第43話
「サラ、今から少しの間だけ何があっても俺を信じてくれ」
敵の魔法攻撃を防御しながらもなんとかサラに声を掛ける。
サラは表情どころかぺっぴり腰ではいるものの、俺に視線を向け頷いてくれた。
敵は複数、いろんな角度からいろんなタイミングで風魔法攻撃をしてくるが、タイミングを見計らい一歩下がりながら振り返る。
おもむろにサラの脇に手を差し入れると同時に膝の裏に片手を滑り込ませ持ち上げる。
一部界隈でお姫様抱っこと呼ばれているものだ。
「走り抜けるぞ!」
シェリーさんにも声を掛け、足元に当たりそうな風魔法攻撃をジャンプして躱す。
サラの悲鳴が聞こえたが意識は前方に集中し、着地と同時に膝に力を込め走り出す。
上半身に当たりそうな攻撃は屈み、下半身に当たりそうな攻撃はジャンプし、進行中に当たりそうな攻撃は一旦停止したり逆に加速したり。
幅20センチの道の上ですべての攻撃を躱しながら走り続ける。
シェリーさんもさすが竜人族だ。俺のすぐ後ろをぴったりついてくる。
20分も走っただろうか。
イービルアイの包囲網はあっさりと抜けることができ、ついに反対岸へと辿り着くとそのまま下層へと続く階段フロアへと入り込んだ。
周りの安全がとりあえずは確保できそうなので、抱っこしていたサラを降ろそうとすると本人の意思に反して体が硬直していたようだ。ガチガチに固まっていた身体をゆっくりと解しながら地面に降ろす。
「もう大丈夫だぞ」
「ええ、ありがとう……」
怖かったのだろうが頭では危機を乗り越えたと理解し始めたのだろう。声は小さいもののお礼を言われた。
「サラちゃんよく頑張ったわね~、えらいえらい」
シェリーさんは小さい子供をあやす様に頭をなでなでしていた。
「しかしサラが高所恐怖症だとは思わなかったな」
「私だって多少なら大丈夫よ。昔はスカイツリーにだって行ったことあるし! でもここはほら、暗くて深さも分からないし、なんかダメだったわ」
確かサラと初めて出会ったダンジョンで如意棒を使い棒高跳びの要領で十数メートルはジャンプしていたしなぁ。
まぁここは確かに暗いからそこがどうなっているなんて検討もつかないが深そうって事と、ダンジョンであることを考えたら落ちてしまった場合碌な事にはならないのは確定しているだろう。
「それにしてもサラを抱いて走り抜ける妙案、頭脳派の俺じゃないと見逃しちゃうねって位盲点を突いたいい案だったぜ。抱っこして走っている時に手が胸に当たったりもしたしな。サラの胸は薄いとはいえきちんと柔らかい感触、絵がったなぁ……」
「ゲンスイさん、誰の胸が薄いですって!??」
「しまった!? 声に出してた!」
「まったく、抱っこしてくれた時はかっこよかったのに……」
カッコヨカッタ?誰が?俺か?おおおお?
「なんだって? ちょっともう一回言ってくれるかな?」
「もう知りません!」
結局怒っている顔ではあるが、薄い発言のお怒りではなさそうなのでもういいことにする。
「さってと、多少休憩もできたし次へ行くか」
リーダーらしく号令をかけて引き続きダンジョン攻略へと向かうのであった。
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