されど再び
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「―――……気付きましたか?」
「……はっ!?……お、お前!……確か、ホクシンとか言ってた!?」
「ええ。名前など、何の意味も持ちませんが」
「……って、まさか、あの頭痛で、俺はまた死んじまったのか!?」
「いいえ」
「じゃあ、何で俺はお前と会ってるんだよ!」
「これは、貴方の夢ですから」
「……は?」
「ですから、これは貴方の夢です」
「俺は別にお前の夢なんか見たくねーよ!」
「そうですか。……では、私は帰ります」
「……え?」
「それでは」
「い、いや!ちょっと待って!」
「……何ですか?」
「帰りますって、アンタが俺の所に会いに来たって事か?」
「貴方は、変な所で察しが良いですね」
「つまり、これは俺の夢だけど、その夢の中でお前は俺に会いに来たと?」
「そう言う事です」
「じゃあ、何か用があったんじゃねーのかよ?」
「いえ、大した用ではありませんので。……それでは」
「いーやいやいや、ちょっと待とう!」
「私の夢など見たくないのでは?」
「いや、何か用があったなら、小さな事でも聞くだけ聞いてみようかと思って……」
「いえ、本当に些細な事過ぎて、お耳に入れる程の事でもない用なので、私はこれで」
「えぇーっ!?い、いやぁ!な、なんか、ホクシンさんの声が聞きたかった所だったんですよ!!」
「何度も言うようですが、貴方は先程、私の夢など……」
「なーにを仰ってるのかなぁ!!?僕がそんな事言うワケ無いじゃないですか!!何かの間違いですよ!!……そ、そうそう!“貴方の夢”と言うのは、貴方が眠った時に見る貴方が見た夢の事で、貴方が見た夢など、僕は見たくないと言っただけです!!貴方の事を、僕の夢の中で見たくないとは言ってないですよ!!ええ!!」
「情けない人間ですね。そんな誤魔化さなくても、私には貴方の思考から感情まで、具に感じ取る事が出来るのですから、そんな下手な嘘をついてもバレバレなんですよ」
「……え゛!!?」
「……でも、まあ、貴方も今は心底私の用件が気になっている様ですから、お伝えしましょう」
「……えっ!?マジ!?……良かったぁ!……気になって眠れなくなるところだった……」
「既に寝てますけどね。ここは貴方の夢の中なので」
「あー!アハハ……ハ、……そうでしたね」
「まぁ、本当に大した用ではなかったのですが、貴方が眠りにつく前に起きた激しい頭痛は、元々、貴方の体で生きていた方の記憶が貴方と結合したために起きた頭痛なんです」
「……いきなり本題か。つくづく愛想がねぇな」
「……何か言いましたか?」
「いいえ!言ってません!続きをお願いします!」
「……ふぅ。やれやれ。……まぁいいでしょう。それで、貴方はその体の元の持ち主が気絶して、意識と体の結合が弱まった時を見計らって、貴方の意識を体に入れたので、今朝までは元の体の持ち主の意識が無い為に、その体を貴方が自由に動かす事が出来たのです」
「なんか、小難しい話になってきたな」
「そして、一夜明け、元の持ち主の命に別状がなく、元の持ち主が目覚めた時、その意識も覚醒し、貴方の意識とぶつかり合って、今朝の様な頭痛が引き起こされました。つまり、今、貴方が使っている体には、貴方と体の元の持ち主が、共に頭の中に居る状態だという事」
「なに!?つまりはあれか!?多重人格的なヤツか!?」
「貴方は本当に、変な所で察しが良い。しかし、あなた方は安心して下さい。貴方の体は、貴方の生命に極限まで相性の良い体を宛がいました。ですので、元の持ち主である彼の意識と貴方の意識は、程なくして完全に融合します。そして、これまでの記憶を共有し、記憶の中でだけ二つの人生を歩んできた事が残るだけで、これからの事は一人の人間として、互いの性格を融和させて生きていく事になり、感情や思いも、彼のものと貴方のものが一つの意思に基づき活きる事になります。だから、互いの命は一つになり、共に死なずに一つの命として生きていく事が出来ます」
「………やっぱり難し過ぎてよく解らんな」
「但し、二人の記憶、二人の感情や思考、思いが一つに融和するので、貴方も彼も、足して二で割った様に、これまでとは性格等が変わります。これまでの彼でもない、貴方でもない性格となり、新しいあなた方として生きていき、その生を全うしてもらいます。良いですね?」
「あ、ああ。なんか良く解らんが、要は記憶が二人分に増えて、経験も増えた俺が、それらをふまえて生きていく事に変わりはないんだろ?」
「平たく言えば、そう言う事です」
「なら、何も問題無ぇんじゃねぇ?」
「そうです。ですから、大した用ではないと最初に申し上げたではないですか」
「そうみたいだな。これが元居た世界で、急にそんな事になったら、人間性が変わっちまって周りのヤツらに変な目で見られる様になったりして、それまでの友人関係も壊れたりしかねないけど……って、え?」
「当然、そうなりますね」
「いや、そしたら、元々この世界で生きていたソウにとっては、その周りのヤツらがソウの変化に違和感を抱くだろ!?」
「……ふう。貴方は、本当に変な所で察しが良い。でも、今回のは面倒な所ですね」
「な、何だよそれ!面倒って……!!」
「確かに、貴方の言う通りです。そして、貴方がこの後目を覚まし、皆の前で記憶が戻った事を報せたら、彼らは貴方の変化に遅かれ早かれ気付くでしょう。でも、それが何だと言うのです?命がある事に変わりは無いのですよ?」
「だから!なんでお前はそうやって人の心を平気で無視できんだ!!人の心は尊いもんだ!!色んな事に色んな思いを馳せて、時に悲しみ、時に喜び、大きな壁にぶつかったり、願いが叶わなかったり、色んな苦しみを受けながら、それでも希望を胸に生きていく、儚いものなんだ!!人が悩んで苦しんで、それでも前向きに頑張って、時に嬉しいと思える事をバネにして苦労してる人間の生き様を、お前は何だと思っていやがるんだ!!」
「やはり、思った通り面倒な事になりました」
「なに!?」
「では、貴方は元々ご自身の不注意で自ら命を落としているのですから、そのままお亡くなりになってください」
「……は!?」
「ですから、貴方はそもそも死んでるんです。それを、わざわざ生き返らせてあげたのですが、それが不服なら、そのまま死んでくださって結構ですよ」
「……なっ!!」
「どうしますか?」
「………」
「ほら、貴方が何と言おうと、人として生きていて初めてその人の思いや苦労が実るもの。命の在る無し以前に貴方の主張など通りませんよ。私も神の端くれですから、貴方の言わんとしている事は良く存じているつもりです。ですが、貴方はその生に誇れるものを何も成し遂げていないではないですか。そんな人間が、生以前に人の心を語っても、何も響きはしない。人の心と言うのは、それだけの事を成し遂げて初めて、その言葉の重みに命が宿るのです。貴方が人の心を語るなら、それだけの事を成し遂げて見せてください。そして、生の尊さを、命の宿った重みで語って下さい。それができないうちは、貴方の言葉は薄っぺらいただの戯言です」
「………」
「先程までの威勢はなくなりましたね。その素直さだけは、私は貴方を評価しています。ですからこうして、貴方を転生させたのです。その目で、曇り無く全てを見つめ、貴方なりの生を全うしてください。それが、何より貴方自身の命を磨く事に繋がるでしょう」
「……」
「さあ、そろそろ目覚めの時間です。もう、貴方に会う事は無いでしょうけど、これからの貴方の生き様は、私が常に見守っています。時には辛い選択を迫られる事もあるでしょう。それも貴方の新しい人生。見事生き抜いて下さい」
「……」
「それでは……」
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