第35話
結局泥棒は衛兵へと連行され俺達も事情を聴きたいという事で翌朝帝国騎士団の詰め所に顔を出すことになった訳だ。
「……という訳で現行犯で捕獲したわけです」
「ふむ、なるほどな。君たちの言い分は分かった」
と一通り説明した俺達の話を聞いた衛兵は理解を示した。が、その顔は最初から変わらず険しい。
「しかし、随分相手と言い分が違うようだからまだしばらく時間を取ってもらうぞ」
途中から入って来たもう一人の衛兵がまだ終わらない宣言をしてきた。
「どう違うのか知らないが、俺達が話していることに偽りはないぞ」
早朝から俺達が事情説明という名で呼び出されたこの場が終わり、帝国騎士団詰め所を出たのはお昼を超えていた。
「なんなのよ!私達は被害者なのに!」
「あれじゃ~まるで~、私達が疑われているみたいで失礼しちゃうわ~」
遅めの昼食を取りながら愚痴がでる。物取りの被害はなかったが、こんなにも時間を取られるなんて思いもしなかった。
「頭にくるが今更言ってもしかない。それで、どうする?今から出てもすぐ日も暮れるからもう一泊してから出発するか?」
「私はもうさっさと出ていきたいわ。こんなことならまだ野営のほうがいいわよ」
「お姉さんも~サラちゃんの意見に賛成かしら~」
「だよね、この街どうも居心地悪いしさっさと行くか。じゃあ出発準備しよう」
一度宿に戻り荷物を回収すると同時に店主にも報告しておいた。どうやら加害者が人族で被害者が人族以外だった事でそれを心情的に良しとしない衛兵だった事が原因らしかった。それにしてもこんなにハッキリしている犯行でこんなに伸ばされてしまったのだから、もっと微妙な案件だったらどうなっていたことやら。
店主は全く悪くないのに、謝罪されてしまったがその必要はないと伝え一応窓枠を燃やしてしまった詫びとして貨幣を渡し宿を出た。
街を出る途中、先ほどの帝国騎士団詰め所の近くを通っていた時だ。
「少しだけ待っててくれ」
俺は馬車を降り人気のない詰め所の裏へ回る。
ジョロロロロロロロロロ
ふぅ・・・・。
ちょっと催してしまったので少しの仕返しだ。
ククッ!
俺を不快にさせると天罰が下るのだよ!
「お待たせ、じゃあ行こうか」
「ちょっと何していたのよ?」
サラに怪訝な目で見られてしまったが気にしても仕方ない。
「ああちょっとな。まぁ気にするな、行こう」
御者台に座った俺は地竜のパイオツカイデーとましゅまろに手綱を操り出発することにした。
◇
ただただ不快な思いしかなかった宿場町を出て帝都までの道のりは、比較的苦労することなく辿り着くことができた。
途中何度も魔獣の襲撃があったが俺達3人の戦力で結構余裕で撃退できたし、街道もちゃんと舗装されていた上に野宿するときも場所によってはキャンプ場みたいなのが設置されていたりで苦労も少なかった。
シェリーさんの話ではユジャスカ帝国は人族至上主義の為人口の大半は人族ではあるが、他種族を奴隷として使役し労働力としているため道路などのインフラ設備はちゃんとしているらしい。
奴隷とか穏やかじゃない単語に顔を険しくしてしまう。俺達のパーティーに人族はいないから面倒な事が起こらなければいいが。
といっても、宿場町ですでに面倒に巻き込まれたばかりではあるのだが。
帝都ユジャスカ。その外観を見た俺達は言葉を失った。
あまりいい思いをしていなかったこの国ではあるが、そんな事は抜きにして帝都の外観は俺達が想像していた異世界ファンタジーのそれ、そのものだったのだ。
そびえる大きな城壁に囲まれるように街があるのだ。一国の首都だけあってその大きさは見る者を圧倒した。街道から帝都へと続く城門へは行列が出来ており順番に並ぶ事にしてゆっくりと城壁を眺めていた。
「聞いていた人族至上主義というのはこういうところでもあるのね」
サラの視線の先を見てみると、行列は人族を優先しているらしい。人族がいる一団は比較的すぐに通過しているが人族のいない一団はどう考えても後回しにされている。
「私達の場合も時間がかかりそうね~」
「まったく、差別とか無益な事だな。急ぎたいが面倒を起こしたくもないし気長にいくか」
「くれぐれもいらない事をしないよう、気を付けてくださいよ?」
やめろ、俺だけへの念押し。まるで俺が腕白坊主みたいじゃないか。
「サラもな」
意趣返しのつもりで言ったが、やぜかヤレヤレと両手を広げながらシェリーさんと目を合わせている。
パーティーリーダーを子ども扱いするのは止めて頂きたい!
しばらくすると、行列も進み俺達の番となった。
検問をしている場所へと進み出るため俺達3人が身を寄せ合いながら進む。あら、2人ともこんな状況なのに積極的なんだから。フフフ、俺の魅力で引き寄せられるのは仕方ないにしても、シェリーさんなんかドサクサに紛れて腰に手を回したりしてるし。
まぁ混んでいるのだから仕方ないよな。もっとやれ!
タイミングの悪い事に一台の馬車が城門までたどり着くと順番など完全に無視して最優先で入ろうとしてきた。
あれだろ?分かってるよ。馬車もなんかしらんが豪華っぽいし貴族様だから優先する!とかそういうヤツだろ?いいよ、先に行けよ。
「ゲンスイさん~、あれは~」
「分かっているよ。道を空けよう」
俺達が動かなくても十分に通り道はあるのだが、気持ち俺が一歩引いた時だった。
貴族様(と思われる)馬車が通り過ぎる時、馬車の客室部分の窓から中に乗っている人がチラッと見えたのだが、それがまたとても美人だった。
……惚れた
獣人族に許されたその脚力を生かして馬車まで一気に跳躍した…
「ブベラモォ」
跳躍したはずがいつの間にか俺の腰についていた縄により馬車まで届かず地面に顔から落ちたのだ。痛みを堪えながら縄の先端へと視線を移すとしっかりとサラの手に握られていた。
「ゲンスイさん? 何をしているのかしら?」
こめかみに青筋を浮かべているサラは怖いんだぞ!
「いや、これは……」
「貴様ら!! 今何かしようとしていただろう! 怪しいヤツラだ!」
こうして近くにいた門番衛兵に目を付けられたのだった




