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第82話

両手に魔力を集め水球を作り出しいつでも投げれる体制を確保する。

 


 ん?

 今不自然に木の葉が揺れたか。


 ちょうどあっちは風下、匂いは頼りにならないが五感を使って気配を探る。


 二人……いや三人か?


 飛び出してきた瞬間を狙ってやるさっ!!





 ――今だ!


 水球を投げつけると同時に飛び出し、投げた水球に(気持ちは)追いつかんばかりの勢いで突進接敵。

 狙い通り飛び出してきた相手に水球が命中しそうな時、もう一つの影が飛び出してくる。強化腕(パワーアーム)で強化された拳の狙いはもう一つの影へと変更し殴りつけ――


「きゃぁああああ」

「あ~れ~?」


 そこに現れたのはよく知る顔、シェリーさんとヤマトだった。

 慌てて拳を止める、が止まらない。それでも衝撃を極力与えないように全力で腕を引く。

 

 シェリーさんは飛び出た瞬間に水球で攻撃され驚いた表情ではあったものの、すぐに防御姿勢を取りパァァンという音と共に弾けた。咄嗟の判断は竜人族の力か経験がそれをさせたのかは分からないが、特にケガもなく無事だったのは竜人族の強靭な肉体のおかげなんだろう。シェリーさんは上手い事防御出来たようだ。



 そして俺の拳はヤマトにヒット。



 途中で止めたとはいえそれなりに威力のある一撃だったはずだが、ヤマトは何が起こったのか分からない間の衝撃に目を閉じ全身に力を入れて耐えているのだろう。

 が、そんな事とは関係なく防具の一部がエアバックのように変形し衝撃を吸収していたのでこちらもどうやら無事だったようだ。




「おい犬ころっ! どういうつもりだ!?」


 すぐ後ろから喧しいヤツが現れ俺に文句を言う。


「静かにしろよ! 敵が近くにいるかもしれないんだ」


 これだから非戦闘員は。

 状況を考えず文句だけは言ってくるんだ。


「誤魔化すな、貴様は今ヤマトお嬢様を殴ったんだぞ! この場で自害して責任を取れ!」


 自害するわけないだろ!



「2人ともすまん、大丈夫か?」


「僕は大丈夫です」

「ちょっと驚いたけど~、私も大丈夫よ~。それよりも……」


 シェリーさんが怪訝に俺を見ているが、言葉とは裏腹に怒ってるのだろうか。だってシェリーさんたちだと思わなかったんだもん。



「また操られて~……というわけではなさそうね~」



「おい犬! またとはどういう事だ? 貴様まさか過去にもお嬢様に乱暴を働いたのではあるまいな!?」

 今回は俺に非があるとはいえ、こいつに言われる筋合いはない!激おこぷんぷん丸してるがこいつがどう思おうと関係ないさ。




「僕は大丈夫だからちょっと落ちついて!」


 怒り爆発しているのかお嬢様呼びに戻ってしまっているヴァングルは邪魔でしかないが、ヤマトが抑えてくれているので脳内俺会議で放置することが決定した。




「それよりも~、どういう状況かしら~?」


「賊らしきものを見つけたんだ。二人は捕らえたんだが他にも仲間がいるらしくて、捕らえた一人を殺された。もう一人の拘束しているヤツを守りながら他の賊を探しているんだ。サラは周辺を捜索中で俺は見張りってわけだ」


 俺の話を聞いたシェリーさんが周囲を観察する。


「捕らえた賊はどこに~?」


「あそこの木の根元、土壁の裏だ」


 俺の話を聞いたシェリーさんは周囲を警戒しつつ土壁を回り込んだ。そして土壁の裏にいる拘束した賊を見たのだろうが難しい顔になり俺を手招きする。


 何かあったのかとシェリーさんのそばへ行くとそこには、いるはずの拘束された賊が消えていた。




「なんで!?」


 確かに死んではいなかったが簡単に動けるような状態でもなかったはずだ。周りを見渡してみるがどこにもいない。


 おかしい。


 明らかにおかしいことは確定的だ。



 何故ならば、もう一人のすでに死亡したはずの賊の姿も見当たらない。どういうことだ!?

 ナイフが確実に心臓に突き刺さっていたし、仮に心臓に命中していなかったとしても尋常じゃない出血量だったはずだ。


 現に今も、大量の血痕は残されているのだから。



「死体も消えている……」



「これだけの血痕があるから~、ゲンスイ君が嘘を言っている訳ではないと思うのだけど~」

 そう言いながらも血痕やその周囲をくまなく調べ始めるシェリーさん。



「これだから獣人はダメなんだ。倒したつもりになっていただけで実は生きていたんだろう。もしくは、生きていたヤツをちゃんと拘束してなかったんだろう。そいつが死体を連れて逃げたんだよ」


 その場にいなかったから推論だけで言いたい放題言いやがって。こいつホント俺に対する時とヤマトに対する時のギャップがきもい。



「ちゃんと拘束したし!」


 何か言い返さないと悔しいのでつい声に出してしまったが、結果が変わるわけでもないのも分かっている。ちくしょう。



「これ~、どうも人の血じゃないわね~」


 死体のあった場所に残っている血痕を調べていたシェリーさんが声を上げた。



「どういうこと?」


 そう、どういうことでせう?



「この血糊はおそらく~、動物のものね~。死んだフリをしていたのじゃないかしら~。そして隙を見て拘束していた仲間を回収して逃げたんじゃないかしら~?」


「となると、そう遠くには逃げてないだろ。探してくる!」


 俺はとりあえず周囲を伺い、走り出そうとした。



「ちょっと待って!」


 ヤマトは俺の手を咄嗟に握って駆け出すのを止められたんだ。




「なんだ?」


 急がないと敵が逃げちゃうよ~!?


 焦る俺は上半身はそのままに、下半身だけでその場駆け足をして急いでるアピールが続く。



「ちょっとおかしいと思うんだ。ただの賊が血糊付き投げナイフで殺したフリをしたりするかな?」


「そうね~、それにただの賊がアダマンタイトがある事を知っていたのも気になるわね~」



 うーん、確かにそう言われればおかしいような気がする。




「組織的過ぎるしちょっと注意が必要だと思うよ」



「さすがヤマト殿。聡明でいらっしゃる!」

 ヤマトの発言には無条件で肯定的に受け止めるヴァングル。まるで自分の発言かのように得意気な顔になってやがる。


 もう、こいつなんなの!

 ヤマトに対してだけこの調子なんだから。



「そうね~、ここで私達が逸れるのは得策じゃないわね~。周囲を警戒しながら皆で動きましょう~」



 うん、そうだ……な。



 よし、そうしよう。



「よし、じゃあ皆で索敵しながら移動しよう」


 

 こうして俺、シェリーさん、ヤマト、ヴァングルのボケの4人で動くことした。


 周辺を捜索しているとすぐにサラが戻って来た。



「ごめんなさい、逃げられたわ」


 申し訳なさそうな表情とは裏腹に、サラの肩には一人の気絶した賊を抱えていた。

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