されど逃れて
「なっ!?なんだっ!!お前達っ!?」
「どうやって出た!?」
「ゥオリャアアァァーーッ!!」
「……シッ!!」
「ぐわっ!!」
「ぐふっ!!」
「ドォリャアアァァァーーッ!!」
「……フッ!!」
「ぐえっ―――!!」
「ぐおっ―――!!」
「「―――ガッハッ!!」」
「……ふう」
「……ふう。じゃないよ、ソウ。あまり大きい声を出すなって」
「あ、ゴメン。なんか、気合い入れなきゃパンピの俺には兵隊相手に勝てないって思ったら、つい叫んでたわ」
「まあ、ここは離れの地下だから、多少は大丈夫だと思うけど。……パンピの意味がわからん」
「え?ここって、地下なのか?」
「おいおい、下調べの内容は忘れたとしても、さっき連れてこられた時、お前は何を見てたんだよ。コイツら目隠しもしないで牢屋に連れてきたんだから、幾らでも経路を見れただろ?」
「ゴメン、混乱してて周り見る余裕無かったわ」
「……ったく、お前にしては珍しいな。これも記憶喪失の影響か。……ソウ、思い出せ。建物に入って階段を降りただろ?……ほら、あそこの」
「ああ、そーいえば!……でも、牢屋の小窓からは夜空が見えてたぜ?」
「地下の牢屋はジャンプしたくらいじゃ届かない様に、普通の部屋よりも天井が高く作られてて、その高くした分が地上より上にあるんだ。そして、あの小窓はその地上より上の部分に作られてるんだよ。つまり、牢屋の中から見た小窓は天井近くの高い位置にあるが、外から見たら建物の外壁の下の方にあるのさ」
「……ごめん、よく解んないけど、まあ、そんな事はどうでも良い。とりあえず先を急ごう」
「……くぅーっ!お前に説明してやったんだろ!……まぁいい。お前の言うことも尤もだ。ここから先は、建物の扉を思いっきり開けて、でかい音をわざと出せば、俺達の仲間がそれを合図に爆弾とかを裏口に投げ込んで、撹乱してくれる」
「俺達はその混乱に乗じて逃げれば良いんだな?」
「そう言う事だ。その前に、そこにある俺達の武器を返してもらおう」
「そうだな!」
「……よし!ソウの方は大丈夫か?」
「ああ」
「じゃあ、せーので行くぞ!いいな!?」
「了解!」
「「せーのっ!!!」」
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「―――しっかし、上手く逃げ切ったなぁ!!」
「ああ!カイの爆弾が良い陽動になったからな!」
「そうそう!で、あの後、集まった敵兵をトウが一人で五人も倒して、ヤツらの気を上手く引き付けたのよね!」
「いや!オデの五人倒しより、リツの煙幕と罠の撹乱は最高だった!殺しはしなくても、オデ達の逃げ道も確保出来たし、何人の敵があれで足止めされたか!」
「あたしだけ女だからって、足手まといにはなりたくないからね!でもさぁ、ソウとケンがまさか捕まるとは思わなかったよーっ」
「ああ。ホントすまない。皆には余計な心配かけたな」
「いや、まー無事だったから良かったけどよ!」
「だけど、オデ達の調べじゃ、コウエンの屋敷なんか私設兵も少ないし、いつもよりは楽な仕事だったはずだろ!?」
「そうだよ!……それで?ソウが記憶喪失ってのは、ホントかよ?」
「……」
「ああ。本当だ。塀を乗り越えた時の着地に失敗して、庭石に頭をぶつけたんだ。一旦は庭木の茂みに隠れたんだが、コイツが目を覚ました途端に大きなくしゃみをしやがって、敵に見つかっちまった」
「でも、五人や十人なら、ケン一人でも倒せたんじゃない?丸腰じゃなかったんだし」
「かもしれないが、ソウがあれだけ錯乱してたら、その後の事が心配になってな。やれる仕事も、あれじゃやれないと判断したんだ。そうなると、あそこで抗って騒ぎを大きくしたら、捕まった時に強盗として即斬首されてもおかしくない。だから、あえて大人しく捕まれば、少なくとも罪は侵入だけになるから、すぐに殺される事は免れると思ったのさ」
「咄嗟の判断ってヤツね」
「それに、お前達を信じていたから、安心して捕まって居られた」
「おーおー、さすが、副リーダーの器ってか!?」
「……確かに、ケンは捕まった時、落ち着いていたよな」
「「「喋った!?」」」
「そりゃ喋るだろ!記憶喪失ったって、別に喋れなくなるワケじゃねーからな」
「……あ!そーよねー!」
「あー!そーかそーか!」
「……何か、俺、バカにされてない?」
「いや、ソウ、コイツらは単にアホなだけだ」
「いやいやいやいや!ケンの俺らの扱いヒデーから!!」
「あたし!アホじゃないから!」
「自分で力強く弁解するのもどーだかなー?」
「何よーっ!カイなんて、あたしよりアホじゃない!」
「は?何言ってんの!?俺よりトウだろ!?」
「オデはアホじゃないぞ!?バカなだけだ!」
「「「「……自分で言ってる……」」」」
「……ま、まー、それを言ったら皆バカよねー!」
「じゃなかったら、俺達、こんな危ねぇ道を選んだりしねーよな!」
「「「違いない!!」」」
「ハハハ!」
「楽しいだろ?コイツらはいつもこんな感じだ」
「ああ。何か、俺の記憶にあった仲間達も、こんな感じでバカやってたなーとか思っちまった」
「あー、変に記憶が結合して、違う記憶になった過去の事か」
「ああ。……まぁ、な……」
「……ソウ、大丈夫?」
「あ、リツ……だっけ?」
「うん。本当に記憶喪失になっちゃったんだね」
「まぁ、そんな感じだな」
「おいおい!そこーっ!二人の世界作ってんじゃねーぞぉ!?」
「何よ!!カイだけは会話に入れてあげないから!」
「カイを会話に入れない……?カイを、カイ輪に入れない?……プッ!ウマイなぁ、リツは!」
「トウ!ダジャレじゃないから!」
「アッハッハッハ!ホント、面白いなぁお前ら!!」
「「「笑った!!」」」
「そりゃ笑うだろ!つか、さっきも笑っただろ!記憶喪失を何だと思ってんだ!?」
「「「「アハハハッ!」」」」
「……さ!もーそろそろ寝よう!明日、起きてからまた次の計画でも皆で練ろうよ」
「そうだな!」
「んだば、オデは部屋に戻るべー」
「俺も!じゃあな!」
「カイは明日、ご飯係だからねー」
「わーってるよ!じゃあな!」
「「「お休みー!」」」
「ああ、お休み!」
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「……う、う~……ん。……眩しっ!……ふぅ、朝、かぁ」
「ソーウ、ご飯だよー!」
「下からリツが呼んでる。……早ぇな。……ああー!今起きたから、支度したら行く!」
「はーい!」
「朝から元気だなぁ。って、今日のご飯係はカイとか言ってなかったか?何でリツが……ぁあっ!!……くっ!!頭痛がぁっ!!!」
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「…………っくっ!!はぁっ!はぁっ!……っぐあぁぁぁっ!!……わ、割れる!頭が!割れ、割れるぅぅあぁぁっ!!!」
「……おい!どうした!?」
「ぐ、ぎぃああぁぁぁっ!頭が、痛い!!……くあっ!?……ああっ!!?」
「おい!ソウ!大丈夫か!?」
「なになに!?ケン、どうしたの!?」
「なんだ!?何があった!?」
「カイ!ソウが、頭が痛いって!!」
「ぅぐあっがああぁぁぁーーっ!!」
「おい!マジで大丈夫かよ!!」
「医者か何か呼んでくるか!?」
「バカか!?そんな金どこにあるんだ!!」
「金の問題より、ソウが苦しそう!!」
「……ふうっ!!ふうっ!!いや!俺はっ!!……だ、大丈夫!!何か、記憶が流れ込んでくるっ!!ぐああぁぁーーっ!!………――――――」
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