第29話
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「僕ここに住んでいたわけじゃないよ?」
「じゃあ、どこに住んでいたのかな?」
「えとねー、ここから少しいったところにある島!」
「島~??」
「じゃあこの洞窟は?」
「んとねー、みんなでたまに来ていた場所なの」
さて、島に送り届けるとなると船がいる。だが俺達に馬車はあっても船は無い。
「どうしたものか」
「大丈夫だよ、ここからなら1人でも帰れるー」
「そうは言ってもね~」
子供1人で行かせていいものか。と俺達は同じ考えだっただろう。
「あ!お姉ちゃんだー!」
突然そんな事を言い出した人魚くんの言葉に、慌てて回りを見る。
が、洞窟の中に変化はない。
「お姉ちゃんが近くまで来てる!お姉ちゃんー」
言うが早いか動くのが早いか、人魚くんは洞窟の外へと走り出していく。俺達も追いかけるがそのまま海に飛び込んで人魚形態になるとそのまま沖へと泳いで行ってしまった。
慌てて俺達も続こうとしたが、泳ぐ早さに付いて行けないのが一目で分かり結局洞窟入り口で立ち止まった。
「そういえば人魚って念話みたいなのでコミュニケーションを取るって話だったわね」
なるほど、そういう事であれば突然に見えた人魚くんの行動にも理解が出来る。
「ちゃんと送り届ける事が出来た、と考えていいよな?」
「ちょっと歯切れの悪い最後だった気もするけど、いいと思うわ」
「じゃあとりあえず戻りましょうか~」
サラとシェリーさんの案内で崖を登る道を通り、無事崖上まで登りきることが出来た。
「ヤレヤレ。サラ、はっきり言おう。これは道ではないと!」
案内された道という崖は、結局のところただの崖だった。ただ、ところどころに足場になりそうな段差があったのでそれを頼りに通れたに過ぎない。それも俺やシェリーさんのような種族特有の筋力やサラのブーツように魔力筋によって強化されていて初めて通ることが許されるレベルのものだ。
「ゲンスイくん~、人が通るから道ができるのよ~。そしてここはもう私達が通ったのだから、道なのよ~」
分かるような分からないような。それは屁理屈というのだ。少なくとも俺は二度とこんな道を通らない。
崖上まで出て突端に行くと、確かに遠くに離れ小島が確認できた。
「あそこが人魚の里なのかな?」
「きっとそうね。あの子がちゃんと帰れていると願うわ」
「お兄ちゃ~ん、お姉ちゃ~ん」
遠く離れ小島を眺めていた俺達の不意を突くように足元、崖直下から声がした。見ると俺達に手を振る人魚くんと、別の人魚が。
可愛い……
ドッボーーーーン!!!!
「こんにちは!僕ゲンスイといいます15歳です!いい潮ですね!こんな日はちょっとそこの洞窟で親睦を深めませんか?心配しなくても合意の上でのスキンシップは何も問題ありませんので安心してこれから……」
「いやーーーー!!」
「グフゥッ」
人魚姉さんの一撃が見事に俺の顔面を捉えた。しかもコークスクリューパンチって。
一瞬遠くまで続く川を見たような気がするが正気を取り戻すと海の中だった。
くっそ重たいライトウェポンに魔力を込めつつ必死で掻き海面に浮上する。
「ゲンスイさん?何をしているのかしら?」
崖上からサラの声が聞こえて見上げると、遠目なのになぜか顔面に浮かび上がる血管まで見えた気がした。
「いや、ちゃうんや~。だってしゃ~ないんや~」
サラがなんか怖いので精一杯の言い訳を考える。
「す、すみません。大丈夫ですか?」
目の前には心配して人魚お姉さんが手を貸してくれた。
「とりあえずこちらから上がれますので来てください」
そうして必死で立ち泳ぎすることもなく手を引っ張ってもらい陸に上がる。そして崖の影になっているところから崖上まで行ける道(今度はちゃんと普通に通れる)に案内され、サラの所へ合流できた。
「改めてまして、弟を連れてきてくれてありがとうございます」
丁寧な言葉遣いでお礼を言ってくれたのは人魚くんのお姉さんだそうだ。
ちなみに崖を上がる時に人魚姉さんは人間形態になっていたのだが、大事なところを貝殻で隠すだけの姿に俺は鼻血を我慢することが出来ず、軽く貧血に陥っている。
今は人魚形態になって下半身は魚なのに器用に横座りしている。上半身は相変わらず丸出しでお子様には見せられない。一応貝殻で隠れているけど、もう隠れてないよりもアレだ。
「ゲンスイさんの処罰は後にするとして、何があったか聞いてもいいですか?」
……サラさん?処罰ってなんでせう?
「実は先日魔物の襲撃があったんです。もちろん、普段から多少はそういう事もあるのですが、この前のは明らかに規模の違う組織された大群がここに押し寄せたのです。大きなタコのような魔物を筆頭でした」
「そいつなら俺が倒したよ。襲撃の時、悪魔族はいたのかい?」
「あの化け物を倒した!?凄い!でも悪魔族?いえ、いなかったと……思いますが、私も全部見たわけではないので……。普段であれば私達も戦うのですが多勢に無勢、何人もの仲間がタコの魔物に捕獲され、命を落としました。劣勢を悟った長老様が規模の大きな転移石と魔法陣を使い皆を安全圏まで逃がしてくれたというわけなんです」
「なるほどなぁ。しかし、その転移石の力はすごいな。ここからフィアール領までかなり距離があるぞ?」
「フィアール領?そんな遠くに??長老様は皆を逃がした後自分だけは残っていましたので今はきっともう……。どのような術式だったのかどんな転移石を使ったのか誰も知ることはできません」
「お姉ちゃん、泣かないで?」
「うん、ありがとう」
「弟の事だけじゃなく、あの化け物を倒してくれて本当にありがとうございました。これで怯えながら暮らさなくても済みます」
「それで~、あなた達はこれからどうするのかしら~」
「私達の村で未帰還者を待つつもりです。皆さまにも何かお礼をしたいのですが……何分襲撃からまだあまり復興もできていないもので……」
「だったらその身体で払ろうてもらおかぁ?ねーちゃん」
ビクッとしてるよう自分の身体を両手で抱きしめる仕草、クッコロさんのような表情、たまりまへんなぁ~。
ハッ!殺気!?
「なんて悪い事を言うつもりはないよ。そうだな……じゃあしん、痛い!!」
サラの殺気に気を取られていたらシェリーさんに後頭部を殴られていた。
「まだ言ってないのに!」
「あら~?何を言うつもりだったのかしら~?」
「新鮮な魚介類を獲って来てもらえないかって言おうとしたんだ!二人はどうだ?」
「もちろん、それで構わないわよ」
どうやら殺気を含む重圧も解除されたしよさそうだ。
「そんな事でいいんですか?ありがとうございます!ではさっそく獲ってきますね!」
人魚姉さんは人魚くんを連れて早速海へと飛び込んでいった。
「ゲンスイ君は良い人なのか悪い人なのか分かりにくい性格なのね~」
「自由すぎるのが玉に瑕よね」
などと不当な評価を受けた。
その後近くの海岸で野営し、海鮮焼きパーティーは大変美味しゅうございました。
こうして俺達の人魚くんを送り届ける旅は終わり、帰路に着くことになったのである。
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