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第39話

「これが目標のダンジョンだな」


「間違いなさそうよ~」


 俺達はやっとダンジョン入り口に辿り着いた。

 グレイプニル地方は岩石地帯が多くこのダンジョンも岩石の間にぽっかりと入り口があった。


 入口付近の広場には露店なども並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。

 ダンジョンは商人にとってもはいい稼ぎ場所として人気があるようで素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

 冒険者ギルドから派遣された受付まであるのは探索が完了していないダンジョンだからだろう。入場者のチェックも行っているらしいので受付を済ますついでにヤマト君について聞いてみるがやはり行方不明扱いになっていた。

 ここでいう行方不明とは遺品が見つかっていない状態でダンジョンから出てこない期間が1週間を超えている者の扱いだ。これが1か月を超えると推定死亡となる。


 早速3人でダンジョンに突入する。


 ここのダンジョンもヒカリゴケのおかげで薄ぼんやりと発光しており、松明や魔法に頼らなくても視界がある程度確保できるのはありがたい。


 地下3階のジャックラ草のエリアまでサクッと到着してしまった。すでにこの辺りは探索済みのためギルドでマップを入手していたため迷う事もなかった。


 途中探索をしているのか、魔物退治して冒険者としての経験値を積んでいるのか、魔獣の素材を手に入れようとしているのか何組かの冒険者パーティーとすれ違う事があった。


 もちろん、不用意に近づくことはモラル違反になるため少し遠くから声を掛け話が出来そうだったらある程度距離を詰めてから子供の捜索をしていることを伝え何か情報が無いか聞いてみた。


 結果、何の情報も得られなかった。


「目的地まで来たけどいないわね」


「仕方がない、捜索は打ち切りだな。ここからは俺達の目的の為さらに奥へと向かう事になるが、その途中に迷い込んでいないかは気にしながら進もう」


 当初から予想されてはいた。同行PTが全滅したのだ。子供1人だけが助かっている可能性は低い。仮に助かっていたとしても、同行PTの死亡が発見されてから時間が経ちすぎている。


「そう・・・ね」

「気持ちを切り替えましょう~」


 こうして、俺達は行方不明者捜索を打ち切り本格的なダンジョン攻略へと移行した。



 捜索を打ち切ると宣言してはいたものの、俺達は一応それとなく最短距離とは違う通路にも足を運んだりしていた。しかしそれも地下10階に辿り着いた時にはしなくなっていた。というかする余裕が無くなったと言うべきか。


「地下10階にから急に雰囲気が変わりすぎだと思うの~」

 この階層からギルドによる探索は完了してはいるものの地図は役に立たなくなっている。何故ならば、構造が変わっていくため、チェックした地図では長方形の上に上る階段、下に下る階段が記載してあるだけでその中身は空白になっていた。


 この階層に降りてきて、アーチ状の門が俺達を迎えた。中には鏡張りになっているように見える。


「子供のころテーマパークでこういうのあったわね」


「ミラーハウスだろ? 同じこと思った」


「急にテーマパーク気分が出て来たが、気を引き締めていくぞ」


 アーチ状の門をくぐりミラーハウスへと入っていく。


「すごいわね。壁だけじゃなくて天井も床も鏡張り……ハッ!」


 サラが何かに気付いたようで俺を睨んでくるようだが、俺はいまそれどころではない。パンツスタイルのシェリーさんと違って、サラはミニスカートなのだから!!!


 ぐふふふふ……俺は期待から視線はサラの床(鏡)を凝視していたが、




 な ぜ だ !?



 サラのミニスカートは防御力鉄壁すぎ!!!


 角度的には絶対にパンチラを楽しめるはずだろ!?それなのになぜ……いやまて。それならばそれで俺は一向に構わない。鏡越しということは下から見上げるような角度でサラの太ももを楽しm……


「ブベラオッッ」

 突然襲ってきた鳩尾の痛みとほぼ同時に吐血し床を汚した。サラの如意棒による攻撃だと気づいたのは少し後だった。


「ゲーンースーイーサーン? 床が反射するのが気になるならもう少し汚しておきましょうか?」


「いやいやいや、全ての床を俺の血で反射しないようにするつもりか!?」



「はいはい~、いちゃいちゃするのもそのくらいにして~」

 間延びしたシェリーさんのツッコミとは裏腹に、ツインアルテミスボウを構えると俺に向ってぶっ放した。


 発射された2本の矢は俺の頬を掠め後方へと流れて行った。


「シェリーさん?」

 ちょっとツッコミにしては二人とも激しすぎませんか?


 冷や汗を流しながら着弾点を見ると、粉々になった骨の魔獣がいた。


「どうやら~、鏡の中から魔獣が出てくるみたいだから気をつけて~」


「ほら起きて。さっさと行きましょう。ゲンスイさん先頭でね」

 鳩尾の痛みも冷や汗も、俺の生死がかかるほどの事態なのにもうその話は終わったとばかり先頭へと押し出された。

 鳩尾ってのは人体の急所なんだぞ、と心の中で悪態をつきつつ改めて周囲を警戒する。


「そこ~、右からくるわよ~」

 鏡の中から魚型の骨魔物が飛び出してくる。


 壁から突然撃ちだされる襲撃を左拳で撃ち落とす。一撃で粉々になるからハッキリ言って弱い。


「強くはないが、突然の襲撃ってのが鬱陶しいな」


「気が抜けないわ。それに周りを見てもどっちに進めがいいか分からないし」


「こういうダンジョンは珍しいわね~。こういう時は右手の法則よ~」


「某クラピカ氏の影響で有名な攻略法ね」


「某いらないんじゃ・・・」


「なに?」


「ナンデモナイデス」


 少しばかりサラの機嫌が悪いのは気のせいではないはずだ。俺とシェリーさんは、急な敵の出現にも実は対応できている。何となく違和感のある場所から敵が出現するからだ。

 前世では感じる事の出来なかった感覚だからどうもハッキリ言えないのだが、おそらくは野生の勘ってやつだと思う。だが、サラにはその感覚はないようだ。


「今度は左~」


「あいよっ!」

 違和感のある場所目がけて右拳を振り抜くと、予想通り魚の骨型の魔物が飛び出た瞬間に弾け飛んだ。


 サラは魔物が弾け飛んだ後に武器を構えるが、もう戦闘が終わった事を理解するとまた少しだけ不機嫌になるのだ。


 その後、あっさり方向感覚を無くしただひたすら右手の法則で進む。突然飛び出す魔物を対処しながら進む事3時間。体力的にはどうということはないのだが、気が抜けない上にどんどん不機嫌になってくるサラ。


「結構歩いたと思うのだけど~」

「なんなのよもう! 鏡はお腹いっぱいよ!」


 疲労をにじませながらサラが悪態をついている。


「適当な場所があれば休憩したいな」


「そうね~」


 実際危険はないテーマパークのミラーハウスだって何時間も入っていればイライラもたまるってもんだ。その上魔物の強襲があるため気が抜けない為俺自身もだいぶ集中力は落ちて来た。

 休憩できそうな場所を探しながら進みはするが、適当な場所なんて見当たらない。




 結局鏡エリアに突入してさらに1時間が経過したころ、遂に見えたのだ。


「見て! あのアーチはきっとゴールよ!」


「やっと出口ね~!」

 その時、出口直前の床が汚れていることに俺達は見逃していた。

 喜び勇んで出口へと向かう。


「ゴ―――ル!!」

 三人並んでゴールのアーチを潜る。


 そして目の前に見えたのは次の階層へと続く下りの階段ではなく、上りの階段だったのだ。



最後まで読んで頂きありがとうございます。

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