第9話
これからも毎日更新継続がんばります!
前回のあらすじ:ダンジョン地下5階最奥でミスリルインゴットを手に入れた!
「間違いない、地下3階から地下4階に降りて来たフロアだ」
そういいながら俺の目線の先にはストーンゴーレムの大群が迷宮を作って座っている光景が広がる。
「まさか隠し通路があったなんてね」
そうなのだ。ここの階段裏にも分かりにくいが隠し通路があったのだ。
「どうしたの?顔色悪いわよ?」
「いや、何でもないよ。行こうか」
そう、俺はこの情報を知っていた。いや、ただ知っていただけじゃない。買ったのだ。3倍の金額を吹っ掛けられて。ただ、隠し通路があるというだけの情報だったが、情報源だってよく考えたらあのストーンゴーレムがたくさんいるどでかいフロアで隠し通路なんて探せないだろう。おそらく普通にここまで来てこのフロアを探索、そして見つけたんだろう。
俺は情報源について納得すると同時に情報戦で負けたような気持になっていた。
「でもよかったわ、帰りもあのストーンゴーレムの大群を相手にしないといけないと思っていたから助かったもの。もう回復薬とか使い切っていたのよね」
確かにそうなのだ。俺だって回復薬はもうない。今度は二人で挑めるとはいえ、ちょっと賭けになりそうではあったのだ。
「そうだね」
とだけ返事をして階段を上った。
帰り道はマッピングしていたこともあり迷うことは無かったし敵も脅威になるものはいなかった。そのためいろいろな事を考えてしまう。
俺があれこれ考えながら進んでいることはサラも感づいていただろうが研究者として思考を放棄できなかった。
そう、サラのことだ。
初めて会った時はストーンゴーレムの大群と戦闘中だった。サラは主にその驚異的な素早さを生かして戦うタイプなので数による力押しは大変だったはずだ。だから無理な体制からの攻撃や回避も度々あった。それに地下5階ではアイアンゴーレム戦があった。十分とはいえないまでも戦うためのスペースが確保されている場所でサラは飛んだり跳ねたり走ったりかなり動き回っていたのだ。
なのに……
ミニスカートが捲れないのはなぜだ!!!
素材が特殊……という線はなさそうだ。見た目、フィアールの街でもよく見かける素材だ。
それに普段歩く時だってその揺れ具合は普通の服だ。なのにあれだけ動き回って捲れないはずがない。そうだ、サラは戦闘中蹴りだってしていた。もちろん俺が蹴られるわけじゃないので角度的に中は見えないのだが。
ん? 待てよ? 蹴られる位置からなら流石に中が見えるんじゃないか?
そりゃそうだろう。それで見えないのなら物理法則を改ざんでもしていることになるのだから。
だったら簡単だ。
やっと解決策が見つかった!
「なぁ、サラ。俺を蹴ってくれないか?」
「は?」
「いや、そんな難しい顔をしないでくれ。研究のため、引いては人類の為だ。君も研究者なら分かるだろう?」
そう、これはあくまで、魔力筋がらみの研究ではないが、ミニスカートの研究だ。知的好奇心のためだ。 決して中が見たいわけじゃない!知っての通り俺は理性の塊だ。
そんな不埒な事はこれっぽっちも考えていないのだ。ただ、そのミニスカートの謎の為、ひいては人類の為だ!
最初は冷たい目で見られたような気もするが俺の研究熱意に負けたのか、ファイティングポーズを取ってくれた。
「よく分からないけど、蹴ればいいのね?」
サラの蹴りは驚くほど鋭い。そりゃ魔力筋を使っているのだ。獣人族の俺よりも速い蹴りを放つ。
だが俺が無策で危険を冒すと思うか?研究者は常に安全に留意して実験を行うものなのだよ。
つまり!顔を蹴るのであれば最初からガードしておけばいい。
どんなに強い蹴りであろうがガードする俺の腕にあるのもまた魔力筋を使った手甲なのだ。そして獣人族の身体能力の高さがあれば防御しておけばダメージも大したことは無い。
「ああ、手加減無用で頼む」
俺はボクサーのようにガードを固め、それでいて視線は観測対象である絶対領域の上、ミニスカートに釘付けになる。
「えいっ!」
サラの右足から放たれた常人では反応出来ないような蹴りが俺のガードの下、腹に突き刺さっていた。そして蹴りの最中からその後までミニスカートの中は俺の視界に収まることもなく、意識を手放す羽目になったのだった。
◇
「気付いた?」
頭の後ろに柔らかい感触を味わいながら目を開けるとサラの顔が至近距離にあった。
これは……まさか膝枕!?
そういえばここはまだダンジョン内だ。硬い地面に直接寝かせることも出来たはずなのにわざわざ俺を気遣ってくれたサラの事が更に愛おしくなって飛びついた!
「び、、びっくりするじゃない」
飛びついた俺の両手は見事に空を切りサラは飛びのいていた。
抱きしめる事が出来なかったのは非常に不本意ながら、現状を改めて確認。
すると腹の痛みが全くなかった。触ってみてもその痕跡もなかったのだ。
「あれ?」
「頼まれたとはいえケガさせたのは私だし、その、ちゃんと手当したから大丈夫だとは思うけど、その、ごめんね」
「回復魔法……?」
「一応これでもエルフなのよ。一通りの魔法は使えるわ。近接戦闘中は無理だけど」
確かに、接近戦の最中に魔力を制御しつつイメージを整え対象と範囲と制限を決めながら行使するのは至難の業だ。それでも、エンカウントの可能性のあるダンジョンでこうして俺の為に回復魔法を使ってくれたことに感謝する。
「ありがとう」
結局ミニスカートの謎は謎のままだが、膝枕というご褒美があったので今はお預けでいいと思えた。
「それで?研究とやらはどうだったの?」
「成功しなかった……」
「そうなの? もう一回する?」
俺は先ほどの腹部の激痛を思い出し慌ててそれを断った。
サラの蹴りの威力は俺の魂に刻まれてしまったのだ……。
その後もどんな研究で何のために蹴りが必要だったのかしつこく聞かれたが曖昧に有耶無耶にフワッと暈して追及を逃れた。
ちょっとトラブルもあったが俺達はダンジョンを抜ける事が出来た。
ダンジョンを出ると丁度朝日が昇っていた。俺達は何日も薄暗いダンジョンの中にいたのでその眩しさに目を細めた。
今回の探索はかなり有意義なものだったと言える。
「サラ、これからどうするんだ?」
「私はアインレーベを拠点にしているの。今回手に入れた素材はきっと研究をずっと進めるものになるわ」
そうだろう。俺もそう思う。だけどこのまま別れたくない。
「サラ、俺と一緒に住まないか?」
「!!!?」
サラの反応は無言だった。あれ? ダメか? いやまぁその、言い方が悪かった?
「その、なんだ勘違いするなよ。俺はただその同じ転生者として一緒にいたほうが何かと都合もいいだろうし研究だってほら同じ内容の事をしているんだからお互いで協力すればその……」
なんだか女を口説く時にみたいに早口になっているような気がするが、何を言っているのか自分でもよく分からなくなってきた。
ーーそして考えるのをやめた。
「お前が好きだ!だから一緒にいよう!」
ゲンスイ君は考えなければ男前なのかもしれません。
いつも最後まで読んで頂きありがとうございます。
ダンジョンも終わり一段落。このあたりでひとつ、評価などいかがでしょうか。




