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3話 揺れる機内の中で

 操縦に夢中になるあまり道を違える事数回。

 中天にあった太陽は徐々に下がり始めていた。

「ここまで来れば拠点は目の前よ」

「スマン。俺の目が悪いのかもしれないが、目の前には森しかみえないんだが」

 眼前に広がるのは木々の群れ。

 全高10メートル程の高さに備え付けられたメインカメラからの景色には青々と繁る緑しか見えなかった。

 何かしらの隠蔽が施されているのかと考えたが、女神が否定した。

「違う違う。私達が目指すものは下よ下、地面にあるわ。少し判り難い場所にあるから操縦権を借りるわよ」

 未だPDAの中に閉じ込められている状態だが、PDAが操縦席に接続していれば可能であった。

 森には入らず、その外周に沿って歩く。

「確かこの辺りに……在った!」

 女神が声を上げたかと思えば、それが目に入った。

「……えーっとアレだ、“ストーンヘンジ”だ」

 それを一目見て思い浮かんだのはイギリスにある世界遺産だ。

 直径20メートル程の円状に広がる石畳、その外周には一定間隔で石柱が伸びていた。

 石畳の中心には青い宝石が埋め込まれ、宝石を囲むように幾何学模様が刻まれていた。

転送装置(ポータル)よ。この上に乗れば拠点まで移動できるのよ」

「まるでファンタジーだな。いや、こうして巨大ロボが存在してるし、どっちかと言えばSFの方か?」

 テレポートやワープに類するものは創作作品に置いて多岐に渡る。

 呪文一つで行使するファンタジー作品があれば、巨大な装置によって惑星間航行をおこなうSF作品もある。

 そんな人類の夢であり浪漫である転送技術が目の前に存在していた。

「転送装置って事は、拠点自体は遠くにあるんだな」

「ええそうよ」

 刻まれた文様や形式は細かく、地球で発見されたのなら一種の文化遺産として扱われそうだ。

 そんな思いも関係なく、機体は無造作に中央へ立つ。

「これで少し待てば拠点に転送されるわ」

「コレは中々神秘的だな」

 重量感知なのかは知らないが、宝石が輝く。

 輝きはそれで収まらず、紋様を通して石柱の紋様までもが青く光りだす。

 日中でも十分に視認可能なその輝きは、夜間に見れば幻想的な光景になるだろう。

「しかし、直ぐに転送される訳じゃないんだな」

「順番待ちよ。この装置を使うのは私達だけじゃないからね。転送の競合による事故を防ぐための決まりよ。出先は幾つでも設置できるけれど、拠点に置ける数はどうしても限られるからね。それと拠点周りは混んでるから、暫くは操縦権を貰うわよ」

「そういう理由があるなら仕方ないか。操縦権は任せる、流石に右も左も分からない土地なら地元住まいに任せるわ」

 そんな会話を交わしていると、幾何学模様が淡く点滅を始めた。

「そろそろ順番ね」

 女神からの転送が間近という宣告に思わず体に力が入る。

 未知の体験への緊張だ。

「こうして“テレポーテーション”を実体験できるとはな。そういえば、拠点ってどんな場所なんだ?」

「え? ああ、それならアレよ」

 女神がPDAの中から一点を指差す。

 意外と目視できる場所にあるのかと思ったが、

「あのな……青空と惑星? しか見えないんだが」

 地球で言うならば真昼に見える月、だろうか。

 月ほどに近いわけではないだろうが、日中でありながらもその存在を主張できる程の大きさだ。

「アレに私達の拠点が在るわ」

「は? それってまさか――」

 疑問を告げる間も無く、モニターは青い光に包まれる。

 人生初となる瞬間移動は星間移動を兼ねたものだった。


          ●


 モニター越しとはいえ、想像以上の光量に目が眩む。

『転送が完了しました。足元に気をつけて転送装置から降りてください』

「分かったわ、ありがとう」

 男の声と女神のやり取りが聞こえる。

 どうやら無事に着いたらしい。

 しょぼしょぼする目を押さえていると、機体が歩く振動を感じた。

「どうしたの? ――って魔力に酔ったのね」

「どうゆうことだ?」

 中々視界が戻らないどころか、眩暈と頭痛も感じる。

「転送には魔力を使用するわ。そして、その症状は魔力に対する耐性が足りないと起きるのよ。経験すればある程度の耐性は付くから、次からはマシになるわよ。後2、3回も経験すれば気にもならなくなるでしょうね」

 響く頭を抑える。

 幸いにも操縦席はリクライニングシートであったので、限界まで倒してシートにもたれ掛かる。

「目が回る……」

 余りの苦しみに神頼みしそうだ。

 だが、幾ら祈ろうが目の前に居る女神ではこの苦しみを和らげられそうにない。

「酷い時の二日酔い並みにキッツイ……」

 苦しくはあるが、どこか懐かしい苦痛にふと思う。

 ……二日酔いの感覚? なんで俺はそんな事知ってるんだ?

 まだティーンエイジャーだった筈だ。

 一番新しい記憶は高校最後のロボット大会で……。

「――()ぅっ」

 一際大きな痛みが頭に響く。

 これは本気で駄目なものだ。

「あらあら、大分参っているわね。……しょうがない、多少揺れるけれど拠点に急ぐとしましょうか」

 先程よりも少し増した揺れの中、呻くことしかできなかった。

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