第61話
ガトーさんのラジオで紹介された小説はこちらです!
https://youtu.be/b7qwr4ACCFU
「それではこちらでごゆるりと」
そういって客間に通され、お茶を出してくれたメイドと共に下がっていった。
「なんとなく坊ちゃんじゃないかと予想していたがこれまた随分な屋敷だ。この応接間っぽい部屋だけで俺の家程の広さがあるぞ。あの子どんだけ金持ちんとこの子なんだよ」
「ヤマト君、普段は口下手っぽい感じだったものね」
「人それぞれ事情があるんでしょうね~」
なんて豪邸やヤマト君の事を話していると、部屋にノックが響いた。
そして入って来たのはヤマト君ともう一人、美人さん。
無意識化で美人に反応した俺が猛然と近づこうとしたが……
「ぐぇ」
身体は前方へと移動しようとしたのに俺の服は前へ行かず、結果俺の首が締りその場に崩れ落ちた。
「想定内よ」
「流石サラちゃんね~、ゲンスイ君の動きを読み切ってるわね~」
どうやら俺の服を掴み行動不能にした原因はサラだったようだ。
この扱いには断固抗議する!!
「えっと、何事ですか?」
俺達の動きについてこれなかったのか、美人さんが聞いてくる。
「すみません、ちょっと発作のようなものなのでお気になさらないでください」
サラさんや、発作ってなんじゃらほい。
「母上様、紹介致します。こちらの3人が先程話した冒険者、英国の鈴のゲンスイさん、サラさん、シェリーさんです」
そういって俺達を紹介したのはヤマト君だった。
が。
つい美人さんに目を奪われて気付くのが遅れたが、ヤマト君はドレス姿。
完全に女性の衣装だった。
もともと美少女にしか見えない彼だ。ドレス姿は様になっていた。
ただ、自宅で女装?
もう違和感しかない。
「ゲンスイさん、サラさん、シェリーさん。こちらは私の母です」
「今はマーサ・シュルツです。娘の命を助けて頂いて感謝しております」
娘?あれ?
「というと、例の病気の?」
疑問には思ったが、サラはまず話を聞いてみようということか。
「にしては、とても元気そうに見えるわね」
確かに。
ダンジョンで手に入れたジャックラ草で治療したとしても、そんなにすぐに全快するものか?
「娘の命の恩人ということもありますし、娘から話は聞いて信頼できる方々とお見受けしました。これからとても重要な話をさせて頂きますが、どうか内密にお願いしたいのです。よろしいでしょうか?」
美人のマーサさんの真剣な表情で俺達は頷き、心して聞く。
そして話し始めた内容はとても驚くべきことだった。
まず、ヤマト君はこの国の第3王子として産まれた。
しかし、政敵やらなんやらで女の子として公表され育てられた。
病弱のため療養という名目で8歳までこのトーシンで暮らしていたらしい。
ヤマト君自体は王位継承に興味はなく、自由な生活を望んでいる。
8歳になり、身分を隠して王都で暮らすようになる。
王都では例の魔導繊維の研究をしつつ、10歳で冒険者登録をした。
そこで美人マーサさんが病気だという話とその特効薬であるジャックラ草の情報を得てダンジョンへ。
しかしそれはデマだったらしい。
「デマって。そんな事をする相手に心当たりは?」
「第一王子派か第二王子派、つまりは政敵となりそうな所くらいしか思い当たらないですわ」
「となると、ヤマト君が第三王子であることがバレたのか」
「その可能性が高いと思われます」
「ちなみにヤマト君が実は王子だっていうことを知っているのは?」
「ここでは私と執事のボビーホフマン、王都では私の母と執事のヴァングルだけのはずです。どこから情報が漏れたのか……」
身内以外を疑うと執事か。ボビーは今日会っているがもう一人の方は分からんな。流石の頭脳派でも情報が少なすぎて推理できん。
「それで、これからどうするつもりかしら?」
「本来ならば第三王子として立つのが筋なのでしょうが……」
そこで美人マーサさんヤマト君を見る。
「私は、その、王位とか興味ないし、その」
なんだよ、すっかり最初に出会った時みたいに口下手キャラに戻ってるじゃないか。めんどくさいな。
だったら。
「ヌルポ」
「ガッ!」
くっくっく。条件反射になってるじゃないか。
「…………」
「ネラーめ」
「ちっ、違うでござるっ!」
「ござる~?」
「違うンゴ~~~!」
「あははははーー」
瞬間でネラーになった姿に俺の高笑いが響く。
合わせてサラ達の無邪気な笑いが重なる。
「ちゃんと喋れるじゃねーか。それで?」
俺達のやりとりに当然だが美人マーサさんはついてこれないようで、キョトンとしているが気にしない。
「もういいナリ。簡単に言うと、今回ダンジョンで死亡扱いになっているのでそのまま死んだ事にして、この国の王族から自由になろう大作戦を結構しようと思うンゴ」
「なるほど。ダンジョンで死亡なら政敵はもう追いかけてこないという事か」
「だから、その。僕をパーティーに入れて欲しいンゴ」
まぁ俺達としては同じ転生者という事もあるし問題は無い。そして母親同席のこの場でそういう話をするという事は当然家の事情ってやつも含めて了承済みとみて間違いないだろう。
「もちろん、歓迎するぜ」
「冒険者だけじゃなく、同じ研究者としても歓迎よ」
「もちろん~、大歓迎よ~」
「ダンジョンで助けられてから一緒にここまで来たと聞いていましたが、すっかり馴染んでいるようですね。娘を、いえ、息子をどうかよろしくお願いします」
美人マーサさんは深々と頭を下げたのだった。
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