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第2話

ゲンスイ君は今日も元気です。


前回のあらすじ:魔力筋を使った研究が成功したぜ!


「なんか今日は人が少ないな……」


 俺は冒険者ギルドに来ていた。素材になりそうなものを求めて定期的に冒険者ギルドへも足を運んでいるのだが、どうも今日は様子が違った。

 人が少なくて受付も誰も並んでいないため何かあったのか聞こうと思い視線をスライドさせる……



!!


――かわいい。


「こんにちは!僕ゲンスイと言います15歳です!お姉さんキレイですね!受付も暇そうだしよかったらこれから向かいにある宿屋で親睦を深めませんか?ああ、心配しなくても大丈夫、お話するだけです!多少のスキンシップはあるかもしれませんがそれはあくまで合意の上だから安心して将来の二人を…」

 逸る気持ちと焦る衝動に少しばかり早口になるのは自覚している。


「え……えと……」


 俺の男らしい肉体と心意気に見惚れたか?


「ゲンスイ! うちの新人に手を出そうなんてどういう魂胆だ?」


 受付にいたかわいい子にちょっと聞きたいことがあったので声を掛けただけなのに殺気を叩きつけながら後ろからいつものおばちゃん受付が出て来た。


「げっ! ブラムおばさ…」

「ああん?」


 蛇に睨まれた蛙の気持ちが俺には理解できた気がする。


「ブラムお姉さん。やだなぁ手を出すなんて。ちょっと聞きたいことがあっただけなんですよ?」


「ほぉ? じゃあ娘の代わりに私がゆっくり聞こうか? 向かいの宿へ行くかい? 大丈夫だよ、お話するだけなんだろぉ?」


 なん……だと……


 今、娘と言った?


 もともと高ランク冒険者で子供が出来て引退、その後ギルド職員として活躍しているこの筋肉隆々のベテランおばちゃんから、こんなかわいい娘ができるはずがない!


「今、かなり失礼なことを考えられてると思うんだが、聞いてもいいかい? 肉体言語で」


 拳をバキバキ鳴らしながら受付から出てこようとするブラムおばさん。ダメだ。受付から出しては危険が危ない!


「いやいや、いつも通り鉱物系クエストがないか聞きたかっただけだから……」

「そうかい、それならいいんだけどね。よかったよ、私だって今夜の食材が獣人族だったら献立を考え直さなきゃいけなかったからね。ハハハ!」

「ハハハ……面白い冗談ですね……」

 殺害確定後の食材予定とか怖すぎだろ!!!!笑いが渇きすぎてミイラ化するわ!



「鉱物系のクエストですね、いくつかありますよ?」

 不毛な争いに終止符を打ったのは受付嬢(娘)の一言だった。俺が求める鉱物系のクエストでも吟味が必要だから耳を傾ける。俺がちゃんと話を聞く姿勢になると受付嬢(娘)の説明が開始された。


「最近このフィアールの街の領土内にダンジョンが立て続けに見つかっているのは知っていますよね?」

 うん、知らない。ここ最近ずっと研究の為家に引き籠ってましたので。でもそんな事で話を止めるつもりはなく続きを促す。


「そのうち一つにストーンマウスを呼ばれる黒くて大きな耳のあるネズミ型の魔物が出没するようです」


 ストーンマウスは俺がこの街に来た頃に結構採取した魔物だ。材質は石と変わらない程の防御力のある体長30センチ程の魔物でこの体組織から研究していた。しかしもうそんな段階は終わったのだ。


「他には、ロックバードが観測されたダンジョンがあります」


 これももういらない。他には無いのか?という俺の思いが伝わったのか、詳しい説明をせず次の情報へと移っていく。


「あとは、ダンジョン内の宝箱が比較的鉱物系が多いというのもあります。ストーンゴーレムの出現が確認されています。未確認ですがアイアンゴーレムの目撃情報も。これは曖昧な情報のようですね。あ、でもこれはクエストにはまだ出来ないので除外ですね」


 アイアンゴーレムという単語を俺の耳は聞き逃したりしない。


「いや、そのダンジョンについて詳しく教えてくれ」


「場所は北西の、隣のアインレーベ領との境に山と谷があるエリア。ここからだとちょっと遠いですね。そこに新しいダンジョンが出来ていたようです。領土境ということもあってフィアールとアインレーベのギルドと、どちらが管轄になるのかがまだ未定なのでクエストに出来ないんです。月末のギルド会議で決定されるので、その後ウチのギルド管轄になれば内部調査クエストを出す予定ですよ」


「月末まで待ってから行くべきか、いやでも管轄が向こうになれば向こうの街まで一度いってクエストを受けてそれから探索か。いやいっそクエスト報酬は惜しいが先に行って討伐だけでもするか」


「独り言の最中声を掛けずらいのですが、クエストになっていないダンジョンはお勧めできませんよ?」


 ふと気づくと上目遣いで俺に問いかける受付嬢にドキッとしてしまった。そういえばさっき声を掛けた時拒否反応はなかったよな……この娘、もしかして……


ハッ!


 ブラムおばさんの殺気!?そんなバカな!?あいつはもう興味を無くしたように向こうのフロアに行ったはずだ。

 ってなんで戻ってきてんのー?


 ちょっと身の危険を感じる。



「そうか分かった。情報感謝する」


 俺は危険地帯であるギルドを早々にお暇することにした。


 ブラムおばさんも普段は別にいいおばちゃんなんだけどな。

 娘に手を出そうとする輩に厳しいのは分かるが、俺なら問題なしだろ?

 この理性の塊と言われる程紳士なんだからさ。




 さて、最近家で保存食ばっかりだったけどせっかく街中まで来たんだ。旨いもんでも食べよう。研究者ってのは気持ちの切り替えが大事だからな。

 自分に言い訳して俺の足が向かう先はギルドの近くにある食堂。



 カランコローンとドアを開けると鈴が鳴り来店を主に知らせる。俺はいつものカウンター席に向かいながら視線は店内をチェックする。

「あら、ゲンスイ君いらっしゃい!」

 チェックするまでもなく目的の娘は声を掛けてきてた。


「日替わり2人前で」


「はーい、いっぱい食べて大きくならなきゃね」


 注文を受けながらウインクしてくる姿にドキッとする。

 ここの店員であるシフォンちゃんは初めて会った時にもちろん口説いた。いやだって可愛いのだから仕方がない。お付き合いは出来ないけど美味しそうにご飯を食べるゲンスイ君は好きよ!って言ってくれたんだ。その時は付き合えなかったけどその後の未来は誰にも分からないだろ?俺は希望がある限り努力するタイプの人間なのだ。


 とは言え、今日もまだ子ども扱いされている感が拭えない。


 ぐぬぬぬ……と唸っていたら俺の横にシフォンちゃんが舞い降りてきて。


「はい、お待たせ!ちょっぴりお肉多めにしておいたよ!野菜も残さず食べるんだよっ!」


「はーい」


 子ども扱いされているような気がするのは気のせいかもしれないが、料理を受け取り料金を支払う。目の前に置かれた料理はとても美味しそうなので飛びつきます。頂きます。


 モグモグと咀嚼しながらついシフォンちゃんの動きを追っているのに気が付く。まぁこれは仕方ない、俺だけじゃなく他の客も似たようなもんだしな。はぁ、可愛いなぁ~。


 俺がカウンターの一番奥に座るのには理由がある。この位置からだと店内のフロアはもちろん、厨房内まで視界に収めることができる、この店唯一にして俺の頭脳が導き出した最高のシフォンちゃん鑑賞スポットなのだ。

 しかも、厨房からフロアに出るときには俺の横を通って出入りする。ちょっと手が滑ってシフォンちゃんのお尻を触った時は偶々シフォンちゃんも手が滑って俺の頬にバチーンと衝撃が走ったのだけど、手が滑ったのなら仕方ない。シフォンちゃんに悪気はないのだ。その衝撃で直前の手にあった幸せの感触が霧散したのは残念だが。


「鼻の下延ばすか食べるかどっちかに集中したら?」


 いつの間にか俺の隣の席に座っていたヤツから声を掛けられるが俺は忙しいのだ。話があるのなら暇なときに聞くから後でな。


 そんな俺の仕草がお気に召さなかったのか隣に座ったヤツが言い放った言葉は俺の耳を右から左へと流れ去ってはくれないものだった。


「アイアンゴーレム、知ってるか?」


 その言葉に理性の塊である俺がそいつの顔を見ると、よく見知った顔であることが分かった。鍛冶屋のジムだ。まぁそれよりも話の内容について聞きたいものだ。


「もちろん。それで?」

「まったく、お前の耳はゲンキンなものだ。まぁいい。これはまだ表に出ていない情報だ。どうする? 買うか? 俺とお前の仲だ、今日の俺の飯代で手を打つぜ?」


 まったく、大した考えも無いくせに頭脳派である俺に交渉を持ち込むとか、自殺願望でもあるのか?


 ヤレヤレという気持ちも出てくるが、改めてシフォンちゃんを確認する。おそらくはジムが注文したと思われる料理をシフォンちゃんのパパがほぼ作り終え今はシフォンちゃんが仕上げの作業を行っている。このことから、ジム(こいつ)の料理はもうすぐ出来上がる事が予想される。その場合、この情報を買うのならば完成し提供された時点がタイムリミットと考えるのが妥当だろう。であるならば時間的猶予はあまりない。

 さて、交渉の内容についてだ。アイアンゴーレムの話っていうのは先ほどギルドで聞いた。それ以上にこの町で情報が出回るものだろうか?しかし交渉相手のジムは鍛冶屋の主人で冒険者達との親交も厚い。ギルドへ出す情報とは別に何かある可能性は十分にあると考えるべきだ。ならば買うか。


「分かったよ。ただし、1人前だけだ」


 こいつがすでに3人前を注文していることは調査済みだ。仕上げをしている皿に乗っている量は明らかに俺が食べている2人前よりも多い!


「ケチなこと言うなよ、1年前にはいろいろ教えてやっただろう?」

 

「ふん、その時の対価はその時に支払い済みだ。今更恩着せがましい事を言われても知らんな」




「お待たせしましたー!」


 タイムリミットだ。交渉はこれまで。


 3人前はありそうな料理をシフォンちゃんがテーブルまで運んでいく。

 ……俺達のすぐそばを通って別のテーブルへ。



 それジムの注文した料理じゃなかったのかー!


 予想は外れたが再度厨房を見るともう一つ完成間近な料理を作っている。しかもさっきより多い。


「お前何人前注文したんだよ?」


「5人前だ。買うか? 当然それにみあった情報だぜ」


 なんでそんなに注文してんだよ。無駄に筋肉つけた体しやがって!


 鍛冶屋という職業柄、冒険者との親交も厚いのは分かるが果たして5人前の情報になるだろうか。そもそもギルドが公表していない時点でそれ以上の情報がどれだけあるか。ギルドに新しいダンジョンが発見されたと報告した冒険者はいるだろう。その冒険者がどれだけダンジョン内を探索するだろうか。偶然発見された場合探索の用意も無しに突撃するなんてことはあり得ない。少し様子を見るくらいはするだろうが、アイアンゴーレムなんてレアな魔物がすぐに見つかるだろうか。通常、無い。

 ということは何かあるのか。ジムの情報ってやつも多少信憑性があるのか。


「くそっ。じゃあ3人前だけな」


「ケチなこと言うなよ」




「お待たせしましたー!」


 タイムリミットだ。交渉はこれまで。

3人前分だけ小銭を用意している俺の耳に近づき、小声でとんでもないことを言いやがった。


「シフォンちゃんの前でそんなケチな事できるのか?」

 ってな。


 ふざけるな!


 俺がシフォンちゃんの前で不格好な事できるわけがないだろう!


「シフォンちゃん、こいつの飯代俺が持とう」

 努めて冷静に、それでいて懐の大きいところをアピールしながらシフォンちゃんに代金を払う。


「え? ゲンスイ君が?」

「そうか、悪いなゲンスイ!」

「ああ、気にするな。俺とお前の仲じゃないか、ハハハ」

 俺達のやり取りで俺の器のデカさを思い知ったのかシフォンちゃんはお金を受け取りいつもとは少し違う笑顔で厨房へと戻っていった。少しだけ頭に来たのでコイツの足を踏んでやる。


「いてっ! 八つ当たりは止めろ。十分見合った情報だからよ」

 じゃあその情報とやら、聞かせてもらおうじゃないか。




 何?領土境にあるダンジョンで目撃情報?それはすでに知っている。どうやら地下4階5階でストーンゴーレムが多く出現していると。地下5階にはその中にアイアンゴーレムっぽいやつがいたんだと。


「それだけだと報酬に見合った情報とは言えないんじゃないか?」


「飯代だけでこれだけ表に出てない情報となれば十分すぎると思うがな。まぁ、ここからだ。そのダンジョン地下4階から地下5階へはどうやら隠し扉があってそこからじゃないと行けないらしいぜ」


 なるほど、その情報なら見合っていると言えるかもしれない。


「その隠し扉ってのは?」

「そこまでは知らねぇよ」

「おいっ!」


 ちょっと足が滑って踵でコイツのつま先を踏んずけてやろう。

「いってっ! これだから脳筋は……。お前なぁ、よく考えろよ。お前は今の情報を買う事でシフォンちゃんに器の大きい男ってのをアピールできたろ。それに加え、地下5階まである事が事前に分かっているならば地下4階でしっかり調べればその先には行けるだろ。一応冒険者なんだろ?」


 ちょっと冒頭はよく聞こえなかったが、確かに一理ある。一応って言い方は納得しないがメインは研究者だ。まぁ許す。

 俺ほど観察力と洞察力を持った冒険者はそうはいない。隠しがあると分かっているのならば解くこともできるはずだ。今日の所はこれで良しとしておくか。


「分かったよ」


「珍しい鉱石手に入れたらウチで買い取るから持って来な」


「ああ、要らないものだけ持って行くから高値で買い取れよ」


 それだけ言うと愛しのシフォンちゃんに食事のお礼を言って、ついでにデートに誘おうとしたところで新規のお客さんが来たらしくそっちに行ってしまった。偶々タイミングが悪かったようだ。


俺はその新規の客と入れ違いに店を出た。


 ふむ、ダンジョンの隠し扉か。


いつも読んで頂きありがとうございます。


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