
そして、導師エレノアから下賜された水晶玉だけだが。
「未来を占いますよ!」
張り切って店を広げだが、町民は誰一人、見向きもしない。
やはり占いのような仕事は、城郭都市クラスでないと商売にならないか。
ラークが落ち込んでいると、領主の私兵がやってきた。
「占いますか?」
「貴様、こんなところで誰の許可を得て商売をしている?」
「許可と言われても困りますが──占いますよ?」
どうやら領主に無許可で商売するのは、違反らしい。私兵たちによって取り押さえられたラークは、水晶玉も没収され、領主館の地下牢に放り込まれてしまった。
ラークは腕組みして考える。
「占い師を尊重しないとは、酷い領主だ」
見張りがいないのをいいことに、ラークは地下牢を出た。
鉄格子を、《刃化》発動の手刀で叩き切って。
以前の職業で会得したスキルが、こんなところで役に立つとは。
ついでラークは、《存在感知》を発動。人々の位置や特徴を識別するスキルだ。
《存在感知》の範囲を拡大していき、ついには領主館全体まで広げる。
ラークは少女のいる位置を特定し、さっそく向かった。
それは二階の一室であり、巡回中の私兵は回避して進む。
ただ残念なことに、少女が監禁されている部屋の前には、見張りがいた。
「どうも失礼」
「なんだ貴様──!」
ラークは手近にあった壺を取り上げ、私兵の頭部へと叩きつけた。
頭を強打した私兵は、すっかり伸びた。
ラークは私兵の腰から鍵を取って、ドアを開ける。
室内からは血の匂いがした。
少女は檻の中に閉じ込められていた。
その傍には拷問道具がおいてある。これが領主の趣味らしい。攫ってきた若い娘を拷問して楽しみのが。
ラークは檻のドアも開けて、中で震えている少女に声をかけた。
「心配しなくていい。助けに来たよ」
赤銅色の髪をした少女は涙目で言う。
「あなたは?」
「通りすがりの占い師」
「あたしのことも占いで知って、助けに来てくれたの?」
「……ふむ」
問われてみると、ここまで占いが活躍した場面はない。
実のところ、ラークはGランク判定を受けた占い師だ。Gランクとは、最底辺である。
「とにかく、逃げよう」
檻から出た少女は、恐ろしそうに拷問道具を見やる。
「領主様は、あの道具であたしのことを──?」
「だろうね」
聞くと、少女は近隣の村に住んでいるらしい。朝、水汲みに行くとき、領主の私兵に攫われたとのことだ。
とたん室内に私兵たちが雪崩れ込んできた。
そして最後に現れたのが、肥え肥った男。これが領主らしい。ニヤニヤ笑っているのは、自分の優位を確信しているからだろう。
「馬鹿め、逃げられると思ったか、この平民の豚どもが」
豚という形容がふさわしいのは、領主のほうだが。
少女を見て、領主は舌なめずりする。
「生きのよさそうな娘だな。まず眼球をえぐり取ってやろう。いや、それよりも乳房を切り落とすのが先か」
ラークは私兵たちに訴えた。
「おい、こんな領主をのさばらしていいのか? 悪税を課すとかならともかく、領民の少女を拷問するなんて。さすがに止めろよな」
しかし、私兵たちに止める気はないようだ。よほど給与がいいのだろう。
少女が絶望した様子で、へたり込んでしまった。
ラークは溜息をついた。
「やれやれ。せっかく転職したというのに──」
瞬間、ラークはユニークスキル《時間緩慢》を発動。
世界の時の流れが緩やかになる。
その中で例外として、通常の速度で動けるのが、ラークだ。
《時間緩慢》とは、誰にも真似できない、ラークだけのスキル。
ラークは少女を抱えて、私兵たちの間を縫うようにして進む。
そのさい、私兵たちの頸を手刀で切っていく。
部屋から出たところで、《時間緩慢》を解除。
とたん、私兵たちは血を噴き出しながら倒れた。
唯一生き残った領主が、悲鳴を上げる。
ラークは領主の頭部へ、人差し指を向けた。
「地獄の炎で焼かれたら、少しは反省するだろう。バン」
とたん、領主の頭が吹き飛んだ。
その後、ラークは領主館の宝物庫から、水晶玉を無事に回収。
「良かった。紛失したら大変なところだった」
少女は茫然としていたが、ようやく言葉を発した。
「あ、あなたは一体──どうして占い師が、あんなに簡単に人を殺せるのよ!」
「以前の職業のせいだろうね。僕には向いていない仕事だった。いや、才能はあったんだが──楽しくなかったんだ。生きがいではなかったのさ」
「まって、以前の職業って?」
ラークは肩をすくめた。
「SSSランク暗殺者」




