第1話 導入のようなもの
始まりました新連載。
ゆるーい感じでサクサク読める感じで仕上げています。
1話あたりの文字数も控えめですので何かの合間にお召し上がりください。
「おーい、ゲンスイー」
俺が冒険者ギルドを出た所に声を掛けて来たのは、昨日パーティーを組んだリグレだ。
「ん? どうかしたか?」
「どうかしたかじゃないよ、まったく。昨日も言っただろ? 単発じゃなく俺達とパーティーを組まないかって。獣人で実力があってソロで活動してるヤツなんて滅多にいないんだ。誘うに決まってるだろ」
「ごめんね。やっぱり俺は冒険者をメインでやっていくつもりはないんだ」
「……研究ってやつか?」
相手の目を見て大きく頷く。断る以上、誠意をもって回答するのが理性ある大人の対応ってもんだろ。
「わかったよ。また良さそうなクエストがあったら誘うから、その時はよろしくな。まったく、獣人なのに研究がなんて言ってる変わり者はお前くらいなもんだよ」
俺の理性的な対応により理解を示してくれたリグレは、他のパーティーメンバーがいるギルドへと戻っていった。後半は聞かなかったことにする。
……っ!
そこに入れ替わるように一人の女性が出て来たのを見た俺は、息が止まる思いがした。いや、止まったね。何故ならばそこには、一束にまとめた長い髪を揺らし、歩く振動で胸の膨らみも揺らし、露出多めの鎧から覗くキュッと引き締まったくびれにそこから延びる曲線。飛び出た長い耳はエルフ族の証。
惚れた……
「こんにちは! 僕ゲンスイと言います15歳です! お姉さんキレイですね! よかったらこれから宿屋で親睦を深めませんか? ああ心配しなくても大丈夫お話するだけです! 多少のスキンシップはあるかもしれませんがそれはあくまで合意の上だから安心してこれから……」
「うっさい、向こう行け!」
――失恋した。
「クックック……やっぱりお前は変わったヤツだよ。獣人のくせにエルフが好きとか」
俺の恋心から失恋までの約1分間が見られていた……だと?てかリグレまだギルドに入っていなかったのか!
「バカを言うな。エルフが好きなんじゃない。美女が好きなだけだ。勘違いするな」
「余計ダメな気もするがまぁ、そういうことにしとくよ。いつかナンパが成功するといいけどな。じゃあな」
ナンパとは失礼な。俺はいつだって恋には真剣に取り組むものだと理解している。この獣人族の身体のせいでちょっと発情期みたいな発言がたまにあるが、それだけだ。
それにリグレは人族だから分からないのだろう。俺が恋をするのはビビッと来た相手だけだ。獣人族、それも狼の特徴を色濃く受け継いでいる俺の肉体には雄を求める雌の匂いが分かるのだよ。
そういう相手にビビっと来るのだから両想いになるのは当たり前だろう。偶々、今回は失敗したが偶々のタマタマだ。
失恋したことはショックだったが気持ちを切り替えて立ち上がり、必要なものを購入して街はずれにある俺の家に着くと、購入してきた素材と共に昨日のクエスト報酬を研究台に広げて研究を続ける。
そもそも俺は転生者だ。転生先でどんなことをしたいか聞かれた時に頭脳戦ができる元帥になりたいと言ったのがいけなかったらしい。産まれて来た俺に親はゲンスイと名付けた。
これで転生神は俺の願いを叶えたことにしたのだ。
この事実を理解した時、転生神への怒りボルテージは80%を超えた。
そもそも頭脳戦がしたいって希望なのに転生した身体は獣人だった。同族はみんな程度の差はあれど脳筋。俺だけが理性的だったのだ。しかし理性の塊である俺だって肉体的衝動に逆らえないこともある。難しく深く考えようとしたらめんどくさくなって力押しで解決しようとする、そんな種族だったのだ。
転生神からしたら頭脳戦をしたいならどの種族でも勝手にすればいいということなんだろう。
この事実を理解した時、転生神への怒りボルテージは100%を超えた。
家を継がそうとする親と研究をしたい俺は折り合うはずもなく、結局は家を捨て二年前に人族の街の一角で研究を始めた。転生前の肉体を遥かに凌駕する獣人族の肉体は、冒険者として活動するのにはありがたい物だった。そこで資金を貯め素材を集め研究を続けている、というわけだ。
前世は頭脳労働ばかりだったし今でもこうして研究をしているのは楽しい。この肉体が極度に集中するのが苦手な体質だったとしても、だ。
ましてこの世界にはファンタジーに溢れている。研究に飽きる事なんてないのだ。
◇
何の研究をしているかって?
それはどこにも漏らす事を許されない禁断の研究だ。
素材が集まり研究を続けて15日、夜しか寝れない程頑張って研究を続け遂に!
……遂に完成してしまった。
俺の研究成果……その名も――
『ライトウェポン1号』
俺はさっそくそれを両腕に装備して家の裏にある岩場へと向かう。
丁度3メートルはあろうかという巨石があったのでそれをターゲットとする。ターゲットの目の前で肩幅に足を開き腰を落として、籠手の見た目をしたライトウェポン1号に気合と魔力を右拳に込め――
「おりゃあああああ」
発声と共に繰り出した正拳突きは、見事に目標に命中―。直後には真っ二つに割れ、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「よっしゃ~~~~~~~~!!!!!」
見事に予想通りの研究成果に思わず叫んでいた。
研究内容の詳細は後ほど。
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