第38話
帝都ユジャスカ。人族の国の中でもっとも人族至上主義が根強い国である。現在のユジャスカ13世は歴代の皇帝に習い人族至上主義を基本とした政策を掲げており、数年前には多種族狩とも呼べる侵略戦争を行っていた。
そんな街に人族が1人もいないロンドンベルはダンジョン攻略へ向かう途中保護した子供を引き渡しに再び戻って来た。
さっさと子供を親元へ引き渡し、再度ダンジョンへと出発したのである。
「情報をまとめるとだ。捜索対象は年齢11歳の人族。男。ただし見た目はあまり男らしくないらしい。名前はヤマト君。一応登録は行っている駆け出し冒険者。出発した時の装備は銅の剣に皮の軽鎧、あと自作の腰巻らしい」
正直見た目でいうならばダンジョンに子供がいること自体レアケースなので、目印は子供ってだけでいいような気もする。
「それと重要なのは~、ヤマト君がなんで実力に見合わないダンジョンに行ったかということなんだけど~?」
「そうだった。二度とまわりや俺達に迷惑が掛からないようにお尻ペンペンしてやらんとな! 大体幼馴染に心配させてその上危険な真似までさせた原因なんだ。しっかりと反省してもらわないといけないから死んでたら許さんからな」
「そうじゃなくて~、目的は地下3階に生息されているジャックラ草を取りに行ったってことでしょ~」
「それは捜索するのに重要な情報ね」
「地下3階までの道のりを重点的に捜索だな」
ジャックラ草ってのは確か薬師がよく欲しがる素材だったはずだ。薬が欲しかったのかそれとも薬師に売却してお小遣い稼ぎしたかったのか。
「詳しい事情は引き渡しの時の一件でうやむやになったもんなぁ」
「そうよ~、思い出しただけでも腹が立つわ~」
保護した子供を親元に連れて行った時の事だ。
◇
「サラお姉さん、送ってくれてありがとう」
保護した子供の家に到着した。そこは、控えめに言って豪邸だった。入り口に門番いるし、門から屋敷まで距離あるし。
「すごい豪邸ね~」
俺達はちょっと呆気にとられるレベルだ。
「おかえりなさいませ、フォンお嬢様」
「ヴィル爺、ただいま。この人達に助けて貰ったの。何かお礼がしたいんだけど」
執事服を着た初老、ヴィル爺と呼ばれた男がいつの間にかフォンの横に立っていた。俺達が気配を察知できないなんてどういう事だよ。
「え?お嬢様?」
「別に隠していた訳じゃないんだけど、いつも抜け出して冒険者やってるから……」
サラが驚いたのはそこではなく、ずっと男の子だと思っていたからだろう。まぁ見た目はヤンチャな少年に見えるしなぁ。もっとも、俺は馬車に乗せる為抱えた時匂いで気づいた。この年頃の子供は見た目じゃ分からん。
「すぐに奥方様が参ります。お客様方はどうぞこちらへ」
ヴィル爺の案内で屋敷へと歩き出した。しばらく歩かないと屋敷までたどり着けないとか、どうなってんだと考えていると、屋敷から一人の女性がこちらに向かってきた。遠目ですでに品があり、近づくにつれ美人がハッキリしてくる。
「母上様!」
「あぁフォンティーナ! 無事でよかったざます」
少し涙ぐみながら母娘が抱き合い感動の再開、助けれてよかったと思う。
結構な美人なので飛びつきそうになったがフォンが先に飛びついたのでタイミングが合わず出れなかったなんてことはない。俺の理性は鉄壁だ。
「母上様、この方たちが私を助けてくれたのです。こちらがサラさん、奥にいるのがゲン「きゃあああああああああああ」
ご紹介に預かったゲンスイですと言おうとした瞬間、俺を見て悲鳴を上げられた。
「ヴィル! ヴィル!!! 化け物よ!!! 早く退治して!!!!」
すぐに母親の前にヴィル爺と呼ばれた執事が立ちはだかる。
「ヴィル爺待って。母上様も。この人達は助けてくれたんだよ」
「フォンティーナ!亜人を私達人間と同じと思ってはいけないといつも言っているざましょ。それにこの獰猛な獣は私たちの馬車に飛び掛かって来た個体に間違いないざます!」
「「「あっ」」」
そういえばこの町に来た時、門番の前で貴族の乗る馬車に飛び掛かったのだ。そのせいで不審者扱いされて街に入るのに時間がかかった。どうやらこの人が乗っていたらしい。
「飛び掛かった??」
「そうざます! あ、あなたが飼い主? どういう躾をしているざます?」
サラに指を突き付けながら声を荒げている。
こいつ、素で言っているがざますざますうるさいな。
「躾って……。私達は研究者でもあり冒険者なんです」
「研究ざます? あぁ、そういう事ざますか。でもどちらにしても関係ないざます! さっさと出ていくざます!」
何がそういう事なんだよ。
「は、母上様!恩人に何てことを!」
「どうせ謝礼欲しさに助けたざましょ。そもそもフォンティーナに恩を着せようと悪だくみしたに決まっているざます!」
なんだろう、モンスターペアレントか?クレーマーか??何にせよ、まともに会話もできそうにない。
「もうなんなの? 信じられないわ。行きましょう!」
サラが感情のままに言ったのだろうが、俺達も同じ気持ちだ。さっさとこんな所おさらばしよう。
俺達は屋敷をあとにした。
後ろからフォンが謝っていたがそれすらも上書きするようにザマスが喚いていた。
「無視無視!ほっときましょう!」
「気持ちを切り替えてさっさと行こうぜ」
◇
という胸糞展開だったわけだ。
「まったく、亜人を猛獣かなんかと勘違いしてやがるな」
「さっさと子供捜索して~、アダマンタイマイ手に入れて~別の国へ行きましょう~」
「途中で研究って言ったら納得してたのはなんでかしら?」
「多分だけど~、獣人をペット扱いする研究とか~どうせそんなところでしょ~」
「ペットだったらまだいいけどな。非人道的な人体実験とかを想像したぜ」
「引くわね。でも、そもそもの原因はゲンスイさんが馬車に飛び掛かった事もあるのよ。反省してくださいね」
っ!?
矛先がこっちに!?
「気持ちを切り替えてさっさと行こうぜ」
精一杯の笑顔で手綱を握り馬車を走らすのだった。
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