第18話
頭脳派脳筋は毎日更新継続中!
前回に引き続き、移動回。
翌朝の事だった。
テントも浴槽も撤収し俺達は朝食を食べていると声がした。
食事中でも当然に周囲はある程度警戒していたが、不審者も魔獣の気配もない。
それでもどこかからした声を探しているとさっきよりもはっきりと声がした。
「お腹すいた…」と。
声のしたほうを二人で様子を探ると、俺達の馬車しかない。馬車の死角を調べても何もなかったのだが、声の主は荷台の中だった。
荷台の中に積んである浴槽の中からひょっこり顔を出していたのだ。
「人魚ちゃん、気が付いた?」
「うん、助けてくれてありがとうお腹すいた…」
「どういたしまして。でも人魚って何を食べるんだ?」
聞くと人族と同じもので問題ないらしい。そしてとても空腹らしい。浴槽の中を見ると、そこには見事に上半身は人で下半身は魚という、まぁいたって想像通りの人魚さんがいた。
浴槽から顔を出している人魚さんは、青っぽい銀髪で幼くも端正な顔をしており外国映画の子役かな?と思えるような見た目だ。
俺達と同じ朝食をもう一人前サクッと作っていると、人魚ちゃんは浴槽から自力で出てきたようで素っ裸の子供がフラフラと歩いている。どうやら男の子だったようだ。見た目だと人族感覚で5歳くらいだろうか。ただ、そのままこっちに来て焚火にあたらすのもどうかと思い、慌てて布を浴槽の水で湿らせ人魚くんに巻き付けて適当な岩に座らせた。
簡単な朝食だったがしっかりと食べていたので少し安心した。
「名前を聞いてもいいかい?」
「名前ってなに?」
おっと、それは予想していなかった。
「君の事、何て呼んだらいいかな?」
「……わかんない」
記憶喪失?
という単語が俺の頭に浮かぶ。
サラを見ると同じ事を考えているようだ。
「君は一昨日フィアールの街の近くの街道で倒れたんだよ。何があったの?」
「……わかんない」
「じゃあお父さんやお母さんは?」
優しく聞いたのに両親を思い出したのか半泣きになった。
「逸れちゃったのね。でも大丈夫よ、私達が一緒に探してあげるから元気だして」
「ほんと?お姉ちゃんありがとぉ」
素直な子らしい。それはいい事なんだが、何があったのかさっぱり分からない。ただ、その後確認の為住んでいたのは海か?と聞くと海だったので予定通りベラスカ方面へ行くようにした。
食休みと野営の片づけを終え、人魚くんは浴槽に、俺達は御者台に座り移動中ゆっくり話を聞くことにして俺達は出発した。
人魚くんについて、とても時間がかかったが聞き出せた事がいくつかあった。
まず名前についてだがどうやら人魚は念話みたいな方法で音声を使わずにコミュニケーションが取れるらしい。そのため誰が誰に話しているのかは感覚で分かるため名前という概念がない、ということだ。それが子供だけに限るのか人魚という種族全部の事なのかまでは不明。
また、なぜ海から遠いフィアール領にいたのかだが、どうやら転移石もしくは転移の魔法ではないかという事だ。何故ならば海岸にいたはずなのに気が付いたらいつの間にか林にいたらしいからだ。通常あり得ないことはこの世界独特の不思議パワーが働いたと考えるのが妥当だろう。
ちなみに、転移魔法というものは俺達も存在は知っている。が、古代魔法の一種で現在それを扱える人はほぼいないはずだ。また転移石も古代文明遺跡で稀に発見されることはあるが、凄まじく貴重なため持っているのは王族とかが少量持っている程度のはずだ。
しかし俺達は転移石や転移魔法陣を使ったことがある。それはダンジョンによっては最奥の部屋にそれが設置されていることがあるからだ。もっともその場合の転移石や魔法陣は設置型のため持ち帰ったりはできない。
そして海岸にいた人魚くんが何をしていたかというと、魔獣の群れに襲われ皆で逃げていたというのだ。
「これは結構世界的に重大なことかもしれないな」
「世界的?」
「そうだ。魔獣が転移魔法や道具を使えるなんて聞いたこともない。ならばそれらを使ったのは別の何かということになる」
「そうね」
「それが魔獣が襲ってきたタイミングで行われたということは、魔獣を指揮していたとか操っていたということになる。じゃあそんな事が出来るヤツってなんだ?魔獣の群れをテイムできる存在なんて聞いたこともない」
「すごい、ゲンスイさんが理論的な事を言っている」
「サラ、君は俺の事をどう思っているのかじっくり聞きたいな。小一時間聞きたいな」
「感心しているだけよ。それで?」
「少々戦闘力が高くてもそれで魔獣をテイムなんて普通は出来ないのだから、普通じゃないものが動いていると考えるのが妥当だろ?世界的にも重大な事かもしれないと言ったのはそういうことだよ」
なぜか今までよりもずっと敬意の視線を感じる。俺はいつも通りなのに。
「だがそれだけの魔獣が動いていたのならば近くの街ならば何か情報があるだろう。つまり人魚くんを転移前の場所へ連れて行くのは思ったより簡単かもしれないという事だ。ここまで推理できる俺は流石にすごいと思う」
「最後の一言が無ければそう思っていたわ」
謎の一言がサラから告げられた。
それが分かったところで俺達の行動方針が変わらないので、一路ベラスカを目指す。旅は順調であったが俺としては初日の夜みたいなことが出来なくなったのだけが残念だった。
ベラスカの街に辿り着いたのはフィアールの街を出発して12日目の事だった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
むふふ展開ができません。人魚くんめっ!
そんな人魚くんを討伐する話を支援して頂ける方はぜひともブクマ評価支援お願いしますだ(ゲス




