第28話
頭脳派脳筋は毎日更新中!
ってそろそろ宣伝しないほうがいいかもしんない。
洞窟の中は海面よりも高くなっていてそこまで必死で泳ぎ辿り着いた。
海面から洞窟の天井までは2メートル程だったが、中に入いると思ったより広いようだ。ただ周囲を見渡すが人魚くんも触手の本体も見当たらない。
「奥に入っていったってことか。急いだほうがよさそうだな」
出しっぱなしになっていたシザーアンカーを回収して再装填。服は水を吸って重たくなっていたが、動けない程ではないので先を急ぐ事にした。
奥にしばらく進むとすぐに見つけることが出来た。
「いや~食べないで~~」
という人魚くんの声に目を向けると、両手腰尾びれに絡まった触手により身動きが取れなくなっていた。その触手の本体は、タコ?いやなのか分からんが、とりあえず軟体動物の形をしていたのだが最も驚いたのはその大きさだった。
身動きできない人魚くんを口?ぽいところで食べずに舐め舐めしている。食事の前に舐めるのか?それとも獲物を甚振る習性なのか?それとも変態さんか?
どうせ触手プレイするならサラですればいいのになんて微塵も思ってないんだからねっ。
まずは人魚くんを助けなきゃな。
問答無用で両足に力を込め、駆けだすと直前で跳躍し、勢いと全体重を込めて右腕を振り抜く。デカい図体は的の大きさと同義だ。
タコの目がこちらをギロリと睨み、完全に注意が向いた。
「今だ!魚形態になれ」
人魚くんへの注意が散漫になったところで急に形態が変わり、できた隙間で何とか抜け出すことに成功した人魚くんを即回収、距離を取る。
まずは人魚くんを確保できたので最低限のミッションはクリアかな。人魚くんはもう人間形態になって俺の腰に引っ付いている。うん、戦えない。
「ベタベタする~」
といいつつ俺のマントで拭くのは止めなさい。
奪われた獲物を取り返そうとしているのか、タコから触手が延びてくるがそのすべてを拳で迎撃。だが殴った感触は柔らかく、衝撃を殺してしまう。それでも少しずつ後方へ下がりながら距離をとる。
「おやぁ?僕のバイオオクトバスちゃんの玩具を横取りかい?いけない子だね」
後方から不意に聞こえたその声に驚きながら、人魚くんを抱えて左に走る。守りながら挟み撃ちはできないととっさの判断だった。
視線を声に向けるとそこにいたのは子供だった。
だが、明らかに人外であることを物語る2本の大きなツノが頭にあり背中にはコウモリ状の羽、その下には黒く長い尻尾が見える。タキシードに似た服もこの状況では異様でしかない。
「悪魔種、か?」
「それ以外に何に見えるのかな、獣人族。殴るしか能がない獣人族には僕のバイオオクトパスちゃんの格好の餌食だ。お仕置きだよ」
いつの間にか悪魔が手に持っていた物体が赤紫色の淡い煙で見えなくなる。煙はすぐに治まったが、そこには体積を増しに増したタコ的な生物が鎮座していたのである。
どう考えても相性の悪い敵が目の前でその戦力が倍になるのを見せられ、愚痴のひとつも零したくなる。
「さて、僕はもう用事も済んだから行くがこれは手土産だよ、獣人族。君はこのバイオオクトパスちゃんとたっぷり遊んで行くといい」
またいつの間にか悪魔の手には薄く光る水晶のようなものを持っており、余裕の笑みを浮かべながら握りつぶすと鈍色に輝き、そして消えた。
光だけではなく、悪魔も一緒に。
おそらくは転移石だったのだろうと思うが、今はそれよりも敵が少なくなった事の方が重要だ。
「お兄ちゃん……怖いよ……」
今にも泣きだしそうな人魚くん。
「今日はタコ焼きパーティーにするか?」
そもそもこいつ食べれるか怪しいが少しでも人魚くんを元気づける為言ってみたが、あまり効果はないようだ。そういえばこの世界にタコ焼きも明石焼きも存在しないんだった。
じゃあこの世界にもあるタコ料理、と考えたが何も浮かばない。そして考える余裕を与えてくれない。2匹に増えたタコから触手が遠慮なくこちらに飛んでくるのだ。
腰に人魚くんがいては動き回れないので拳で迎撃するのだが、俺のパワーで殴っても軌道を逸らすだけに留まる。
元からいたほうのタコの口っぽい部分が膨らみ、直感で不味いと感じ人魚くんを抱えて走り出す。すると先程までいた所に黒い粘液がぶちまけられている。
「こういう野生の勘ってやつが働くのは獣人族のいいところだな。っと危ない」
回避した先に後から出て来たタコの触手が伸びて来たので迎撃する。
こう防戦一方じゃ厳しいが、動き回れないハンデに加え俺の最大の武器である拳による攻撃が通用しない軟体生物に打開策を巡らせる。
選択したのは魔法。
「焼きダコにしてやんよっ!」
両手に魔力を込めて炎の塊を作り出す、が投げつける前に触手が飛び込んでくる。
「ちょ!待った!」
口にしてしまったがもちろん待ってなどもらえない。慌てて魔法を中断する間もなく両の拳で迎撃した。
「お?」
炎を纏った拳に殴られた触手は解けるように崩れ落ちる。
「これは!いけるっ!俺のオリジナルスペシャル魔法やー!」
俺の拳が真っ赤に燃える!
触手を燃やせと轟き叫ぶ!
今!必殺の~
あ、名前考えなきゃ。
ある程度触手を燃やしたら本数が減ったのか口から黒い粘液を飛ばしてくるが、人魚くんを抱えて接近し炎を纏った拳で殴り続けると倒すことが出来た。
相手が一匹になったのであとは楽勝!同じ要領で倒し無事勝利!
「大丈夫だったか?」
「うん、ありがとう!」
人魚くんは安堵の表情だ。
今回も俺の頭脳によって打ち立てられた見事な戦略で勝利を納めたが、今後の課題としては必殺技っぽい名前を付けないと。
「ゲンスイさんー」
「ゲンスイ君~」
洞窟の入り口からサラとシェリさんがやって来た。と思ったらそのままサラに抱き着かれた。
「ちょ!?」
「ごめんなさい!私気が動転して。ゲンスイさんに。酷い事言った。ごめんなさい!」
「気にするな。サラのためなら何だってできる」
あれだろ?何でもするってやつだろ?酷い?とんでもない。ウフフフフフフ。
「ゲンスイさん……ありがとう」
頬を染めた表情は可愛すぎる。きっとあれだろ?あんな事やこんな事をさせられるって喜んでるな、きっと。
「急いで降りる道を探してきたけど~、もう終わったみたいね~」
「ああ、デカいタコみたいな魔物がいたんだ。それに悪魔族も」
「「悪魔族!?」」
「転移石ですぐにどっか行っちまったから何が目的なのかもよく分からんかった。用事は済んだとかなんとか言っていたが」
「人魚くんが住んでいた場所に魔物がいて~、悪魔族までいたとなると~何か良くないことがありそうね~」
緊張感のある内容なのに間延びして緩んでしまう。
「僕ここに住んでいたんじゃないよ?」
「「「え?」」」
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