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幼馴染みの憂鬱  作者: なぬか
始まり
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始まり



 「・・・・僕の、オトモダチになって?」

 

 今思えば、これが始まりだった。

 その頃、雪乃には弟が産まれたばかりで、五歳児ながらも「お姉ちゃん」という自覚と謎の自信。そして自分よりも小さい子には優しくするという、使命感に道満ち溢れていた。

 だから、いつも教室の隅でみんなから離れて一人で遊ぶ男の子に声をかけてみた。

 「ねぇ、何してるの?」

 突然降ってきた明るい声に、男の子は一瞬ビクっと肩を震わせた。

 恐る恐る顔を上げる。

 気の強そうな雪乃の吊りがちな瞳とかち合って、すぐに顔を背けてしまった。

 「みんなお外遊びしてるよ?」

 「一緒に行こうよ」

 そんな男の子の態度に気分を害する事なく雪乃は声をかけ続け、男の子の腕を掴んだ。

 「わっ!?」

 いきなり腕を捕まれ驚いて、思わず雪乃の手を振り払ってしまった。

 「・・・・あ・・・あの」

 すぐに謝ろうとするも、声がつっかかって出てこない。

 男の子は、次にくるであろう雪乃の態度や言葉を覚悟して、ぎゅっと両手で園指定のスモックの裾を握りしめてうつむいた。

 一方雪乃は振り払われた手をまじまじと見つめている。

 しかし視界の端に何かが映ると、感嘆の声を上げた。

 「うわぁ、すっごーい!これ春斗くんが描いたの?」

 「・・・・え?」

 何を言われたのかわからずに困惑していると、雪乃はパッと机の上にあった落書き帳を手にとった。

 「あ!」

 そこにはクレヨンを目一杯使って描かれた虹と空の絵。

 色とりどりの紫陽花の葉っぱの上にはいつくつもの雫が散らばっていて、雨上がりの空を表しているのだとわかった。

 「絵、上手なんだね!」

 尊敬の眼差しを向けられ、男の子は恥ずかしくなってさらにうつ向いてしまった。

 「ねぇ、一緒にお絵描きしよう!私も春斗くんみたいに上手に描きたい!」

 春斗の返事も待たずに、雪乃はお道具箱から落書き帳とクレヨンを引っ張り出すと、春斗の隣に座った。

 「えっと・・・・」

 「早く!教えて」

 いささか強引な雪乃に気圧されつつ春斗は頷いた。

 家が近いという事もあって、この後二人の仲は深まっていく。

 園にいる時も帰宅した後も、互いの家を行き来して家族ぐるみの付き合いに発展していった。

 あれは、いつだったっか。

 春斗の家の庭で遊んでいた時だ。

 「出来た!」

 庭の地面に枝で何か書いていた春斗が叫んだ。

 「雪ちゃん、こっち。この中に入って」

 「なぁに?」

 腕を引かれた雪乃は、春斗がたった今書き上げた円の中に入る。

 「今からオマジナイをするよ」

 春斗も円の中に入ると、雪乃と向き合った。

 「おまじない?」

 「うん!」

 訝しむ雪乃に対して、春斗は満面の笑みで頷いた。

 「これはね、僕と雪ちゃんがずーっとずーっと一緒にいられるオマジナイなんだよ!」

 どこか自慢気に話す春斗に、雪乃の目が輝く。

 「本当に!すごい!ねぇねぇどうやるの!?」

 「僕の質問に雪ちゃんがうんって言ってくれるだけでいいんだよ」

 「・・・・・・・・それだけ?」

 「そう、それだけで僕と雪ちゃんはもっともーっと仲良くなれるんだ!」

 ガリガリと枝で円と書き込まれていた記号のようなモノをなぞる。

 書き忘れや消えてしまっているところはないかを入念に確認。

 「よし!じゃあいくよ」

 持っていた枝を放り捨てて、春斗は胸の前でパンっと両手を合わせた。

 「雪ちゃんも僕のマネをして」

 「う、うん!」

 慌てて雪乃も胸の前で手を合わせる。

 すると二人の足元が光だした。

 「すごい!きれい!?」

 「雪ちゃん」

 突如吹き出した光の中ではしゃぐ雪乃を、春斗が優しく制する。

 視線を春斗へと戻す。

 目があったところで、春斗がゆっくりと口を開いた。

 「雪ちゃん、僕の━になって」

 その言葉に、雪乃は一瞬目を見開き瞬きを繰り返したが、

 「うん」

 と、満面の笑みで応えた。


 多分、これが全ての始まり━だったんだ━と思う。

 


 

 


 

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