第33話
ユジャスカ帝国のダンジョンにてアダマンタイマイが出現したという情報を得た俺達3人は、地竜のパイオツカイデーとましゅまろの引く馬車に乗って街道を爆進していた。
ユジャスカ帝国は隣の国ではあるのだが、その距離は通常馬車で片道3週間はかかる。それを少しでも急ぎたいのでハイスピードで飛ばして16日目にユジャスカ国の国境へと辿り着いた。2頭の地竜は優秀だ。
「獣人とエルフか。後ろは……竜人か。何の用だ?」
「俺達は冒険者だ。帝都近くのダンジョン攻略が目的だ。帝都まではどのくらいかかるんだ?」
「さあな。終わったらさっさと出ていけよ」
少しトゲのある言い方だが入国は無事に終わった。別に戦争中という訳でもないし行き来は普通に出来る。だが俺達がこの国に行くのは初めての事だった。
「感じ悪い国ね」
「まったくだ」
第一国民がその国の印象をマイナスにしている。もちろん、あいつが感じ悪いだけでいい国なのかもしれないが、それでも第一印象って大事だと思う。
「仕方ないわよ~、ここはそういう国なんだし~。それよりも、先を急ぎましょう~」
気にするだけ無駄と、先を促すシェリーさんに従い俺達は先を急いだ。そしてなんとか陽が暮れる前に宿場町に着くことが出来た。
「今日は久しぶりに宿に泊まれるわね」
「ああ、急いでよかったな」
ずっと野宿続きで俺達は柔らかいベッドに飢えていた為、まっすぐ宿屋に行くことに誰も反対などするはずもなかった。
「今日は満室だ。他所行ってくんな」
「満室だ。空きはねぇよ」
「部屋はない。他行きな」
と俺達の姿をみるやいなや、3件立て続けに宿屋が満室という事で断られ俺達のテンションはダダ下がりだ。
「この街にあと何件宿屋があるのだろうか」
「街で大きなイベントがあるわけでもなさそうなのに、なんでどこも満室なのよ」
「次に行きましょう~」
街道沿いの宿場町ゆえにまだ他に宿屋があるのか疑問が残る。それでも野宿よりはと俺達は宿を探して歩き回った。
「お困りのようですね。1部屋しか空いてないですがそれでも良ければお泊りになりますか?」
街の片隅で見る限り流行って無さそうな、端的に表現するとボロい宿屋に最後の望みをかけて入ると予想通りあまり儲かって無さそうな店主がそう言った。
正直期待は出来なかっただけにこの背の高く痩せ気味な店主が屋内で帽子を被っている違和感など吹き飛んだというものだ。
「ぜひ、お願いします!」
「それにしてもどこの宿屋もいっぱいだったわ。今日は何かあるのかしら?」
チェックインの手続きをしながら俺達の疑問を代表してサラが口にした。
「ああ、お客さん達は人間族じゃないからでしょう。この国は昔から人間至上主義ですからね。そういう私も……」
そう言って帽子を取ると人にしては細く長く、尖った耳をしていた。
「エルフですか?」
「そうですよ。もっとも、ハーフですがね。おかげでこうやって人族以外のお客さん相手になんとかやってますがね」
苦笑いと愛想笑いとどちらか分かりにくい営業スマイルで答えてくれた。
「じゃあ、人種差別でどこも断っていたのね!まったく、酷いわ」
「やっぱりそうだったのね~。でもこうしてちゃんと泊まれるところが見つかってよかったわ~」
シェリーさんは原因を察していたようだ。
「部屋は2階の一番奥です。お食事がまだなら隣に食堂を併設していますが、どうされますか?」
「うん、それもお願いしよう」
「分かりました」
念願のベッドを確保した俺達がいつもよりもたくさん飲んで食べてしたのは仕方ないことだと思うのだ。そして食後に3人で部屋に入り俺が無意識のうちに鼻息を荒くしている頃、サラとシェリーさんが何か内緒話をしていた。
「ゲンスイさん。大事な話があります。ちょっとそこに座って下さい」
いつになく、と言えば失礼かもしれないが真剣な顔でサラが迫ってくる。
「なんだ?」
「見ての通りベッドがひとつしかないようです。そこで、常日頃から理性の塊と嘯いているゲンスイさんを私達は信用しています」
信用しているというのに嘯くと言うサラにじっくり小一時間話したい気持ちも出て来たが、とりあえず用件を聞こう。
「それで?」
「ベッドで寝たいですか?それともあちらのソファーで寝ますか?」
野営の時は交代で見張りをしたりしているため同じ簡易テントで2人が寝ていたのだ。まぁ、野営では本当に寝るだけだったわけだが。それが今更寝るだけなのにわざわざ窮屈なソファーを選ぶはずがないだろう。まぁ、寝返りを打ってついあんなところやこんなところに手が当たるという事が無いとは言わないがそれは事故だからしようがない。
「決まっている。ベッドが一つしかないのだから一緒でいいだろう?ただ寝るだけだしな」
「分かりました。シェリーさん」
いつの間にか俺の背後にいたシェリーさんは収納庫からロープを取り出して俺に近づいてくる。
「な、何を、している、のかな?」
嫌な予感が漂い始める空気。これはよろしくない!
「乙女が汚されるのはゲンスイ君も不本意でしょ~?これはそれを未然に防ぐために必要な事だから受けいれなさい~」
抵抗を試みようとする俺の先手を打つように、前方からサラが俺の両手の自由を奪うと後方からシェリーさんが見事と言わざるを得ない縄捌きで俺を拘束していく。
「わっ!や、やめろーーー」
もがいても時すでに遅し。謀ったな、サラーーーー!!!!
「これでいいわね」
「ミッションコンプリート~」
俺は二人の手によってベッドに落とされた。なんとか縄抜け出来ないか身じろぎして見るが、いくらもがいてみても緩む気配はなかった。
「モガモガモガモガー」
ていうか、なぜ口まで塞ぐ必要があるんだー
「そうね。よかったわ、これで安心して休めるわね」
「モガモガモガモガーー」
会話になってないだろーー
「え?そんなに褒めなくてもいいわよ?」
「モガモガモガモガー?」
何の話をしているー?
「サラちゃん~、そろそろゲンスイ君で遊ぶのはそのくらいにしてそろそろ休みましょう~」
結局その日は、サラとシェリーさんと3人で同じベッドで寝ることになったものの、俺はというと身動きできない状態で、しかも女性特有の色気のある匂いを間近に感じながらあまり眠れない夜となったのだ。
夜中3時、と思われる位の頃。俺は密かに覚醒していた。サラもシェリーさんも俺の事を甘く見ていたようだな。俺が縄でぐるぐる巻きにされた位で諦める訳がないだろう。
確かに今現在、狼の獣人族である身体能力のうち嗅覚をフル活用してサラとシェリーさんをくんかくんかしてはいる。だがそれで満足する訳ないのだ!
俺は繊細な操作が苦手で集中力も他種族に比べて低いと言われている獣人族ではあるが、それでも研究の為訓練してそんじょそこらの獣人よりも遥かに器用になったんだぜ。
縛られて自由の利かない両手にゆっくりと、それでいて確実に魔力を操作していく。使っているのは土魔法。それも手のひらサイズの石を作り出している。ただし非常に薄く、刃物代わりになるものだ。
何とか出来た刃物状を持ち、手首から先の動きだけで縄を切る。その作業は切るというよりも縄の繊維を少しずつ潰すような作業ではあるが、一歩ずつ確実に時間をかけながらすぐそばで寝ているサラとシェリーさんに気付かれないよう細心の注意を払い進める。
プツッと最後の縄の繊維が切れた感覚を鮮明に感じ、自分の頭脳に恐怖すら覚えながらゆっくりと縄を外していく。
この時の俺は自由を手に入れ目の前のごちそうに飛びつくことを考えていたが、良心との呵責もあったのか、周囲の状況、主に二人が起きていないかということに気を配っていた。
カチャッ……
それはとても静かに、それでいて確実に聞こえた音。
その音源は俺達のいるベッドからではなく、窓の方からだった。
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