第60話
ダンジョンを出て、一応ギルドから派遣された受付にアダマンタイマイを討伐したことは報告しておいた。そしてそのまま俺達はトーシン地方へ向けての旅立った。
「みなさん、お話、させてもらっても、いいですか?」
そう言って真面目な顔のヤマト君が俺達に声を掛けて来たのは、移動中に野営をしていた時だった。
要約すると、転生してこの世界に産まれた過程は少々複雑だったらしい。
ヤマト君は王都で暮らしているがトーシンには病気の母親がおりその治療のためにジャックラ草を探し求めていたということ。
そして手に入れたので早く駆け付けたいという事だった。
至って真面目なその理由に俺達は反対する理由もなく、こうしてトーシンへと向かうのだった。
そしてこの話には続きがありそうではあったのだが、どうもヤマト君はモジモジして言葉に出来ないようだった。
話したくない事を無理やり聞く趣味も無いので、話したくなったら話せばいいとだけ伝えると涙目で
「ありがとう」
とだけ言ってくれた。
美少女が涙目でそんな事言われたらちょっとキュンとしそうになったが、俺は知っている。こいつは男だ。
騙されんぞーーー!!
◇
トーシン地方にある村に到着するとヤマト君は俺達に丁寧にお礼を言って一人で駆けて行った。
「急いで行っちゃったわね」
「早く母親の病気を治してあげないのね~」
「じゃあ俺達は少し休もうか? 宿探しと飯所探しどっちを優先する?」
「こう野宿続きだとやっぱりちゃんとした料理が食べたくなるわ。まずは食事にしましょう」
「ちょっと待って~、先に宿を確保しておかないと~。料理が良くてもまたテントになるわよ~」
「シェリーさんの言う事は正しい。でも俺もサラに賛成だ。旨い飯が食いたい!」
「せっかく村まで来たのに~、また野宿になるわよ~?」
「ちゃちゃっと食べてササッと探せば大丈夫だろ!」
「ゲンスイさんにさんせ~~~い!」
◇
という行動方針会議の通り我々は食堂にやって来た訳なんだが……
「それで、サラは何を注文したんだっけ?」
「野鳥と山菜の香草焼きよ。ゲンスイさんは?」
「俺は粗挽きソーセージとたっぷり野菜の包み焼だ」
俺達の会話を退屈そうに聞いているシェリーさん。
「もう二人ともその話題3回目よ~?」
「だって……」
俺達が料理を注文してもう2時間が経過しようとしているのだ。空腹も相まって元気も無くなり同じ会話を繰り返すというこの悲しみ。
とそこへやっと一品目の料理が届いた!
「お待たせ。これが野鳥を使った包み焼だよ」
へ?
注文していたのと違うような。
だがそこは俺達のパーティー英国の鈴のチームワークというか結束力というか。
「シェアしよう」
「そうしましょう」
「そうね~」
注文したものが出てこないのであれば誰がどれを食べればいいのか分からん。
だったら出て来た料理をみんなでシェアすればいいじゃない。
そしてそういう思考に至ったのは俺だけではなく。
◇
「ありがとうございました~」
結局全ての料理が出てきて食べ終わったのは、店に入ってから4時間後の事だった。
「お腹はいっぱいになったけど~、もうすっかり夜も更けたわよ~? お二人の意見を聞こうかしら~?」
「いやだって、なぁ」
「そうよ、まさか食事に4時間もかかるなんて思わないもの」
俺とサラの弁明では納得してくれなさそうなシェリーさんの表情に、白旗を上げるべきか考えていた。
「失礼。英国の鈴のゲンスイさん、サラさん、シェリーさんでよろしいか?」
突然俺達に声を掛けて来たのは、30代位の男性だった。
見た所オールバックにした髪型に聡明そうな表情、タキシードっぽい服に凛とした立ち振る舞いも合わせて清潔感と上品さを兼ね備えた紳士だ。
「ええ、そうです。あなたは?」
「私はシュルツ家の執事でボビーホフマンと申します。ヤマト様よりお話があるとのことです。ご同行いただけますでしょうか?」
ヤマト様って、ヤマト君か?
様付けで呼ばれるってあの子いいとこの坊ちゃんだったのか!?
「そう言う事ならば断わる理由はないが……」
「ちょっと待って~。私達はこれから宿を探さないと~、また野宿になってしまうのだけれど~」
「そう言う事でしたらシュルツ家で部屋を用意させて頂きます。それならばよろしいでしょうか?」
なんという至れり尽くせり。
乗っかっちゃおう!
サラもシェリーさんも問題ないようなので俺達はボビーの提案に従い同行することにした。
勝手にボビー呼びしちゃうのは名前が長いからいいだろ?
読んで頂きありがとうございます。
頭脳派脳筋は改稿修正したものをアルファポリスにて投稿しております。
少しだけアルファポリスのほうで先行配信していますのでよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/286453861/744200632




